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子を作れという話

城内でも俺は人気者だった。

本来人間嫌いの獣人たちが俺にはこぞって挨拶してくれるのである。


女王様との謁見でも「ローラはまだ懐妊しないか」なんて話が出てきた。

ローラも時々「早く子供が欲しい」なんていうけれど、俺はまだ高校一年生である。

いきなり子持ちなんて早すぎるだろう。


その理由がわかったのは昼食会で大広間に向かった時である。大広間にはあのコパの親龍の首が剥製にされてドーンと飾られていたのである。


それを見た獣人たちは「王女様と龍殺しの英雄との子供を早く」というようになってしまっていたのである。

ローラは「ねっ。旦那様。もう逃げられるとは思わないでね。」と微笑むが、その笑みが怖い。


昼食会の後は俺たちは学校があるという理由でさっさと王宮を離れたが、大歓迎に杉山さんはポーッとした感じであった。

自宅に帰る頃にはもう日も暮れていた訳だが(日本とハルシュタットの間にはそれくらいの時差がある。)、清子は杉山さんが学校まで送ってくれることになった。


師匠と瑠美も帰るとローラと二人になって静かである。


「女王様の御命令もありますから避妊は無しですよ。」

「いや、良い子のみんなのためにもしっかりと避妊してセーフセックスこそ重要だと思うんだけど。」

「一体その言葉は誰に向けて言っているのです?子作りする時に避妊してどうするのですか。」

俺はローラに抵抗することはできなかった。


学校では静かな日々が続いた。

横田先輩は以前のようにチラッとちょっかいをかけてくるくらいになり、安定していた。

勝太郎とルシーダ姫は相変わらずくっ付きながらそっぽを向くというアクロバットな関係を続けている。

二人でソーフィルクの大使館に行ったりしているので関係性は悪くないとは思うがあれがデートなら変わった趣味なのかもしれない。


ローラは「妊活」に目覚めたらしい。この街にはすでに書店はないので、ネットの巨大書店から「妊活入門」とかの妊活関係の本を取り寄せて妊娠しやすくなる食事などを研究しているみたいだ。

高校生なのにいいのか?とは思うがローラによると獣人の結婚適齢期は14歳から18歳位で16歳くらいで第一子を持つくらいが標準であるらしい。


清子や瑠美がローラの妊活の話を聞くと俺に冷たい目を向けてくることが増えた。

俺はどちらかというと被害者側だと思うのだけど。


高柳会長によると横田先輩については微かな侵入の痕跡が見つかったそうである。それが誰によるものであるかはわからないが、今はその穴を塞ぐために研究が進められているそうである。


会長によると秋になると迷宮実習ではやはり俺たちは監視側になるそうで、各人がバラバラに配置されるらしい。

そうなると俺たちの連絡手段が必要になる。

簡単なのは魔道トランシーバーである。これは探索者ギルドに売っていたはずなので残してある魔石を売れば購入できる筈である。


そういうことで俺たちは再び舞鶴に行くことにした。

まずは駅から北側にある商店街に行く。

そこにはかわいいマグカップやハンカチなどファンシーなグッズを売っている店があった。

女性たちはそこで思い思いに瑠美のための誕生日プレゼントを決めていった。

俺と勝太郎は女性っぽい品物を見てどうすればいいのかわからずにオロオロするだけだった。

結局女性たちはプレゼントを買ったものの、俺たちは何も買うことができずに商店街を離れ、探索者ギルドに向かうことにした。

駅を越えて山のほうに向かい、あの妙な建物に辿り着いた。

ドアを開けてロビーに入ると、座っていた冒険者たちは俺の姿を見てスッと席を立った。どうやら逃げ出したようである。

俺はちょっと傷ついた。

逃げ出した中にはクラスは違うが俺たちの同級生も混じっていた。


清子は誰もいなくなったロビーでコパを袋から出すとコパはパタパタと飛んで清子の頭に止まる。

「重くないの?」と聞いてみたがどうやら浮いているらしくて重みはあまり感じないのだと言う。


真奈美さんはカウンターにいて、「今日はどういったご用件ですか?」と聞いてきた。ちょっと緊張しているようだ。

「魔道トランシーバーが欲しいので魔石を売ろうかと思って。」

「ああ一つ200万円ですから全員分ですと1000万円ですね。」

「うん。だからこれ。」

「はっ?10センチ級の大魔石を20個‥ですね。」

「あまり驚かないようですね。」

「こ、これくらいならあなた方の普通でしょう。」

10センチくらいの魔石はあと100個くらいあるが、それは言わないでおこう。


魔石は鑑定のため地下に持って行かれてしまったので俺たちはギルドショップに行くことにした。


トランシーバーは5個確保した。それで他のアイテムを見ようと武器屋に行くと山伏セットが売ってあった。


結袈裟は物理防御力+10、魔法防御力+10の優れもので、錫杖は破魔の力×2倍というチートアイテムである。

店の人に聞いてみると山伏の人が引退するのに置いていったそうである。本来なら一億円の値をつけてもいいけれど、そもそも山伏はレアなジョブであるため買い手は滅多にいない。それでセットで1000万円の破格値をつけているそうである。

