新学期
そうこうするうちに新学期が始まった。
俺たちも登校する。数日前に来たことはきたけれどまあ新鮮と言っていい。
古城先生にはルシーダ姫の案内役は勝太郎にお願いするように言ってある。
と、教室の扉を開けるとすでに人だかりができていた。
「きゃあ、かわいい赤いベストね。」
「シルクハットも小粋じゃない。」
コパである。清子がコパを連れてきていたので集まっているということか。
部屋の中を見渡すと勝太郎とルシーダ姫が座っている。いつものように会話もなく視線も合わさないが、あの二人にとってはそれが日常ということなのだろう。
他の男たちにはルシーダ姫をチラチラと見ている者もいるが、勝太郎を押し除けてルシーダのところに行く勇気もないのだろう。
他には特に変わりはなさそうである。
ローラはルシーダのところに行っておはようの挨拶をした。
「どう?勝太郎にどこか案内してもらった?」
「ええ。朝は食堂に連れて行ってもらいました。」
「「勝太郎?」」
俺とローラは期せずしてハモってしまった。
「ちっ。必要なところには案内している。」
勝太郎は不貞腐れたように答えた。
ルシーダ姫はなぜか真っ赤になってモジモジしている。
「まあ、旦那様。」
後ろから清子の声がした。どうやら他の女子生徒の輪から抜け出してきたようだ。
「いや、学校で旦那様呼びは。」
「まあ、それでは健斗様とお呼びしますね。」
コパは清子の頭の上にちょこんと座っている。どうやらコパは清子の頭の上を居場所にすることに決めたようだった。
「清子が健斗様って言うのはなんだか照れる。」
嫌な気分ではないが、全身がむず痒くなる気分だった。けれども旦那様と呼ばれるよりはマシだろう。
ローラは「私の健斗を健斗様って言うのはやっぱり嫌ね。」と言い出すし、清子は「今まさに健斗様が仰ったことではありませんか。」と言って睨み合いが始まる。
「はい二人とも、予鈴が鳴ったぞ。早く席につけ。」
俺はさっさと二人を分ける。
この二人は仲良しなのだがこういうつまらないことでケンカするのが好きなのである。
果たして二人は「この勝負はお預けね。」とか「仕方ないわね。」と言って席に着いてくれた。
しばらくして古城先生が来てホームルームを始めた。
型通りの注意事項をしゃべった後はルシーダ姫を教壇に立たせて紹介した。
「新しく留学生として来られたルシーダさんです。みなさん仲良くしてあげてください。」
「ルシーダ・エル・ソーフィルクです。ソーフィルク王国から来ました。みなさん仲良くしてくださいね。」
ルシーダ姫が無難に挨拶を済ませると、古城先生は「じゃあルシーダさんの案内がかりは布留那君にお願いしましょう。北畠さんも寮の方で困ったことがあれば助けてあげてくださいね。」
勝太郎は面倒くさそうに「はい」と言い、清子は優等生らしく返事をした。
放課後には高柳生徒会長からの呼び出しがあったので全員で生徒会室に赴いた。
高柳会長は「うん。君たち、もうこれから実習は保護管理側に決まったから。」と相変わらず朗らかにいう。
「はっ?」
俺が思わず聞き返すと会長は「ほら」と言って一枚の紙を見せてくれた。そこには俺たちを通常の実習から外して監察隊に従事させることという文言があった。
「じゃあ君たちは斎藤くんのところで詳細を聞いてね。」
高柳会長は斎藤先輩を呼び出すと部屋を出ていってしまった。
「あっ斎藤です。御曹司、ご無沙汰しております。」
斎藤先輩は勝太郎に律儀に挨拶をする。
「海崎君も無想神念陰流の名誉師範になられたということで。」
「おほほ。」
コパを頭に乗せた清子が嬉しそうに微笑んだ。これは俺と清子が祝言をあげたので俺が無想神念陰流の名誉師範になったということだからだ。
ローラは俺の反対側の腕を掴んで「私の旦那様」と言っている。
ローラの姿を見てルシーダ姫も勝太郎に近づくが勝太郎は硬直してしまった。
「こほん、じゃあギルド証を見せてください。」
勝太郎はかちこちになり、それを見たルシーダ姫はワタワタしているので俺が代表してギルド証を見せた。
