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猫女

迷宮の中で十字路を曲がったところでその猫女にバッタリと出くわしたのである。

そいつは全身を白くて短い毛に覆われていた。髪の毛は長い銀色のツヤツヤしたまっすぐな髪の毛で腰まで達していた。

その頭のてっぺんには猫のような耳がある。

顔は人間の女の子の顔であり、奇妙なバランスが保たれていて美しいとも言えるレベルだった。

人間の耳のある所は髪の毛に隠れていたのでどうなっているかわからなかった。

そいつは胸の膨らみは女性的で女性というかメスというかは迷う所だが、その胸はブラジャーみたいに布で隠しており、同じ色の布でパンツのように大事な部分は隠していたようである。


俺も彼女もいきなり鉢合わせしたので驚いて止まった。

先に反応したのは向こうで、まるで怒った猫のように「ふぎゃ!ふしゅるる!ぎゃおっぎゃおっ!」って叫ぶといきなりナイフを両手に構えた。

そうして俺が木刀を構える前にナイフを振り回してきた。

「あっ、危ないじゃないか!」

俺はそう言って猫女の攻撃を避けた。

両手のナイフで次々に攻撃してくるので避けるのは大変でなかなか木刀を構える余裕はない。

足払いで倒そうとしたけれど、彼女は身が軽いのでサッと避けられてしまってうまくいかなかった。

(どうしよう)


俺は切羽詰まってつい彼女が突いてくるナイフをその手首ごと捕まえてしまった。当然、瞬発入れずに反対側のナイフが突き出されてくる。

俺は咄嗟に半身を開いてナイフをかわすと、そのまま脇を締めて突き出した反対側の手首を脇で捉えて動けなくした。

猫女も驚いたらしく全力で俺を振り解こうとしてきた。

俺は振り解かれまいと必死で締め付けを強くした。


彼女はいきなり俺に頭突きしてきた。その後、俺の股間目掛けて膝蹴りしてきたのである。

俺は咄嗟に彼女の軸足を払ったので彼女の膝蹴りは不発となり、却って彼女はバランスを崩して尻餅をついた。

俺もそれに引っ張られて彼女にのしかかる格好になってしまった。

「ごめん!」という間もなく俺は彼女の腹にのしかかってしまい、ふにゃりとした彼女の胸の膨らみを押し潰してしまった。俺の顔は彼女の顔に急接近してしまい、止める努力も虚しく俺の唇は彼女の慎ましやかな唇にブチュッとくっついてキスすることになってしまった。

ああ、わざとじゃないんだ、これは事故だから!

カチャンという音がしたと思うと、俺の脇から彼女の腕が引き抜かれ、俺はドンっと彼女に押されたので彼女の体から離れて立ち上がった。


見ると彼女はナイフを離して両手をその頬に当てて真っ赤な顔をしている。視線は下を向いており、こちらの方は全く見てはいなかった。

「いや、本当にごめん、わざとじゃなかったんだ。」

俺はもう一度謝ったが、彼女はこちらを気にするそぶりさえ見せない。


彼女はゆらりと立ち上がると、ここに俺がいることなど全く無視する様子でくるりと後ろを向いて奥の方へと走り去ろうとする。

「おい、ナイフを忘れているぞ!」と呼びかけても完全に無視された。

そのまま一番奥の扉を開けるとするりとそこに入って行ってしまった。


「はあ、なんなんだよもう。」

俺は彼女が残して行ったナイフを紙にくるんでリュックサックの中に入れた。

そして彼女が入って行ってしまった扉を開けた。

そこは外だった。

昼下がりのいい天気の丘陵地帯で、どうやらその扉は丘の崖に設置されてあるようだった。

あの猫娘も他の生き物も全くいないようだった。

俺は扉を閉めてその内側で座り込んだ。

「なんだって言うんだよもう。」

その時俺は気づいた。あれって俺のファーストキスじゃないか。


いや、別にファーストキスを解くべな人とするために取っておこうなどという乙女チックな趣味はない。けれども今のあれは突然過ぎだし心の準備も全くできていなかった。事故というしかないじゃないか。やり直しを要求したい。


けれども相手はそもそも人語を理解していなさそうだったし、いきなり逃げ出してもうどこに行ったかわからない。そもそも名前もわからないのである。


俺は人生の不条理を噛み締めながら呆然と歩きだしたのだった。


♢♢♢


???視点


私は母様の下に呼ばれた。母様は獣人族の長をしている女王様である。

「ローラや。あなたに縁談がある。」

「はい。」

「相手はイノシシ族のスゥェイン公爵だ。」

「は?」

思わず聞き返してしまった。

「何か問題でもあるのか?」

「い、いえ」

「あいわかった。ではそのつもりで準備せよ。」

私は顔色が青くなり、体が芯から震えているのがわかった。スゥェイン公爵は私より20歳年上のイノシシ族の公爵で夜会などで私をいつも気持ち悪い目で舐めるように見てくるので最近は彼がいるだけで震えそうになる。なのでできるだけ夜会には出ないようにして公爵と会わないようにしていたのである。

