ギルドショップ
ダンジョンアタックして一週間ほどで地下10階に到達した。
多分、みんながレベルアップしているのと、ルシーダ姫が入って治癒魔法をかけてくれるようになったのが大きな要因なのだろうと思う。
もう8月である。学校は夏休みであるが、旧盆は清子も勝太郎も実家に帰るということである。
親父の連絡では友好条約の批准が国会を通れば9月にはダンジョン内で工事が始まるそうである。
それまでにはあのダンジョンの攻略を終えてしまいたい。
そのためにはもう少し良い装備が欲しいわけである。
ということで魔石や不要な素材を売りに行こうということになった。
舞鶴までは列車でゆく。
駅まではみんなで歩いてゆく。ローカル線なので朝夕以外は1時間に一本走るかどうかという少なさなので遅れないように注意した。
ローラはやっと列車に乗ることに慣れてきたけれど。ルシーダ姫は初めての列車体験である。
俺は念の為にノイズキャンセリングヘッドホンを使うことにした。
大きな音を立ててホームに滑り込んできた列車を見てルシーダ姫は硬直してしまった。
俺はローラと清子のお世話係である。
「勝太郎、ルシーダ姫のことは任せた。」
俺はそういうとドラゴンの卵のことばかり気にしている清子となんとか列車の騒音に耐えているローラを両手に掴んでなんとか列車に乗り込ませた。
その俺の姿を見たためか、勝太郎もエイっとルシーダ姫の腕を掴んでエスコートするように二人で車内に乗り込んできた。
二人とも顔を真っ赤にしていて、視線は明後日の方向を向いており、側から見ても緊張のあまりかちんこちんになっていることがわかる。二人がけの椅子が向かい合わせになって四人で座れる座席を俺たちは三人で座っていた。
空いている席だらけなのだが、勝太郎はどこに座っていいのかわからないのか目だけをウロウロと彷徨わせていた。
俺は「勝太郎、そっちに座れよ。」とややぶっきらぼうに言った。
おそらくそうでもしないと彼らは座席に座らずにずっと立ちっぱなしだっただろう。
座席に座った時にルシーダ姫は彼女と勝太郎が手をつなぎ合っていることに気がついたらしい。けれども、彼女はその手を繋いだまま、窓の方に顔を向けてしまった。
勝太郎は座席に座ったら手を離すつもりだったらしい。けれどもルシーダ姫の方が手を離さないので視線を彷徨わせたが、俺とローラはもうぎゅっと抱き合っているし、清子はドラゴンの卵に夢中である。
誰にも頼れない勝太郎は手を繋いだまま天井を向いている。
俺とローラはベタベタとしながら「勝太郎とルシーダ姫が上手くいくといいね」なんて小声で言い合っていたのである。
半時間ほど列車に乗ると山地を抜けて舞鶴に出る。そこから海側に行けば元々の海軍の基地があるらしい。けれどもギルドは山側にあるらしい。
軽い坂道を登ってゆくと城跡公園があり、その奥にひっそりとその場にはそぐわないような鉄筋の小さなビルが建っていた。
俺たちは俺がローラと清子を両側にエスコートしていた。清子は「ねえ、卵の中でドラゴンが動いたわ。もう孵化が近いのよ。」って言っている。勝太郎とルシーダ姫はお互いに手を繋ぎながらそっぽを向き合っている。
外から見ればなんとも奇妙な集団であっただろうが、観光客は海側に向かっているし、今歩いている道の周りは田んぼだらけで人もいないのでセーフである。
建物に近づくと入り口に小さな文字で「探索者ギルド舞鶴支部」という表示があった。
これは予め知っていないと見つけるのは困難だろう。
地味な自動ドアを入ると奥には分厚い鋼鉄製のドアがある。
俺は厚さ10センチ以上はある鋼鉄のドアを「よいしょ」と掛け声をかけて開いた。
中はロビーのようになっていて軽食を食べられるように椅子とテーブルが置かれている。そこにはすでに数人の男女が座っておりそのうちの何人かは俺たちを胡散臭げにじろっと睨んだ。
