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龍殺しの英雄

ドラゴンの首を刎ねるように周囲の兵士(戦闘終了後に入ってきたのだ)に言いつけてから俺は勝太郎の元に行った。


勝太郎は腹部に強烈な打撃を受けたらしく、肋骨はもう何本も折れていて、腹部は見えているだけでもあちこちで青黒く変色していた。それだけでもいくつかの臓器が破裂しているのではないかと推察できた。

当然勝太郎の意識はない。明らかに呼吸が弱くなってきているのが見て取れる。


もう助からないであろう彼を抱きしめて「勝太郎様死なないで。」と繰り返し譫言のように呟いているルシーダ姫を正視するのは辛かった。


こんなことになるのならルシーダ姫を連れてこなかった方が良かった。


いつの間にかローラが俺の横に来ていて俺の手を握ってくれていた。

俺たちは一言の言葉を交わすこともできずに黙って手を握り合っていた。


俺に残された仕事は勝太郎が逝ってしまった後にルシーダ姫を勝太郎から話してやることであろう。

軽率にルシーダ姫を討伐に連れてきてしまった責任は俺にある。だからその最後の仕事は他人に任せることはできない。


刻一刻と勝太郎の命が燃え尽きていくのを俺たちはただ茫然と見つめていることしかできなかったのである。


と、その時、ルシーダ姫の体が白く輝いた。

彼女の体からは白く輝く糸のようなものが無数に出ており、その先端が勝太郎の体に触れているようである。


そのまま、ルシーダ姫と勝太郎の体は白い糸に覆われて、まるで繭のようになってしまった。

もう二人の体は糸に阻まれて見ることもできない。


俺はローラの方を見たが、ローラも信じられないものを見ている感じであり、俺の視線に気がつくと、俺の手を強く握ってきた。


念の為、周囲を見ると、俺たち以外の人たちは誰も異変に気がつくことなくドラゴンの解体作業に精を出している様子だった。


数分もかからない間に繭の輝きは次第に薄れていった。


後に残されたのは服がズダボロになった勝太郎とルシーダ姫が二人とも全く無傷な様子でスヤスヤと眠っている姿であった。ルシーダ姫の服が破れていたということはあの白い糸は何らかの実体を持ったものだったのかもしれない。


