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魔王軍?

ボス部屋の奥には階段はなく「お出口はこちら」と書かれたドアがあるだけだった。


そのドア開けて小部屋に入ると部屋の中にあった魔法陣が稼働し始めた。「ポータルみたいだよ。」と慌ててみんなで小部屋に入るとポータルが作動した。


気がつくと地上階に転移していた。ちょうどハルシュタット王国への通関を調査していた人の目前で姿を現したみたいで、以前に会った覚えのあるそのおじさんは驚いて腰を抜かしそうになっていた。


「すみません。このダンジョンを踏破したのでポータルで転移したようです。」

俺が冷静にいうと、そのおじさんも落ち着きを取り戻したようで「で、ではここはポータル帰還者座標として設定しておきましょう。」と言ってくれた。


このダンジョンは既に国の管理下にあり、非公開ダンジョンとして登録済みなのだそうだ。元々は俺の家の所有だったが、多分親父が国に売り渡したらしい。多分親父が国に吹っかけて高く売り飛ばしたということだろう。


おじさんはダンジョンの踏破報告は探索者ギルドに行ってくださいという。

おじさんは名刺を一枚取り出し、裏に何か走り書きをして、何かあればこれを見せればいいでしょうと言ってくれた。

名刺には内閣府迷宮担当特命課長 杉山聡と印刷されていた。裏には何か数字が羅列してある。

「杉山さんありがとうございます。」

俺がお礼を言うと杉山さんはちょっと眩しそうな顔で「いえ、こちらこそお知り合いになれて幸いですよ。」と言ってくれた。


外に出ると測量の人たちが帰ろうとしていた。聞くと、府道に向けて道路を敷設する予定らしい。今は調査だけだが、調査が終われば本格的に工事が始まるのだろう。


家に帰ると瑠美が来ていた。既に夕食の準備ができている。

ロドリーゴ兄弟によると、ハルシュタット王国の方も大使が任命されるらしく、その準備で町の空き家を購入しており、近々そちらに移るとのことである。

ハルシュタット王国や獣人たちのお披露目はそれからになるようだ。


この辺りの人では京阪神の大都市圏に移住する人も多く、残っていた高齢者が亡くなると空き家になってしまう家屋も多かったのだが、そういう家屋が有効利用されるのはいいことである。


帰宅してからは魔王軍について調べたが、インターネットの日本語の検索では大体アニメやマンガの魔王軍の設定の説明ばかりだった。魔族についても同じようだった。

ローラやルシーダ姫に聞いてみても大体昔話やおとぎ話で白馬に乗った王子様が助けるのは悪い人間や魔族によって攫われたお姫様であって、白馬の王子が打ち倒すのが悪の大魔王だというのが通り相場になっているということのようである。

少なくとも、現実に存在していて滅亡した人間たちは別として、魔王も魔族も歴史の教科書には出てきたことがないということであった。


これは情報を探るためには探索者ギルドに行った方がいいのかもしれない。


前回は売らないで置いていた大きめの魔石を売り払うのと、ミスリルチェインを王女様の体格にフィットさせる必要もあるので今回もパーティ全員で行くことにした。

前回のように列車で舞鶴まで出た。


ギルドに着くと奥のカウンターに直行した。

幸い、そこには前回対応してくれた真奈美さんが居たのでそこに行って挨拶した。

「いらっしゃいませ。御用は、ひっ、海崎君じゃないの。き、今日はどうしたのかなあ。」

「ああ、ダンジョンを踏破したのでギルドで報告してって言われたんです。」

「ち、ちょっと、声を小さくして。それでどこのダンジョンなの?この辺りには未踏破ダンジョンは公開されていないわよ。」

「どこって言われても。そうだ名刺があったんだ。」

俺は杉山さんの名刺を出した。

「裏に数字が書いてあるでしょう?」

「え?は?本省の課長さんの名刺?」

真奈美さんは挙動不審もいいところである。彼女はハッとした顔をして言った。

「すぐに地下の応接室に行きましょう。」

後ろを振り返ると数人の探索者がこちらを見ていた。


俺たちは慌てて階段を降りて応接室に向かった。一応そこは関係者以外立ち入り禁止である。

前回と同じくソファに座っていると真奈美さんがノートパソコンを持ってきて、「この番号よね。」と言って名刺の裏に書かれた番号を入力した。

「ピピー!」

ノートパソコンはアクセス禁止のアラートを返した。

踏破済みに変更されていた。「やっぱりね。あんたたち何者なのよ。これはギルマスの権限が必要だわ。」


程なくギルドマスターがやってきた。

相変わらずグラサンをしてチャラさを醸し出している仲山さんである。


彼は杉山さんの名刺を見て少し顔を顰めた。名刺の裏の数字を確認してノートパソコンに何かを打ち込み、横のリーダに手のひらをかざした。

するとノートパソコンの画面が変わり、「非公開ダンジョン○○○○○○号」という表示が出た。

「海崎君、君の携帯を貸してくれるかな。」

俺が携帯を渡すと、ギルドのアプリを起動して登録モードに変更してリーダーに近づけた。すると何かのデータがやり取りされている様子で、10分ほど経つと未踏破の文字が踏破済みに変わっていた。

