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親父の秘密

少し待っているとグラサンを掛けたちょっとチャラそうなおじさんが現れた。後ろにさっきの受付のお姉さんがいる。

おじさんは向かいのソファに座ると「いやあ、待たせてごめん。俺は仲山って言う。ここのギルドマスターをしているんだ」と言う。

「初めまして。俺は海崎って言います。」

とりあえず俺が名乗る。

「ああ、海崎隊長の息子さんだよね。」

ギルマスが海崎隊長というと後ろのお姉さんがピクッとした。

何なのだろう。親父って世界中を飛び回っていた筈だけれど隊長って言われていたんだろうか。それとも誰か他人と間違えられているのだろうか。


「まあ、俺も最近、機密解除ということで聞いたんだけど、そちらが獣人国のお姫様なんだよね。」

ローラがピッと緊張して俺にもたれかかってくる。

俺はローラの背中を大丈夫だよというように撫でた。

「その辺りは黙秘させてくださいね。」

「ははは、流石に蛙の子は蛙じゃないか。いや、あれだけの魔石はAクラスパーティくらいの実力だよ。」


「それは流石に買い被りすぎですね。僕たちはまだ駆け出しなもので。」

「オーグルを倒す連中は少なくともC級なんだよ。」

何だか話が噛み合わなぃ

「それでうちの親父が何で『隊長』なんですか?」

俺は話を変えてみた。

「ああ、それは彼は世界中にダンジョンが出現した時の日本のダンジョン探索における英雄だったんだ。みんな彼に憧れたんだ」

そうだったんだ。嫁さんに逃げられたような甲斐性なしの親父にも信奉者がいたのだなあ。

「魔石の買取は現金だと税金がかかるが電子マネーだと特例で無税だから後で口座を作っておくといいよ。この支部で活躍してくれることを期待している。」

そういうとギルマスは「じゃあ」と言って部屋を出ていった。


そのまま部屋でルシーダ姫のギルド証を受け取り、電子マネーの口座を作った。電子マネーはギルド証に紐付けられるようだ。


「魔石の評価額は合計で651万4725円です。」

受付のお姉さん(真奈美さんというそうだ。)が少し驚きを隠せない声音で言った。

「電子マネーでいいですね。」

「はい」


スマホにダウンロードした専用アプリで見ると確かに6,514,725の数字が入っている。

気分的にスマホがずしっと重くなった感じである。

「とりあえずショップのほうに行こう。」

俺たちは地下の作業場と反対側にあるショップに行ってみた。


ショップは武器屋と防具屋とその他の魔法などの小物類に分かれていた。

武器屋ではKatana of Samuraiが500万円で売っていた。(!)

あの刀ってそんなに高いものだったのか。


武器を持っていないルシーダに長弓でも買おうかというと戦槌メイスがいいという。

武器を鑑定して探すと聖なるメイスを見つけた。これは戦闘力はそれほどではないが治癒魔法などの効果を増強する効果があるらしい。

店のおじさんは「ああ、これはお買い得だよ。本当はもっと高いものなんだけれどこの辺りには聖魔法の使い手がいないから出血大サービスなんだ。」と売れてホクホク顔である。


