生徒会
北畠と勝太郎はおよそ一週間の入院の後、学校に復帰してきた。
「毒の影響はほとんどなかったんだけれどね。」
北畠はちょっと照れたようにはにかんでいた。
一方で、勝太郎は右手をギプス固定されて三角巾で吊っていた。
「ははは。危うく手術されるところだったが、なんとか回避して乗り越えてきたぜ。」
クラスでは右手が使えずにノートが取れない勝太郎に女の子が群がっていた。
「おい、勝太郎、モテモテじゃないか。」
俺がそう揶揄うと、勝太郎は「お前にだけは言われたくないよ。」とプイッと横を向かれてしまった。
俺が鑑定をかけてみるとそれぞれが以下のようになっていた。
名前 海崎 健斗 種族 人間 レベル22 HP133/133 MP1585/1585 スキル 刀術Lv.5 剣術Lv.5 槍術Lv.2 鑑定Lv.3 言語理解Lv.2 火魔法Lv.6 称号 慈恩流免許皆伝、火妖精との契約者、ローラ王女の番、鴉天狗、火魔法の熟練者、鬼退治
名前 ローラ・ハルシュタット 種族 猫獣人 レベル22 HP188/188 MP110/110 スキル 短剣術Lv.6 剣術Lv.2 短弓術Lv.4 宮廷作法Lv.3 言語理解Lv2 称号 第一王女、二刀流短剣術の達人、海崎健斗の番、鬼退治
名前 布留那 勝太郎 種族 人間 レベル18 HP122/162 MP 53/53 スキル 刀術Lv.4 剣術Lv.2 体術Lv.3 称号 布留那一刀流嫡男、鬼退治
名前 北畠 清子 種族 人間 レベル15 HP89/89 MP 151/151 スキル 刀術Lv.5 剣術Lv.2 体術Lv.1 称号 無想神念陰流後継者、鬼退治の一員
みんな、鬼退治の称号がついている。
勝太郎と北畠はやっぱりオーグル退治や蠍退治のおかげだろう、結構レベルが上がっている。
勝太郎は今骨折しているので体が動かせないけれど、復帰したら結構やれrっようになっているはずである。
そんなある日、あの高柳という上級生が昼休みに昼食を食べていた俺たちのところにやってきた。
「おや、北畠くんと布留那君も退院市長だね。それじゃ、今日の放課後など生徒会に来てくれないだろうか。」
高柳先輩は爽やかにそんなことを言う。
「高柳先輩って生徒会長じゃないの?」
北畠は俺に聞いてきた。
「そうだよ。あの野外演習の時、生徒会長に言われていたんだ。」
俺がそう答えると、北畠はすかさず「高柳生徒会長、仰せの通り、今日の放課後に生徒会室に伺わせていただきますわ。」と答えてしまった。
事情がよく飲み込めていない勝太郎は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。
高柳生徒会長は「じゃあ、生徒会室で待っているから。」と言って爽やかに教室を出て行ってしまった。
「清子、おい、勝手に決めるんじゃない。」
勝太郎は北畠にムッとした顔で行った。
「あら、何か御用がごしましたの?」
「い、いや、別に特に用はないんだけれど。」
勝太郎の語尾が弱くなってゆく。
「では問題はありませんね。」
俺たちは否応なく生徒会室に向かうことになってしまった。
授業が終わってそっと教室を抜けようとした俺の手首をガッシと掴むものがいた。
「健斗?どこ行くの?今から生徒会室だよ?」
ローラである。
向こうでは同じように逃げようとしていた勝太郎が北畠に捕獲されていた。
北畠は勝太郎を逃げないように掴みながら、俺の顔を見て「健斗さん、さあみんなで行きましょうね。」とにっこりと微笑んだのである。
生徒会室に行くと何人かの生徒がすでに机を挟んで座っていた。
奥には高柳生徒会長が座っている。
高柳は俺たちが入ってくるのを見て立ち上がり、「よくきてくれたね。」と招き入れてくれた。
俺たちが中に入ると、北畠が「高柳生徒会長、お招きいただきありがとうございました。」と挨拶した。
その後俺たちは一人ずつ名前を言ってお辞儀をしたのである。
高柳先輩は「うん、君たちの鬼退治の名前は広まるところには広まっているからね。生徒会としても逃すわけにはいかないからね。」と言う。
あの先生は多分鑑定持ちだったからあそこから鬼退治の称号は漏れたのかもしれない。とても生徒会長に聞くわけにはいかないけれど。
「じゃあ、まず生徒会のメンバーの方を紹介するよ。こちらが副会長の野瀬さん。」
長い黒髪の落ち着いた美人女性が「野瀬です。」と挨拶してくれた。
俺たちも「よろしくお願いします。」と頭を下げる。
「次に会計の横田さん」
この人は宮本先生の研究室で俺たちを指導してくれている人でもある。
「来たわね。一年坊主たち。よろしくね。」と気さくに挨拶してくれた。
俺たちは同じように挨拶したが、その後、俺が「先輩が生徒会に情報を流していたんですね。」と言うと横田さんはにんまりと笑うと、ペロって舌を出していた。
「次に書記の斉藤くんだ。」
彼は男性で、生徒会長ほどではないがそれなりにイケメンである。