それを見て思わずブワッと目から水を溢れ出させた俺を馬鹿にしたい奴がいれば勝手に馬鹿にすればいいと思うよ。


何が起こったかは理解できないのだけれど、勝太郎が助かって良かった。


俺の泣き顔を見たローラは「健斗はやっぱり私の番よ。」と逝って俺の涙をペロンと舐めた。


少し落ち着くが、勝太郎とルシーダ姫は全く目覚める気配がない。

俺は二人の体を覆うための布を持ってきてもらうようローラにお願いした。


俺が勝太郎とルシーダ姫の体を覆って俺とローラで二人を抱き抱えて運び出した時には龍の解体は随分終わっていた。


洞穴の外にはルシーダ姫の侍女がいたので二人の世話を任せた。


洞穴内に戻るとギリド王子がホクホクした顔で解体された龍の素材を運び出しているところだった。


傍には清子がいて何か白くて丸いものを抱えていた。


「清子、その持っているものは何?」

俺が聞いてみると清子は答えた。

「奥で見つけたの。多分、ドラゴンの卵じゃないかしら。きっとあの龍はお母さんだったのよ。卵を守るために凶暴になっていたんじゃないかな?」

「それで、その卵をどうするの?」

「持って帰っていいかしら。孵化させてあげたいわ。」

「わかった。でもまずは城に帰って親父に相談しよう。」


そう言って俺は周囲を探すと宝箱があった。兵士に聞くと、俺たちの命令がなかったので触らなかったそうである。


箱を開けると、入っていたのは一振りの刀とスクロール、あとはポーションだった。ポーションは上級ポーションと中級ポーションである。


刀は「katana of general」というもので説明には「侍大将の刀」とある。おそらく侍の刀より強いのだろう。


スクロールは「変化の術」というもので自分の体を自由に他の種族などに変えられるというものだった。


俺は侍大将の刀を持つと、他の物は魔法のバッグに一旦しまい込むことにして城に戻った。


龍退治に成功したという話は既に伝わっていたみたいで、王都の人が総出で俺たちを歓迎してくれたし、女王陛下も城の前まで出て来て歓迎してくれた。

親父もその傍にいて、俺たちに手を振ってくれた。


城に着くと、とにかく勝太郎とルシーダ姫を医師に見せることにした。


医師は二人を診察してどちらも大きな問題はないというのである。そのまま二人はそれぞれの部屋で寝かせることになった。


二人の件が終わると、次は卵の件である。

俺は清子を連れて親父のところに行った。


親父はご機嫌である。

「お前たちのおかげで女王陛下もご機嫌でね。無事に我が国との友好条約が締結されそうだよ。」


「ところで親父、子爵ってどういうことだ?」

「その通りだが。」

親父は俺の厳しい目を見たためか少し躊躇しながら言った。

「ああ、うちは元子爵だがな。こういう貴族社会での折衝では子爵を名乗っていいという許可をもらっているんだよ。」


まあいい。それよりドラゴンの卵である。

清子に卵を見せろと促した。

親父は仔細に卵を見ると、「ほう、そうか。これがドラゴンの卵か。俺も初めて見たよ。」

「で、持ち帰ることについては?」

「卵が孵化したら従魔としてギルドに登録すること。あとは学校の許可だな。それは俺がやっておいてやる。」

「良かったな、清子。」

清子はにっこりして親父にペコっとお辞儀した。


城の廊下を歩いていると、以前は挨拶などしてこなかったような衛兵たちが俺の顔を見ると嬉しそうにお辞儀をしてくるのである。

ドラゴン退治の効果かな……


部屋に戻るとローラがいた。

ローラは帰ってから勝太郎とルシーダ姫の様子をちょくちょく覗きに行ったそうだが、二人とも目覚める兆しはなかったそうである。


「ローラ、ありがとう。」

「いいえ、気にしないで。」


俺はローラに口付けするとそのままベッドに二人で倒れ込んでしまった。そのまま何をするということもなく眠りに入ってしまった。


朝起きると、ローラの寝顔があった。

思わずキスするとローラの目がぱっちりと開いた。

「ごめん、起こしちゃった?」

「いいえ、さっき起きたところよ。」

「じゃあ、朝の修練に行ってくるね。」

俺はベッドを抜け出して服を着替えると、中庭に出ていつもの修練をはじめに行った。

ローラはベッドの中から「がんばってね」と声をかけてくれた。

朝食を終え、お昼前に勝太郎の部屋に行くと勝太郎が目覚めていた。

「お、勝太郎、目が覚めたか。」

「俺はてっきり死んだはずだと思ったのになぜ助かったんだろう。」

「そうだなあ。女神様の救いかな?」

「女神様か…」

「水でも飲むかい?」

「ああ。頼む。」

俺は脇の水差しからコップに水を注ぐと勝太郎に手渡した。

勝太郎はその水をゆっくり飲んだのである。


侍女が部屋に入ってきて、勝太郎後来ているのを見ると急にワタワタし出して「勝太郎様がお目覚めになられたわ、早くお医者さんをお呼びして!私たちはお着替えをして差し上げましょう。」という。

「何だか俺って急にモテている感じ。」と勝太郎が呑気なことを言うので、「そりゃ流退治の英雄様だからな。」と返していると俺は侍女たちに勝太郎の着替えがあるからと部屋の外に出されてしまった。


「ルシーダ姫のところにでも行ってみるか。」

俺がルシーダ姫の部屋に行くとルシーダ姫も目編めたところだったらしい。着替えをしていたみたいで、少し待たされた後に入室を許可された。

「ルシーダ姫、気分はどう?」

「勝太郎様のお加減はどうですか?」

「さっき見に行ったら彼も目を覚ましたところだったようだよ。」

「ああ、良かった。」

ルシーダ姫は大きく息をついた。ほっとしたようだ。

「ルシーダ姫、勝太郎を助けてくれてありがとう。」

「なんの事でしょう。私は勝太郎様を抱きしめてその呼吸が弱くなっていたところまでしか記憶がないのです。」

そうか、この子の癒しの技は無意識のうちに発揮されたのか。

「お医者様にベッドを出ていいという許可が出たら連れて行ってあげるよ。」

「えっ!あっ、あの、はわわ。」

ルシーダ姫は表情をコロコロと変えて慌てている様子だった。


部屋に戻ってくるとローラがいた。

「ねえ、あの子、ルシーダ姫ってあの学校に留学させられないかしら。」

「ファッ?」

思いがけないローラの言葉に俺は驚いて変な声を出してしまった。

「明らかにルシーダ姫って勝太郎に惚れているでしょう。」

「勝太郎の方もルシーダ姫に惚れているな。でも二人ともヘタレだぞ。」

「ええ、でもこのままルシーダ姫が自国に帰ったら気に染まない人と婚約させられるわけでしょう。」

「まあそうなるかもな?」

「それは二人にとっては悲劇だわ。」

「わかるけれどまず本人の意向を聞かなければ。俺たちだって嫌だと言っているルシーダ姫を無理やり連れて行くわけにはいかないよ。」

「そうね。それは確認してみましょう。」


俺は念の為、勝太郎とルシーダ姫の故意の部分は省いて親父にこのことは話しておいた。

親父も流石に驚いていたみたいだ。

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