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年末年始

ローラは帰ってきた俺に抱きついて泣きじゃくっていた。

俺もまさかここまでボロボロになるとは思っていなかったわけではある。

「もう離してやらないんだから。」

ローラが泣きながらでも看病してくれるのは嬉しいんだけれど。


「いやっ、包帯を巻き替えてくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと痛いかな。」

「それくらい我慢しなさい。」

「えっ?あっ、いたっ!いててて。」

「ふえん、私のこと嫌いになっちゃう?」

「そんなことないけど、あっいたた。」

「やっぱり私、看病が下手なのかな。」

「大丈夫だよ。ローラ、こっちに来て。頭をなでなでしてあげる。」

その間に侍女さんが素早く包帯の交換を済ませてくれたりするのである。


これまで第一王女として蝶よ花よって育てられてきたお姫様である。そんなに何でもかんでもできるわけないのである。ロドリーゴ大使もローラのいないところではそんなことを言う。俺だってそれはわかっている。なので侍女達に生暖かい目で見られながらもローラを甘やかせ続けている。


結局、俺がベッドから起き上がれたのはもう年末も押し迫った頃だった。清子も勝太郎も年末年始は実家に帰っている。勝太郎は相変わらずルシーダ姫とは付き合っていないと言いながら一緒に実家に連れて帰っているようである。

付き合っていない女を実家に連れて行くわきゃないわよねえって清子は言うけれど、勝太郎は何を考えているかわからない。


ローラは一度妊婦健診に行って問題なく赤ちゃんが育っていると聞かされたらしく嬉しそうにしていた。俺が見てもそれほど違いがあるようには見えないけれどお腹が大きくなってきたらしい。胸も張ってきていると言うが俺にわかるのはそばかすがちょっと増えたかなというくらいである。けれどもそんなことを言うとローラの乙女心を刺激しかねないので黙っている。つわりはおさまってきているらしくなんでも食べられるようになったと言っている。