次に防具屋に行った。清子はビキニ・アーマーを、ローラはミスリル・チェインアーマーを欲しがったが、どちらも200万以上する高級品である。

俺は強化カーボン製のアーマー(50万)をみんなに買うことにした。剣道の胴丸みたいなものだが、透明なので装着してもファッション的には気にならない。

各種サイズがあったのでそれぞれがフィットするものを選ぶことになった。


帰宅後は東京行きである。

どうやらかしこきあたりが晩餐会を開くので来いという連絡が親父からあったのである。

俺は急いで新幹線のチケットを取ることにした。勝太郎と清子は実家が東京なので実家に帰るついでに一緒に行くことになった。


京都までは特急で2時間程かかる。その後、のぞみに乗って東京まで2時間40分かかるのである。

親父からはグリーン車を使えという指示があったので高級感溢れるたびになった。

ローラもルシーダも子供のように窓ガラスに顔を押し付けて飛ぶように過ぎてゆく景色を眺めているのはほほえましかつた。

東京駅に着くともう夕刻だったが、皇居前の「王宮ホテル」で親父と落ち合い、そこで貸衣装の選択をした。俺は生まれて初めて燕尾服というものをめにしたのである。

勝太郎は以前にも着たことがあるらしく、スマートに着こなしていた。


そのあとはホテルで夕食を取った。その時に親父に「隊長」のことについて聞いてみたが親父は柄にもなく頬を赤らめて「まあ、昔のことだよ」言って詳しいことは教えてくれなかった。


その晩はホテルに泊まった。

翌日は早めに起きていつものように体をほぐして帰ってくると部屋の方が騒がしい。

行ってみると、清子が緊張した面持ちで卵を持ち上げている。

よくみると卵の表面にはヒビが入っており、広がってきていた。

広がったヒビの一部が崩れるように穴が開くと、そこから小さなトカゲのような顔が見えたのである。トカゲのようなそれは卵の殻をパクパク食べているようで、しまいには殻からチョロリと抜け出ると残りの殻を食べ終えてしまい、みゅーと鳴いて清子の肩にちょこんと乗るとみゅーみゅー鳴いている。

小さな鱗は綺麗な銅色をしていた。

「ああ、やっぱりあのお母さんの子ね。」

清子は少し複雑そうである。


子龍の方はそんなことを気にしないように俺たちの方にもみゅーみゅー鳴いていた。

「名前をつけないとな。」

俺がそういうと清子は「そうねえ」と少し考えて「カッパーからコパがいいわ。」という。

「あなたはコパよ」と清子が子龍の背中を撫でながらいうとコパの方もわかったみたいでみゅーみゅーと鳴いている。

清子は俺の方に向き直ると「健斗、あなたがコパのお父さんなんだからね。」という。それに合わせてコパもみゅーみゅーと鳴いている。

いきなり俺はおとうさんになってしまった。


その後は女性たちは長い着付けに入ってしまった。お昼を過ぎてやっと着付けが終わって三人が出てきた。

ホテルの前には屋根がオープンになっている馬車が横付けされている。

日本に大使として赴任する人にとってはこの馬車に乗るのが憧れなのだそうだ。


短い距離だったがオープンカーの馬車を堪能して御殿に到着した。そこにはテレビでしかみたことのない天皇陛下や総理大臣、外務大臣などが立っていた。

俺のエスコートで御殿に入って行ったローラはハルシュタット王国全権大使として日本国との友好を確認したのである。


そのあとは晩餐会になった。

俺とローラ、勝太郎とルシーダ、親父と清子というペアで日本の皇族方や政府高官の居並ぶ中で食事を楽しんだわけである。

サフルの存在はおそらく政府の魔導士にバレて危うく摘み出されそうになったが、俺の契約精霊であることを説明して事なきを得た。

今は小さな皿に俺の料理を一部取り分けて喜んで食べている。コパも清子のテーブルで清子の料理を食べ散らかしている。

天皇皇后両陛下は穏やかな顔で食べておられるが、第一皇女殿下はローラやルシーダと話をされている。何かやばいことを言い出さないかヒヤヒヤしたが、彼女たちは流石にプロトコールを叩き込まれているようでそつなく会話をこなしている。


俺の方には天皇陛下の甥に当たる皇子殿下が俺のところに火の精について話しかけてくる。

結構鋭い質問が多くて答えに困った時にサフルのお腹を突いて「おい、サフル、皇子殿下の御下問だぞ、さっさと起きて答えろ。」と言っても「ああ、健斗、もうご馳走でお腹いっぱいだよ。瞼が開かないー」と言ってむにゃむにゃ言うだけなので皇子殿下もついプッと吹き出してしまって周りから罪のない笑いを誘ってしまっているのであった。

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