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追跡

オーセはガクガクと首を横に振った。

「ち、違うから。私はあんな奴知らない。」

ふと見ると俺の拳はグッと握りしめられていたためか爪が手のひらに食い込んでそこから血が流れていた。


「じゃあ何を知っている?全部話せ。」

俺はオーセに詰め寄った。

「私達も魔王を勇者に打ち倒されてアウタープレーンに追放されていたことは事実よ。ダンジョンはこの世界、インナープレーンとアウタープレーンを繋ぐものと言える。」

俺にはよくわからない話である。

「もう少し簡潔にいって。」

「わかったわ。とにかくそこは地獄みたいに奇妙なモンスターに溢れていたの。そこを生き延びた私はやっとのことでダンジョンに帰ってきたの。カエはこの世界で眠らせていた子よ。」

「そんなことはどうでもいいんだ。どうやったらローラを助けにいけるんだ。」

「あっそのことね。アウタープレーンとインナープレーンはゲートで繋がっているの。向こうからは見えるのだけれど。それを見つけ出して開くしかないでしょうね。」

「どうやって見つける?」

「ああ、魔王様か勇者様じゃないとわからないんじゃないかな。まず魔王復活を試みてみるとか?」

「は?今すぐできるのか?」

「それはその。今やっているところというか。」


その時魔道トランシーバーがシグナルを受けた。

「健斗、ローラの調子はどう?」

清子からだった。

「ローラが攫われた。」

「は?」

清子は絶句したがすぐに言葉を続けた。

「それで誰に攫われたの?」

「わからない。エビみたいなモンスターが空間の穴からローラを引き摺り込んで。」

「斎藤先輩に言ってすぐにそっちに行く。保健室でいいのね。」

「うん」


トランシーバーの通信が切れるとオーセは「えーっと、私もそろそろお暇してもいいかしら。」と言う。

俺が睨みつけると「そうよね。仕方ないわね。ここにいるわ。」と言って先生用の椅子に座った。


ややあって清子が保健室に駆け込んできた。

俺とサッキュバスがいるのを呆然と見つめている。

「こいつ?横田先輩?」

「いや、ダンジョンの底にいた方だ。」

「やっていいかしら。」


そう言うやりとりを聞いたサッキュバスは「待って待って。私はローラの誘拐には関わっていないわよ。全くの無関係。」

「は?じゃあどうしてここにいるのよ。」

「あー、ローラ王女が妊娠したのを機に健斗君を魔王軍にスカウトしようと思って。」

「は?ローラが妊娠?」

清子の手から刀がポロリと落ちた。

清子は俺の方に向くと「このクズ男!」と吐き捨てるように言った。

だってしようがないじゃない。

もちろんこんなことを口に出すと清子の怒りがどこに吹き出すかわからない。

俺はまるで彫像であるかのようにすんと表情を消して立ち尽くしたのである。


反応しない俺から視線を外した清子は目にも止まらぬ速さで小太刀を抜くとオーセの首筋に突きつけ、「で、ローラはどこにいったのよ!助ける方法は?」と矢継ぎ早に尋ねた。

オーセは「あのー暴力反対、戦争反対なんです。」と言うが清子は「このまま切っちゃいましょうか?」と言って小太刀の切先をオーセの首にプツリと突き立てようとした。

オーセは「は、はいはい。なんでもお答えします。多分ローラさんはアウタープレーンに連れてゆかれたので助けるためにはゲートを見つけることが必要です。」と一切の息継ぎなしに答えた。


