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嫉妬

俺は刀でそのエビを切った………筈だった。

けれども俺の刀はゴンという鈍い音を立てて跳ね返されてしまった。

俺は思わず息を呑んだ。

エビ野郎はエビらしく無表情のままそのハサミを振り上げている。きっと俺を威嚇しているのだろう。


後ろからオーセの声が聞こえた。

「健斗様、アウタープレーンは精神力の強さが攻撃力になります。もっと意識を強く持ってください。ローラさんを助けるぞ!と強く念じて!」

俺は必死でローラを助けるぞと念じた。すると俺の刀は赤く輝き始めてほのおを吹き上げ始めた。

「もっと、もっと強く念じて。」

俺の刀は少しずつほのおを高く吹き上げたのである。

そのまま刀をエビ野郎にぶつけると、エビ野郎は「ウオオオン」というような声?を上げると一歩後ろに後ずさった。

後ろでぶつぶつとつぶやく声が聞こえた。

「くそっ、猫女め、健斗様の子を妊娠するなんて羨ましい!私も早く妊娠したいのに!」

その時、グオオという炎の熱気を感じた。恐らくは10mくらいはある青白い炎がエビ野郎の片方のハサミを消し飛ばした。

「清子、何なのそれ?」

「嫉妬よ。」

「は?」

「そこで太平楽に寝ている猫女よ。私が必死で助けに来たのに。機嫌良く健斗様の子供を妊娠しているなんて羨ましすぎるじゃない!」

意味がわからない。清子は何をいっているんだ?

俺は何も言い返せない。

「何でこいつだけが健斗様と同棲が許されて私が寮生活なのよ!」

「私だって健斗様と一緒に暮らしたいじゃない!」

「早く妊娠だってしたいじゃない!」

「何で健斗様は私に手を出さずに猫女に手を出しているのよ!」

彼女が叫ぶたび剣の炎の勢いが増してゆく。

清子はその勢いでエビ野郎のもう片方のハサミも切り飛ばした。ついでに尻尾の部分も両断して弾き飛ばした。


勝負が決まったか?

そう思った瞬間、エビのハサミが両側ともドンと生えてきたし尻尾も再び生えてきた。


再生力が早すぎる。

俺の心は震えたが清子は「しゃらくせえ」と一言残すとエビの体を切り刻み始めた。

清子がエビの体を切り飛ばすたびにその体が再生されてゆくというとんでもない千日手が始まってしまった。


オーセももう何も口出すことができずにただ震えながらその壮大に無駄な千日手の戦いを見つめているだけだった。


俺はこのエビが無限に再生する理由を知るために鑑定をかけた。というよりも他にやることもないのである。


ホロゴン アウタープレーンの怪生物 体表からエネルギーを吸収することで無限に再生できる。


無限に再生だって?

よく見るとこのエビ、ホロゴンの体表にはものすごいエネルギーの渦ができており、そこからエネルギーが吸収されて行っている。

今は清子がものすごい勢いで斬りまくっているので再生のためのエネルギー吸収を全力で行っているのだろう。それで体表でのエネルギーが渦巻いてしまったということだと思う。