「おや?君たち、パーティ登録していないの?」

後ろで真奈美さんが顔色を青くしていた。

「じゃあ他のみんなの分も登録しておこう。」

ギルマスは次々に携帯を受け取って登録していった。

あのダンジョンの踏破者として俺たち全員の名前が登録された。

「真奈美君、彼らをパーティ登録しておいた方がいいんじゃないか。」

ギルマスは受付の真奈美さんに言う。

「は、はい、ただいま。皆さんもパーティ登録しますよね。」

俺たちが頷くと真奈美さんは「じゃあパーティ名を考えておいてくださいね。」と言って走り去った。


ギルマスは「まあ、君たちことはまだ極秘事項だらけだから答えられることは少ないんだが、何か質問はあるかい?」


俺は「魔族と魔王のことってわかりますか?」と聞いた。

予想外の質問によろめいたようになったギルマスはそれでも意思を総動員したのか、比較的平静な声で「ま…おうと魔族ねえ。」と言った。

そうして、さっきのノートパソコンを操ると何かを検索した。

「うん、公式にはどちらも情報はないね。」

そう言いながらさらにキーボードを叩いた。

「そうだねえ。魔王については噂話すらないね。マンガやアニメ、ラノベの情報ばかりだね。でも、魔族については英語版サイトには記述があるね。どれどれ。」

魔族は人間ほどの体格をしており薄い緑色の皮膚をしている。一般に強力な魔力を保有しており、美しい姿をしているらしい。

「あいつが美しい?そりゃ健斗は鼻の下を伸ばしていたかもしれないけれど。」

いきなりローラがそんなことを言い出した。冤罪にも程がある。

「あのね、俺は魅了には掛からなかったからね。誤解を生む表現はやめようね。」

「でも確かに皮膚は薄緑っぽかったよね。」

「まさか君たちが魔族と遭遇したの?」

ギルマスは驚いた顔を隠せないでいる。

「えーと、戦ってはいないのよ。あのダンジョンの地下18階のボス部屋に大きなベッドがあって魔族らしいサッキュバスがいたのよ。」

「そう、それで健斗が魅了に掛かって鼻の下を伸ばしたからみんなで止めたんだよ。」

なんという歴史修正なのか。

「俺は魅了には掛かっていないぞ。」

「あら、危うく可愛い瑠美ちゃんを泣かせるところだったじゃないの。」

なんだか痴話喧嘩しているみたいになってきたので俺は「とりあえずみんな黙ろうか。」とみんなを落ち着かせた。

鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたギルマスは「そ、それでその魔族らしいサッキュバスが魔王の話をしたのか?」と聞いてきた。


「ええ。奴は俺たちに『魔王軍に入らないか』と聞いてきて俺が断るとどこかに消えていったのです。」

「ふむ。これはちょっと報告すべきだな。まあ君たちには面倒がかからないようにするよ。」

ギルマスがそう言った時、真奈美さんが「失礼します。」と入ってきた。

彼女は銀色のギルド証を持っていた。

ギルマスは笑顔になって「ああ、君たちの新しいギルド証だ。君たちは今日からB級だから。」という。

「は?」

俺が呆れ声で聞き返すと、ギルマスは「オーグルを倒す奴はC級だと言っただろう。今日はその上にダンジョンの踏破をしたのだからB級で文句ないだろう。」という。

「………」

俺が黙ってしまうと真奈美さんが「探索者ギルドの依頼はオンラインでも受けられますから、それをやって頂くとすぐにA級に上がれますって。」なんてニコニコしながらいうのである。

ギルマスは部屋を出てゆき、残った俺たちはパーティ名を決めさせられることになった。

ローラが「ツインプリンセス」という。それに清子が「トリプルプリンセス」にしろとごねて最終的に「トリプルプリンセス」という名前になるらしかった。

真奈美さんが「それでいいですね。」と最終確認してきたので俺は恐る恐る「俺たち男子の立場は?」と聞いてみたが3人の女子たちは声を揃えて「却下」と言ったのだった。

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