「えっもう銀ですか?」
斎藤先輩は驚いた様子である。
「じゃあB級パーティに突っかかっていったC級パーティがコテンパンにのされたって君たちのことなの?この辺りにはB級っていなかった筈だし。」
えっ?コテンパンにはしてなかったのではないか。
清子が「ええ、そうかもしれませんが健斗様が相手の剣を叩き折ったくらいでコテンパンなんてことではないのです。」という。
「素手で剣を叩き折った?」
斎藤さんは絶句した。
俺も何か言おうと思ったが何を言っても泥沼になりそうである。
「あら、健斗様は私の祖父と相打ちになるくらいの人ですから当然のことですわ。」
清子は澄まして言うが斎藤先輩は「ヒュッ」と息を吐いただけだった。
「その、伝説の免許皆伝者と相打ちの人なんて……もう僕と監察隊隊長を交代しませんか?」
斎藤先輩のテンションがおかしくなってしまった。
「お断りします。」
俺はにべもなく答えた。
「残念です。」
斎藤先輩は肩を落としながら言った。
「では、今の監察隊の仕事です。一つは先ほど高柳会長がおっしゃっていたように学園の実技演習の時の警戒業務です。あとは今のところ極秘なのですが、ハルシュタット王国とソーフィルク王国の人たちの護衛業務なのです。」
するとローラが「ハルシュタット王国王女でーす。」と言う。そのあと勝太郎の横にいるルシーダが「私もソーフィルク王国の王女です。」と気弱そうに言った。
斎藤先輩はかわいそうに、もう目がぐるぐるしていた。
「そ、そうなんですね。それは便利なことです。」
俺は立っているのがやっとになってしまった斎藤先輩をお姫様抱っこして優しくソファに寝かせてあげたのだった。
横田先輩がずかずかと俺の近くにやってきて、「もう生徒会の仕事はないわ。今から宮本先生の研究室に行きましょう。」と言う。
目の据わった横田先輩の迫力には逆らえず俺は横田先輩に手を引かれて生徒会室を後にした。
始業式の午後に残っている生徒はほとんどいない。
人気のない廊下を引っ張っていた横田先輩は理科実習室に俺を連れ込んだ。
自然に勝太郎や他の女子達も実習室に入って行く。
「ねえ、海崎君あなた確かローラさんと婚約していたわよね。それで北畠さんとも祝言を上げたってどういうことなの?」
ああ、隠したいところをグサリと突いてきた。
「ああ、あの、それはですね…」
言い訳が出てこない。
そこにローラが横から口を出した。
「横田先輩、それは私が正妻、清子が側室ということなのですわ。」
即座に清子が「いいえ、正妻はこの私。側室はローラなんですの。」と言う。
ローラは清子に「何を言いますの?」と言い、お互いに睨み合っている。おそらく内戦勃発5秒前である。
俺は二人のところに行って仲裁しようと思ったが横田先輩は俺の腕を離そうとはしない。
「あの二人は海崎君のハーレムってことね。じゃあ私もそこに混ぜてよ。」
「ファッ?」
思わず俺は変な声を出してしまった。
乱闘を起こしそうだったローラと清子もびっくりした顔でこちらを向いている。
「まあ、私って彼氏いない歴=年齢なのよね。いい加減に彼氏が欲しかったのよ。」
「あの、側室って彼氏を軽々と飛び越えているんですが。」
「ねえ、ローラさん北畠さん、私も海崎君の側室になってもいいでしょう?」
「もちろん、旦那様は英雄ですから側室は何人いてもいいのですが私を正室として敬意を払いなさい。」
ローラはいつものように言った。
清子は「横田さん、実はもう一人瑠美ちゃんって子がいるの。その子にも言わなくてはね。」と言う。
横田さんは「えっ?もう一人いるの?海崎君じゃあ私もこれから海崎君のことは健斗君って呼ぶから健斗君も私のこと佳枝って名前で呼んでね。」と言う。
もう一点の躊躇もない攻撃だった。
「どうしてこうなった」
俺は「旦那様、正室は私ですからね。」と繰り返して言うローラにうんうんと頷きながら家路につくことになったのである。
結局宮本先生の研究室には行かなかった。