そのエネルギー吸収を止めてしまえばホロゴンは倒せるのではないか。


俺は清子に一旦退がれと声をかけた。

清子は俺のもとにやってきた。

「どうしましたか?」

「ああ。あのエビくんが外表からエネルギーをものすごい勢いで吸収しているのが見える?」

清子は魔力も高い方なので魔力の吸収が見えるようである。

「本当ですね。」

「おそらくあのエネルギーの吸収を止めないといつまで経っても決着はつかないよ。」

「私の『嫉妬』エネルギーはまだまだありますが、相手が無限に回復するのなら困りますわ。」


ホロゴンは清子に切られた部分の再生を終えつつある。

「俺はあの殻にファイアストームを放ってエネルギーの吸収を止めようと思う。」

「ええ。」


俺はあのホロゴンの殻の部分にダメージが当たるようにファイアストームを唱えた。

炎の嵐がホロゴンの全身を覆う。

あの硬い殻が真っ赤に熱せられているが、まだエネルギーの流入は止まらない。

「スプラッシュウオーター!」

清子の魔法が重ねられる。

真っ赤に熱せられたホロゴンの殻に冷水が浴びせられた。

水蒸気がもうもうと立ち上った。


水蒸気が晴れると、ホロゴンの動きは止まっている。

よく見るとホロゴンの殻には細かいヒビが入っている。エネルギーの動きは見られないようである。

俺は近づくと、ホロゴンの様子を見た。

どう見ても生命の兆候は見られない。蹴飛ばしてみても反応していないようである。


「どう?」

清子が俺に聞いてきた。

「多分、やっつけたかな。」


清子も恐る恐るホロゴンに近づいてなんだかあちこちを突いている様子である。

俺はとりあえずホロゴンの死体をマジックバッグに放り込むことにした。


俺はローラの体を横抱きにした。

オーセはなんとか逃げずに残っていたようである。

「アウタープレーンの化け物を退治するなんてやっぱりあなたは魔王軍のエースになるべき存在だと思うわ。」

オーセは能天気なことを言っていた。

彼女は機嫌よくゲートを開けてくれたので俺たちは六道の辻に戻ってくることができた。


ローラは眠ったままである。

「どうしよう。」

オーセは「とりあえず高校に戻るべきね。京都市内には大きな病院はあるけれど、ローラを連れて行ったら漏らさなくてもいい秘密が全部バレてしまうわよ。」という。

四条でタクシーを拾ってJR京都駅まで戻った。

そのまま特急で高校まで戻ることにしたのである。

ローラを抱いている俺に清子はちょっとプンとむくれていたが、こればかりは仕方がない。

オーセが早川先生として学校に連絡してくれていたので、駅には校長が運転手付きの車で迎えにきてくれていた。

校長によると、秘密保持のために、今から舞鶴の自衛隊病院に行って参加検診を受けさせるらしい。

オーセと清子はそのまま学校に戻ることになった。


名前 ローラ・ハルシュタット 種族 猫獣人 レベル33 HP266/266 MP165/165 スキル 短剣術Lv.8 剣術Lv.2 短弓術Lv.5 俊敏性Lv.4 宮廷作法Lv.3 言語理解Lv.4 称号 第一王女、二刀流短剣術の達人、海崎健斗の番、鬼退治、龍退治の英雄、妊娠中、アウタープレーンからの生還者


名前 海崎 健斗 種族 人間 レベル35 HP211/211 MP2560/2560 スキル 刀術Lv.9 剣術Lv.5 槍術Lv.3 鑑定Lv.4 言語理解Lv.3 探索Lv.3 火魔法Lv.10 風魔法Lv.3 称号 慈恩流免許皆伝、火妖精との契約者、ローラ王女の番、鴉天狗、火魔法の達人、鬼退治、龍退治の英雄、アウタープレーンからの生還者


鑑定をかけた結果では確かにローラは妊娠しているようである。

俺の方はレベル35に到達したようである。


目を覚さないローラを抱きながら俺は不安を押し殺して車で病院に向かったのである。


病院に着いた時にはもう夕方である。

外来は閉じているので時間外の入り口から入った。


看護師さんがストレッチャーを押してきたので俺はローラをそこに横たえた。

帽子が外れていてローラの猫の耳が思いっきり見えてしまっている。


俺は驚愕して看護師さんを見たが、彼女は能面のように無表情だった。

「この方はずっと眠っておられるのですか?」

「あ、ローラと言います。昼頃に発見した時から眠ったままです。」

すると看護師さんは「ローラさん、わかりますか?」と大声で呼びかけ始めた。

ローラは「ふう」と息を吐いて声が聞こえないように寝返りを打った。

何度も声掛けをしたがローラは起きる気配がない。


すると、看護師さんはローラのどこかをピッとつねったようだった。

その途端「ふぎゃふぎゃ、痛っ!なっなによ!」と叫んでローラは大いに暴れて目を覚ました。


「あなた、ローラさん?」

看護師さんは冷静に問いかけた。

「はっ、はい。そうですけれど。」

「今日は何日かわかる?」

「えっと、11月のX日でしたっけ。」

淡々と問い続けるローラに俺は後ろから微笑みかけた。

「おはよう、ローラ。目を覚ましたんだね。」

「健斗。ここはどこなの?」

「心配しなくていいよ。ここは病院だから。」


問診票を記入して診察室に呼ばれると、中には白衣を引っ掛けた女医さんがいた。

「あなたがローラ・ハルシュタットさん?」

「はい。」

ローラがハキハキと答えた。

「で、君が旦那さんでいいのかな?名前は?」

「海崎健斗です。」

「ふん。じゃあ今からエコー検査をするけれど海崎君はそばにいて構わないかね。」

ローラは頷く。

「私も獣人のエコーなんて初めてだよ。」

先生はそう言いながらローラにカーテンで仕切られたベッドに横たわるように指示した。


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