「そう言えばこの魔道トランシーバーってその人の位置を探索者アプリに展開できた筈よね。」

清子がそう言ったことで俺もその機能を思い出した。慌てて携帯を取り出して探索モードにしてトランシーバーと接続する。

すると四つのトランシーバーの位置はこの高校近辺にあったが、ローラのトランシーバーだけはもっと南の亀岡辺りにあってさらに南下している様子である。

「あのお、異次元のトランシーバーの位置を無理やり三次元空間に投影して何の意味がある……ひっ、すいません。」

それなりに妥当なことを言いかけたオーセであったが清子に睨みつけられて口を閉じた。

「確かにこれが正しいかはわからない。けれども今はこれしか手掛かりがないんだ。」

清子は勝太郎とルシーダに連絡した後、「すぐに行くわよ」と俺たちを促した。

「あの、私は、ひっ!」

オーセはまた清子に睨みつけられた。

「今すぐ人間の姿に化けなさい。」

「はっはい。」

オーセは保健の先生、早川先生の姿になった。

俺たちは急いで駅に向かった。

校門の門番の人は早川先生の姿を見て詮索せずに俺たちを通してくれた。

駅に着くと特急の到着時刻がすぐだった。俺は三人分の切符を買うと急いでホームに向かった。

間も無く特急がホームに滑り込んできて俺たちは急いでその特急に乗り込んだのである。

スマホのアプリを見るとやはりローラのトランシーバーは南方向に向かっている。

特急は京都駅に向かってひた走り、俺たちはローラのトランシーバーの位置をチェックし続けた。


俺たちが洛中に入った頃にはローラのトランシーバーは御所の北あたりだった。そのまま南西方向にゆっくり動いている。


京都駅に着いた俺たちは大量の観光客がバス停に並んでいるのを見てタクシー乗り場の方に移動した。

ローラのトランシーバーは出町柳から鴨川沿いに南下している。俺はタクシーの運転手さんに鴨川沿いに北上してもらうようにお願いした。そうすればどこかでランデブーポイントに到達する筈である。


俺たちが八条から北上している間にローラは丸太町から三条に向かい、やや鴨川の東側を八坂さんの方に向かった。俺たちも既に五条大橋を通り過ぎている。

八坂神社の前でタクシーを降りた俺たちはローラの位置を確認した。


ローラのトランシーバーは八坂さんと鴨川の間をまだ南下しているようである。

「もしかしてここは。」

「ああ、六道の辻ね。」

清子も知っていたらしい。

オーセは知らなかったようなので説明してやる。

「ここは今から1000年前に小野篁という人が地獄の閻魔大王と会うために抜け道として使っていたという伝説の井戸があるの。」

オーセも理解したようである

「つまりはここにアウタープレーンとのゲートがあるということだな。」

お盆の頃には参拝客も多いのかもしれないが、秋の今では誰もいなかった。

少し歩くと井戸が見つかった。


「ここが小野篁が使ったという井戸ね。」

「ああ、そうだろうな。」


「オーセ、ここにゲートがあるかどうかわかる?」

「ああ。やってみよう。ファインドゲート!」

すると、井戸の上にぼんやりとした扉が浮かび上がった。

「じゃあこのゲートを開けて。」

「は?私はアウタープレーンなんてごめんなんだが。」

「何?私のいうことが聞けないっていうの?」

清子は小太刀を抜いて再びオーセの首筋に当てた。

「ひどい。こんなの横暴よ。」

オーセは必死で逃げようとするが、清子の剣はオーセを逃さない。


「あなたの首と胴が泣き別れになってもいいのなら好きにするといいわ。」

「わかったわよ。ああ魔王軍のホワイト職場が懐かしいわ。こんなに人使いの荒い職場なんてこりごりだわ。」

オーセはそれでも「ゲートオープン」と魔法を掛け、ゲートのドアはゆっくり開いた。

俺は真っ先に飛び込み、後ろを見ると、清子が「嫌だ嫌だ」と暴れるオーセの首筋を掴んで一緒に飛び込んで来たところだった。

清子は「早くローラの居場所を見て!」と俺に怒鳴った。

俺もヒィッという心の声を押し隠してローラのトランシーバー場所を確認した。


地上ではずいぶんあやふやだったローラのトランシーバーの位置ははっきりしている。逆に勝太郎とルシーダの居場所はややあやふやになっていた。つまりは次元を越えちゃったということだ。


俺は清子に「こっちだ」と指差した。

この世界はそういっても上下左右もはっきりしない。座標もない空間である。

俺はローラのトランシーバーを頼りに移動していった。

オーセはあからかに不機嫌そうでブスッとしていたが清子から逃げ出す様子もないようである。

少しゆくと何かが見えてきた。さっきローラを攫ったエビみたいなモンスターだ。横にはローラが意識を失っているようで倒れている。


俺は思わず雄叫びを上げて刀を抜き、ローラの元へと駆け寄った。

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