それなのにお母様に縁談を申し込むなんて。

私は人生が真っ黒に塗りつぶされてゆく気分になり、その日は食事もせずに眠ってしまった。


翌日、私は占いのオババのところに行く決心を固めた。女王様も決断に困った時に相談しているらしい占いの名手らしい。

「滅多なことで相談してはいけないよ」と言われていたので私もご挨拶したことはあるが、占いをお願いしたことはない。


初めてお願いすることになるが、どうしていいかわからない。城の近くの森に住んでいるというので侍女に頼んで森まで馬車を出してもらうことにした。

侍女は「縁談がお決まりになるということで不安になる気持ちはわかりますよ。」とウインクしてくれた。

多分私の本当の気持ちは知らないだろうけれどそう言われると少し気が楽になりそうである。

馬車には少し待っていてもらうことにして、私は一人で歩いて占いのオババの小屋に行き、ドアをノックした。


「誰だい?」

「あの、ローラ王女です。その、お城でお会いしたことがあると思います。」

「ふん!開いているよ。お入り。」

「はい」

私が扉を開けて中に入るとオババは糸を紡いでいるところだった。

「たとえ王族でも占いをして欲しいなら先に連絡するのが当然だろうに。」

「ごめんなさい。どうしても占ってほしくて。」

「縁談の話だろう。お前の母親から聞いておる。あのブタは挙動不審なやつだがお前さんとの相性は悪くない。」

「そうですか。」

私は目の前が真っ暗になる気持ちだった。

「じゃがもし運命を変えたければ試練の扉を潜れ。その試練から逃げなければ新しい道が開けるかもしれぬ。」

「試練の扉」

「ああ。それが嫌なら素直に運命を受け入れよ。」

オババは再び糸紡ぎを始めてしまい、もう私の方には見向きもしなくなった。

占いは終わったということだろう。


私は城の部屋に戻ると考えた。

相性は良いらしいけれどキモい相手と結婚するのがいいか、冒険するのがいいか。

「冒険一択よね。」

私の中の天使と悪魔は喧嘩することはなかったらしい。

私は2本のナイフを取り出して城を抜け出すことを決めたのだった。


翌朝、秘密の出入り口からそっと城を出た私は試練の扉のある丘に行き、決然とその扉を開けたのである。

扉の向こうは迷宮になっているようだった。

ゆっくりと歩いてゆくと角のところで男の人とぶつかりそうになった。獣人ではなかった。けれどもありである。鍛え上げられた体は男としての魅力を発している。


もちろん、私より弱い男など願い下げである。私は戦闘の神に祈りを捧げ、ナイフを振るった。

彼も何かわからないことを言った。きっとやめろとかだろう。けれども私はやめるはずない。どんどんナイフを繰り出してゆく。神よ、私の攻撃は当たらない。全部彼が見切ってかわしてゆくのだ。

彼も私の足を払おうとするがそんなの許すものですか。

彼と私の攻防は一進一退を続けた。

その時、彼は私の右手首を掴んだ。すかさず左のナイフを繰り出すと彼は体を開いてナイフを避け、そのまま脇で挟まれてしまった。彼は私より強い。喜びが全身を駆け巡る。でもそのまま負けるわけにはいかない。私は頭突きをし、股間目掛けて膝蹴りをした。その時彼は足払いをかけ、私は尻餅をついた。


そのまま彼は私の上に覆い被さり、気がつくと彼の唇は私の口とくっついていた。

王族の接吻、特に女性のファーストキスは相手に操を捧げるという意味を持つ。

私はこの時実感してしまったのだ。この名前も知らぬヒト族の男こそが私の番なのだと。


私は大神殿まで駆けて行き、大神官に番の審査をしてもらった。


王宮ではお母様が頭を抱えていた。

「ローラ、よりによってヒト族が番なんて。ヒトは獣人を差別するのよ。しかも名前もわからずどこにいるのかもわからないなんて。」

「お母様。私は世界のどこに彼がいても見つける自信があります。」

「ローラ……」

いけない、お母さんを泣かせてしまった。

「お母さん、もう私は衝動を抑えられないのでもう出発します。無事彼を見つけられたならご報告に上がります。」

「ええ。ここはいつまでもあなたの家よ。」

涙に暮れるお母さんを残してゆくのは辛い。けれども私は自らの衝動に突き動かされて城を出てゆくことにしたのである。

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