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華燭の宴

皇居を辞した後、俺は勝太郎にルシーダ姫を実家に連れて行けよと言ったのだが、勝太郎は顔色を赤くしたり青くしたりして目をぐるぐるさせると「い、いや、今回は清子の方に泊まるのだろう。」と言うと逃げるように実家から差し向けられた車に乗り込んで帰ってしまった。

ポツンと取り残されたルシーダ姫は「やはり私は勝太郎様にはよく思われていないのでしょうか。」と小声で呟いている。


清子はルシーダ姫を優しく抱きしめて「大丈夫よ。私も勝太郎と知り合って長いけれどあんなに取り乱したあいつは見たことがないわ。」と言って慰めている。

俺も「確かに勝太郎は好きな女の子を放り出していくとは男の風上にも置けない。一度とっちめてやるべきだな。」と言う。

ルシーダ姫は「す、好きな女の子だなんてそんな。」と身悶えている。

まあ大丈夫そうである。


親父は仕事だと言うことでどこかに行ってしまった。

俺たちは清子の実家が差し向けた車に乗って彼女の実家に向かった。

彼女の実家は南平台とか言うところにあるそうだが東京の地理に疎い俺にはどこのことか知らない。

彼女の家は最上階に道場があると言うことで、まずはそこに通された。板敷の小さな部屋に小柄で頭はつるんとした老人が端座している。

「その方が清子の婿志願に来たのだな。」

は?そんな話は聞いていないぞ。

けれども清子がお辞儀をして「お祖父様、左様にございます。」と言ってしまった。


「よし、ならば乱取りじゃ。次の間に通せ。」

門人らしき青年が俺たちを案内してくれた。流石に大道場である。俺の田舎道場ならば師匠が自ら案内するところである。

次の間には小学生らしい剣士が竹刀を持って座っていた。

(は?小学生相手か?)

清子に祖父と言われた老人は上座に座ると「はじめ!」と鋭く号令をかけた。

わらわらとちびっこ剣士が群がってくる。こちらが本気を出したら大怪我になる。

仕方ないのでふわっと飛び越えて別の場所に着地して包囲から逃れたのだが少しすると再び包囲されることをくりかえしてしまった。

仕方がないので俺は子供たちの竹刀を強く打って竹刀を叩き落としたのである。

ちびっ子たちが竹刀を叩き落とされて戦闘不能になると、爺さんは「退出!次!」と号令をかけた。


次に出てきたのは20人ばかりの中学生である。

俺はそいつらの攻撃をあるいはかわし、あるいはいなして防ぎながら逆襲して倒して行った。


「次!」という掛け声で新手が掛かってくる。


多分もう百人以上は倒した頃、出てきた相手は一人だった。

彼は「ここからは目録以上の使い手なので一人づつお相手させていただきます。」というなりものすごい勢いで撃ち込んできた。

ものすごい勢いで撃ち込んでくるのでとりあえずは合わせて打ち合っておいた。

攻撃が素早い分、攻めは単調である。

彼が息切れした瞬間にちょこんと籠手を打った。


「次っ!」


こうして何人かの目録以上の剣士を倒して行った。


最後に総師範代という人が出てきた。彼はどっしりした男であり、いかにも剣の達人という出で立ちであった。

「一応私で最後の予定です。最後までお付き合いいただきありがとうございます。」

彼はそう言って一礼すると剣を構えた。


彼は剣先を震わせて俺を誘ってくるような様子だった。

さすがに総師範代である。いくら誘われても簡単に打ち込めるような隙はない。


俺も無念無想の構えにした。剛には柔である。

向こうがどんな攻撃をしてこようが対応できるようにした。


すると総師範代の顔が真っ赤になってきた。けれども剣先は止まってしまった。

彼は次第に顔色を消して真っ青な顔になり、剣を収めると、「申し訳ない。もう剣を打つべきとこがありませんでした。」と言って頭を下げた。


俺は慌てて「い、いや、こちらこそすいません。」と謝ったが、総師範代は「さすがにお嬢様の選ばれた方です。お嬢様をよろしくお願いします。」と俺の手を握ってきたのである。


その時、「興が乗った。」という声がした。見ると爺さんがゆらりと立ち上がっている。

「後藤、退け。わしも婿殿と一太刀交わしてみとうなった。」

「はっ」

後藤と呼ばれた総師範代が壁際に退いた。

(えっ?こんな爺さんに当てたらお迎えが来たらどうするんだ。)