まあ、美人二人を両手の花にしている俺と初デートのように初々しく手を握り合っている勝太郎とルシーダ姫である。こんな場所には場違いにも程がある。
奥にはカウンターがあって受付のお姉さんがいた。
俺はそこに行って俺のギルド証を見せた。
お姉さんは営業スマイルで「ご用件をお申し付けください。」という。
俺は「一人ギルドに登録したいんだけど」と言った。
「ではその他の方のギルド証の確認と新たに登録したい方をどうぞ」
俺は其々にギルド証を出させた。
彼女は次々にギルド証を機械にかけてゆくが、ローラのギルド証を確認した時だけローラの顔を見てもう一度機械を確認した。
「お姉さん、大丈夫だよ、多分それで合ってる。」
俺は受付のお姉さんがあらぬことを口走らぬように先回りして言った。
「で、では新しくギルドに登録したい方は?」
動揺を抑えるようにお姉さんは聞いた。
ルシーダ姫は消え入りそうな声で「はい、私です。」という。
「ルシーダ姫は日本語を書ける?」
「は、はい。多分。」
俺は勝太郎の方に「そろそろルシーダ姫の手を離そうか。」
「何を言っている?……姫君、し、失礼しました。」
どうやら勝太郎はルシーダ姫の手を無意識に握り続けていたことに気がついたらしい。真っ赤な顔をして手を離すと後ろに下がった。
ルシーダ姫は勝太郎に手を離されて「あ」と小声をあげたが、すぐに入会の書類に向き直った。
彼女の書く日本語は思ったよりも判読可能だった。
受付のお姉さんは「種族」の欄に「エルフ」という文字を見て何か言いたそうだったが、それを予期していた俺の目力に押されて何も言わなかった。
ギルド証の作成には1、2時間かかるということだったので俺はその間に魔石の売却について聞いてみた。
荷物の多くない俺を見てお姉さんは「少量ならここで預かりますが。」と言いかけて「沢山あるなら地下の素材倉庫で受け付けます。」と言った。
「じゃあ地下でお願いします。」というと彼女は奥の階段に俺たちを案内した。
ローラは「旦那様、浮気はダメですよ。」と言って俺の腕に飛びついてきたし、清子はその後ろに静かに着いてきた。勝太郎とルシーダ姫はルシーダ姫が一瞬勝太郎に手を伸ばそうとしたが、次の瞬間にその手を引っ込めてしまい、結局お互いに違う方向を向いたまま着いてきた。
地下は解体作業をしている倉庫みたいな感じだった。
お姉さんは「一体、獣人とエルフってどういうことよ!」と叫んだ。
俺は口に人差し指を当てる仕草をした。
「魔石の鑑定中にギルドマスターに事情を説明してもらいますからね!」
お姉さんはプリプリと怒っている。
俺はあのスライムとゴブリンの小さな大量の魔石からオーグルの直径5センチくらいある魔石までずらりと並べた。オニの魔石は直径10センチくらいあるし、地下10階のモンスターはグリフォンやワイバーンなどもっと大きな魔石を持つものもいて、そういう魔石もあるのだが、お姉さんの顔が真っ青になってきたのでその辺でやめておいた。
「い、猪頭さん!ちょっと来てもらえますか。」
お姉さんは誰かを呼んだ。
来たのは中年の人の良さそうなおじさんである。
「ほい、どうした?ってこれは壮観だなあ。」
「なんでだかは知らないけどこの子達が持ち込んだの。鑑定をお願いできる?」
「ああ、いいけど。でもこの量なら少し時間がかかるぞ。」
「いいわ。その間にこの子達にはギルドマスターと面会してもらうから。」
(何ですと?)
その心の叫びが口から声になっていたらしい。
「当たり前でしょう。何でF級の駆け出しがあんなに魔石を持っているのよ。
俺はもう引きずられるようにしてある部屋に連れてゆかれた。
「あなたたち、そのソファに掛けて待っていなさい。」
そしてお姉さんは「ギルマス!ちょっと来てください!」と叫びながら部屋を出ていったのである。