年末に瑠美が来た。年越しそばを持ってきてくれたのである。久しぶりに見る瑠美の顔にちょっと安堵してしまう。

瑠美は「怪我は大丈夫なの?」と心配そうに俺に聞く。

「やっと立って歩けるようになったからリハビリだな。」

「それなら初詣に行く?」

「そりゃ構わないけど、ローラも行くって言うぞ。」

「それはもちろん構わないけれど、私が二人を見られるかしら。」


もちろんローラは行くと言うのでいつものように大使館の車を出してもらい、ローラには侍女についてもらうことにした。

その後はローラの妊娠の話や受験の話などもした。

瑠美は裏のダンジョンで清子に鍛えてもらっていたので、随分自信が出てきていた様子だった。

なんだか仲直りできたことにちょっと安心したのである。


夕方には「勝ばた」からお節が届いた。

ローラや侍女達はお重を見て、その中も「きれい」と言うのである。勝ばたのお節は味だけでなく見た目にもこだわっているのである。

「こんなにきれいな料理を食べるのはもったいないわね。」と言いながら結構しっかり食べた俺たちはその後も楽しい時間を過ごした。

年越しそばを食べた後はローラと瑠美が一緒に寝ると言うので俺は久しぶりに一人で寝ることになったがこういう年末もいいものだと思いながらいつのまにか眠ってしまった。


朝は早めに目が覚めた。

鈍ってしまった体をほぐしていると瑠美も起きてきたようである。

「明けましておめでとうございます。」

瑠美が丁寧に新年の挨拶をしてきた。

「あけましておめでとう。今年もよろしく。」

俺がそう返すと瑠美は「じゃあお雑煮を作ってきますね。」とちょっと腕まくりする感じである。

「あ、ローラ達はお餅には慣れていないから餅は細かく切ってあげてほしい。」

「うふふっ。わかりました。」

瑠美はそう言うとトテトテとキッチンの方に向かっていった。

少しすると白味噌のいい香りが漂ってきた。


みんなが起きてくると、瑠美が「さあお雑煮はできていますよ。」ってお正月用のちょっと高級な輪島塗のお椀にお雑煮を入れたものを運んできた。

お願いしたとおりお餅は小さく刻まれていたのでローラ達も安全に食べられるだろう。

「熱いから慌てて食べないでね。よく冷ましてからでいいからね。」

俺はローラ達にスプーンとフォークを渡した。

けれど、俺と瑠美が祝い箸を使っているのを見てローラはこっそりと瑠美にお箸の使い方を聞いているみたいだ。


その後は瑠美が着替えに戻ると言うことなので後で車で迎えに行くということになった。

瑠美が帰った後は静かになったのでローラと二人で過ごした。お昼前に大使館の車が来たのでまずはロドリーゴ大使のところにご挨拶に行った。

大使館の建物が一部出来上がったので大使ご夫妻は新しい建物に引っ越されたらしい。これを機にご夫人もこちらに呼び寄せたということである。


ご夫妻とは終始和やかに会話したが、お別れする時に「女王陛下は先日の海崎様のご活躍を大変評価されておりましたのよ。またお城に呼ばれることもありましょうがぜひ行ってあげてくださいね。」とロドリーゴ夫人に言われた時には少し肝が冷えたのである。


大使夫妻とお別れして師匠の道場に行った。

満身創痍の状態からは少し回復していたがそれでもボロボロの俺を見て師匠は泣きそうになっている。

「いや、手足を吹っ飛ばされるかという覚悟はしたのですが五体満足で帰ってこれたので。」と元気アピールをするが師匠の目には光るものがある。

師匠に泣かれてはとんだ愁嘆場になってしまうので俺は奥に行って瑠美を呼んだ。

「健斗、ちょっと待ってよ。」と言いながら出てきた瑠美は美しい蝶々の柄の入った振袖を着て現れた。

ローラが「きれい」と呟いている。

「おっこれは写真を撮らないとな。」

そう言って師匠は一眼レフの大きなカメラを持ち出してきて俺と瑠美、それにローラの写真を撮ってくれたのである。

「瑠美も反抗期だからなかなか写真を撮らせてくれなくなったからなあ。」と師匠はしみじみいう。

「お父さん?変なこと言わないで!」と瑠美に怒られながら「うんうん」と呟いていた。

俺も赤ちゃんが産まれたらあんな親バカになるのかもしれない。

少しほっこりしていたら瑠美が俺の手を取って「さあ初詣に行くわよ。お父さんったら変なことばかり言うから付き合っていられないわ!」と言って外に出て行こうとする。

俺は苦笑している師匠に頭を下げて挨拶すると外に出た。


待機してくれていた大使館の車に乗り込む。

運転手さんに「お待たせしました。」と言うと「ああ、お気になさらずに。」と言ってくれた。


車で神社に向かう。夏祭りの時に行った神社である。

麓に着いたとき、瑠美は「ここで止めて」と言う。「どうしたの?」と聞くと健斗はリハビリで階段を登れと言ってきた。自分も降りて俺に付き合うらしい。

ローラは妊婦なので上まで車でゆく。

ローラは「いいわよ。旦那様、瑠美ちゃんと頑張っていらっしゃい。」と涼しい顔をして言う。

おい、俺は数日前に起きたばかりだぞ。

けれどもニコニコしている二人の嫁の圧に耐えきれなかった俺は渋々車を降りた。

「一緒についててあげるからさあ登りましょ。」

瑠美は俺の手を握ったので手を繋いで二人で一段づつ階段を登ってゆく。

半分くらい登ったところで俺はへばりそうになってきたので必死で魔力を体の中で循環させて耐え忍んだ。


やっとのことで階段を登り終えるとローラが待っていた。

「できたじゃない。」

ローラはホッとしたような表情を浮かべた。

「ご褒美のキスをあげましょうか」

瑠美がイタズラっぽく言う。

二年参りの参拝客はもう帰っただろうが、それでもまだまだ多くの参拝客がいるところでキスなんてとんでもない。俺はありがたく断ったわけである。

それからみんなでお参りを済ませておみくじを引いた。ローラも瑠美も大吉だったようだ。お互いにこれで瑠美も合格間違いなしね、とかローラは安産だよとか言い合っている。

俺は末吉だったのでこっそりとおみくじをみんなが結えつけている紐に括り付けたのだった。

その後は俺が瑠美に「学業成就」のお守りを、ローラには「安産祈願」のお守りを買ってあげた。

帰りも車で瑠美の家に送ったが瑠美は車から出る時に俺にお守りを一つ押し付けて「無茶しないでね。」と言って家に入って行った。

お守りには「健康守」と刺繍されていた。

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