「よろしくお願いします。」と挨拶した斉藤さんは「私も布留那一刀流の一門ですので御曹司を迎えられて光栄です。」と言う。
勝太郎はちょっとむず痒そうな顔をして、「斉藤先輩は目録まで進んでおられますから剣の腕は折り紙付きですよ。」と言う。
高柳先輩は「彼は生徒会監察部隊の隊長なんだ。ぜひ君たちも生徒会監察部隊に入ってほしいんだよ。」と言う。
彼によると生徒会監察部隊は下級生の野外実習や迷宮実習の時の監視役や近隣で目撃されたモンスターの討伐などを行うそうである。
北畠が「光栄です。ぜひ参加したいですわ。」と誰もが制止できない間に言ってしまったので有無をいわせずに入隊する運びとなった。
高柳先輩はその後ちょっと困ったように、「実は渉外担当が長期離脱中でね。是非海崎君にお願いしたいんだが。」と言ってきた。
もう毒くらわば皿までである。俺は黙って頷いた。
「海崎君、よろしく頼むよ。で、助手は一人必要だろうから誰か言ってくれるかい?」
高柳先輩がそういうと、ローラと北畠が同時に手を挙げた。
「は?清子、こう言う時には側室のあなたは身を引いて正室の私を建てるものでしょう。」
「は?ローラこそ大人しくしていなさいよ。健斗さんの横に立つのは私のほうよ!」
そう言ってローラは両手にナイフを構えると北畠も刀を抜いて青眼の構えを取った。
俺は慌てて二人の間に体を捩じ込ませると「生徒会室で真剣を抜くなんて二人とも正気ですか?」と言ってとにかく二人を離した。
そして「勝太郎。渉外の助手ならキミがいいよ。」と言って指名したのである。
高柳先輩は面白そうにくつくつと笑いながら「じゃあ女子には生徒会室の書類整理を手伝ってもらおう。海崎君と布留那君はクラブ上納金の徴収に行ってくれたまえ。」と言った。
俺はリストをもらうとさっさと生徒会室を後にしたのである。
リストには柔術部、空手部、撃剣部の3つの名前が載っていた。
クラブ棟は初めてだったが、まずは撃剣部に向かうことにした。
少し探すと撃剣部の部室が見つかったので、ノックをすると部員らしき男の子が顔を出した。彼は勝太郎の顔を見て強張っているようである。
俺は「ちぃーっす。生徒会の方から来ましたぁ。」と言ってその男子生徒の横から部室の奥に入っていった。
中には3人ほどの部員がいた。
「お、お前、鴉天狗じゃないか。何しにきた。道場破りか?」
何か勘違いしすぎていないだろうか。
「生徒会の仕事でね、クラブ上納金を回収してこいと言われたんだよ。」
「それならお前がこのクラブに入れよ。」
「いや、何を言っているんだ?」
俺たちが押し問答をしていると勝太郎がのそっと入ってきた。
「お、御曹司!?」
「健斗、何してんの?さっさと回収して次に行こうや。」
勝太郎の威圧に震え上がった生徒はすぐに上納金を持ってきた。
さすがは御曹司である。
次に行った柔術部ではあっさりとお金を払ってもらうことができた。
最後に行ったのは空手部である。
ノックして部室に入ると壁中にアイドルのポスターが貼られていた。
ギョッとして奥を見ると、筋骨隆々とした大男が道着を着て座っている。
「ごめんくださーい、生徒会の方から来ました。クラブ上納金のお支払いお願いしまーす。」
「断る。」
「は?」
「このアイドルグッズを買うために上納金のお金は全て使い果たした。ない袖は振れない。」
「は?ふざけるなよ。」
俺は激怒してその男を睨みつけた。
するとその男はポッと顔を赤らめて「そ、そんなに見つめられたら恥ずかすい」と俯きやがったのである。
「はあぁ?」
「よしっ、俺も男だ。空手部主将の名にかけて俺の体を好きに使ってくれ。」
そう言って男は道着を緩めて脱ぎ出そうとし始めたのである。
「待てっ、待つんだ、早まるな。そっちじゃない。」
「なんだつまらん。じゃあ、全員集合!」
彼が声をかけると、7〜8人の筋骨逞しい男たちが道着を着て集合した。
主将が「空手部より生徒会に申す!」と言うと後ろから「押忍!」と言う掛け声がかかる。その音圧に負けずに立つのは大変である。
「空手部一同、生徒会の求めに!」「押忍!」
「肉体労働で上納金に変えさせて頂く!」「押忍!」
「…………」
「これでいかがか。」
後ろから勝太郎が「それでいいんじゃないか?生徒会に連絡したら空手部は毎年そうらしい。」という。
ちょっとむかっとした俺はつい、「なんだよまったく。ここのポスターを火魔法で燃やしたい気分だ。」と言ってしまった。
すると主将は慌てたように「緊急事態だ!みんな!ポスターを肉体で防御するんだ!」と叫んだ。
すると部員たちはその筋骨逞しい体をポスターに密着させ始めたのである。
俺は流石に馬鹿馬鹿しくなって「冗談です。校内での無許可の魔法使用は違反ですから。では生徒会からの連絡をお待ちください。」と言ったのである。
主将は「ご協力感謝します。」と言って俺に握手の手を差し出してきた。
俺はやむなく主将と握手してから空手部の部室を後にしたのである。