俺がそんなことを考えて躊躇していると爺さんは「お主、どうせ失礼なことを考えておるじゃろう。ならば一太刀馳走するぞ。にょほほ」


ものすごい剣である。あの小さな体からどこから打ち込みが飛んでくるかわからないのである。

俺は必死で剣を合わせ、間に合わないものは体を捌いて見切って避けるしかなかった。


「ほれ、まだまだゆくぞ、かわせるものならかわしてみい。」

老人はさらに強烈な斬撃を放ってくる。

俺はもう避けまくることに全力を尽くした。


「ほい、隙ありじゃ。」

老人は俺の喉に強烈な突きをいれてきた。俺はその突きを全力で避けつつ老人の胴を薙ぎ払おうとした。

俺はバランスを崩して地面に転がり、老人の方も俺の胴打ちを避けるために地面に転がって避けたのである。

立ち上がった老人は「はーっはっは」と大笑いして剣を納め、「我が孫は良い婿を貰ったぞ。」と破顔一笑であった。


その後夕食では俺と清子は上座に座らされ、俺は紋付の羽織袴で清子は白無垢姿であった。

「あ、あの、これはもしかして祝言では?」

「そうじゃよ。お主らその為に帰ってきたんじゃろうに。」

「あの、俺たちまだ結婚できる年齢じゃないんですけど。」

「ははは、そんな細かいことは気にせんでええ。それより早くジジに孫の顔を見せておくれ。」

「もう、お祖父様ったら。まだ私たち高校生ですから。それ以上言うとセクハラですよ。」

清子は祖父さんにピシャリと言う。爺さんは「うぇへへ」と言ってふらふらとどこかへ歩き出した。

後藤さんという総師範代が俺たちの方にお酒を持ってきた。

「これで三三九度の盃を交わしていただきます。」

「えっ?俺たち未成年なんでお酒はちょっと。」

俺は断ろうとしたが後藤さんは「そう言われると思ってノンアルコールのものを用意しておりますので。」と爽やかに言って盃にノンアルコール清酒を注いで行った。

どうやっていいのかわからないのでとにかく盃の液体を飲み、清子に渡した。

清子もノンアルコール清酒を注いでもらって飲むとみなさんぱちぱちと拍手してくれた。

チラッとローラとルシーダを見ると二人でコパと遊んでいた。

その後は今日、乱取りしていた人たちがやってきて「まだ未成年だからお酒が飲めないのは残念」とか「高校では烏天狗というあだ名らしいがよくわかった」とか「総師範との試合は早すぎてよく見えなかったが、とにかくその場にいられたことは幸いだった」というような話をして行った。

俺としてはひたすらに頷いているしかなかった。

どうやら彼らは今日は朝まで飲み続けるらしかった。

俺たちはお飾りとしてここに座り続けなければならないのかと暗澹たる気分になっていると、年嵩のお手伝いさんの女性がやってきて「さあお色直ししなきゃね。お婿さんもトイレに行きたいでしょう。」と言って俺たちを連れ出してくれた。

部屋を出る時にローラたちを探したが、部屋に戻ったのか既に姿は見えなくなっていた。


お手伝いさんは「さあ今日はお疲れでしたでしょう。若い人は早く眠らなきゃね。」と言って別室で着物を脱ぐことになった。俺は一人で着物を脱いでさっさとジャージに着替えていた。隣室ではお手伝いさんが清子の着物を脱がせているはずである。


俺は清子の着替えが終わるのをボーっと待ち続けるしかない。


その時ドタンバタン!と大きな音が隣室から聞こえた。俺は思わず隣室のふすまを開けてしまった。

着物を脱ぎかけていた清子の形のいい胸からお腹がパッと目に入ってしまった。

「あっあうっ。すっすまん。」

横では若いお手伝いさんが着物を掛けていた台を倒してしまったようである。

「健斗、私はまだ着替え中よ。襖を閉めてちょうだい。」

「あっ、ああ。」

俺は急いで襖を閉じた。

ああ、やっちまった。これで清子に嫌われたかなあ。

ややあってこちらの部屋に入ってきた清子はぷーんとした顔をしていた。

「さっきはすまん。」

「何よ。健斗のえっち。」

「まあまあ。でも旦那様も少々早まりましたな。」

あの年嵩のお手伝いさんもお手上げと言った感じである。


案内された部屋には布団が二つ敷かれてあった。

清子はその一方の布団の端に寝転んだ。

「清子、ごめんって」

「あの猫女と私とどちらがきれい?」

「そりゃ清子の方だよ。」

すると清子は俺の方に向き直って「嘘つき健斗ね。でも今日だけは許してあげるわ。」

そうして清子は俺にキスしたのだった。

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