チラッと清子を見ると「いいわよ。」という。

他の人を見てもダメという顔はなかったのでそれを俺たちからのプレゼントにすることに決めた。

トランシーバーと山伏セットで2000万円である。もう金銭感覚は壊れているよなあと思いながら魔石の鑑定が終わればそれで支払う話にした。


そのあと真奈美さんに例のダンジョンを瑠美のトレーニングのために使えるようにして欲しいと頼んでみた。

真奈美さんはギルマスの許可を素早く取ってくれたが、瑠美はギルド証を取ってからじゃないとダンジョンには入れないと釘を刺されてしまった。


そうこうする間に鑑定が済み、俺たちは支払いを済ませてブツを持ち帰ったのである。

トランシーバーは迷宮演習の時に役立つことになった。


瑠美の誕生日には師匠に舞鶴のケーキ屋さんでケーキを買ってきてもらい、道場で誕生会を開いた。

俺たちがあの山伏セットをプレゼントとして渡すとそれを受け取った瑠美も流石に驚いてすごいパワーなんだけど何これ?と驚いていた。

師匠はなんてものをプレゼントしやがるんだと呆れられてしまった。


俺たちが「すまん」と謝ると瑠美は「ううん。これで健斗に早く追いつかなきゃ。」と晴々した顔で言う。

師匠は「瑠美には普通の女の子でいて欲しいんだよ。」と頭を抱えていた。


清子は「本人が喜ぶプレゼントが一番だよ。」とあっけらかんと言う。

微妙な空気を残しながら俺たちは道場から帰ることになった。


瑠美はギルドに入会して裏山のダンジョンでトレーニングを始めることになった。

10月からは、ほとんどの休日は俺と清子でダンジョンの低階層で瑠美をトレーニングすることになってしまった。

瑠美は清子にとってはいい生徒であるらしく、二人で仲良くダンジョンのトレーニングをしていたのである。俺は警備役であった。


11月も半ばになって、何度目かの迷宮演習の時、珍しくローラが体調を崩した。

朝から吐き気があってご飯の匂いが耐えられないと言うのである。

俺はローラに休むようにいったがローラは警備役だから大丈夫だと学校まで来たのである。


けれどもやはり気分が悪いと言うので保健室に連れてゆき、そこでローラを寝かせることにした。

ローラは自分は大丈夫だと言うけれどすぐにオエッとえずくのである。


保健の先生はスティック状の検査薬を出してローラに使うようにいった。

トイレから帰ってきたローラが差し出したスティックにはくっきりと2本の線が浮かんでおり、保健の先生は「まあ、これはおめでたじゃないの」と叫んだ。


と、その姿がぼやけていって気がつくと薄緑色の肌をした魔族になっていた。

「はっ?横田先輩ですか?」

「違うわよ。カエは私の妹よ。私はオーセよ。あのダンジョンの底ぶりね。」

俺はいつでも抜刀できるようにしながら「何の用だ?横田先輩に手出しはするな。」と言った。

「おほほ。カエもあなたに慕われて幸せ者ね。今日の話はもちろんあなたの魔王軍へのスカウトよ。愛する妻もめでたく妊娠したのですからあなたも働かなきゃ。そういう時にこそ魔王軍なのよ。」

「は?お断りだ。俺は高校生なんだよ。」

「もう、強情ね。今の流行りは稼ぐだけじゃなくて家事育児を全部やる夫なのよ。そういう時こそホワイト職場の魔王軍なのに。え、何あれ?ちょっと?」


オーセが震え声で指差す先を振り返ってみると、空間にポカリと黒い穴が空いていてそこから気持ちの悪い色をしたエビのような生き物がその両方のハサミを使ってローラを穴の中に引きずり込んでいるところだった。


俺は慌ててローラを掴もうと手を伸ばしたが、その前で穴は閉じてしまい、俺の手は空を掴んだだけだった。

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