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久しぶりの実家

中学も無事卒業できたし、免許皆伝も取れたので実家に帰ることにした。

住んでいた部屋の片付けと清掃をやり、荷物はトランクに詰めた。

お昼ご飯の準備をして師範と瑠美と三人でご飯を食べた。

「いやあ、炊事係が一人減るのはやっぱり困るなあ。どうだね、健斗くん、うちに永久就職なんていうのは。」

相変わらずの師範である。

向こうで瑠美が顔を真っ赤にしている。父親に入婿と言われたら多感な中学生は変に気にしてしまうのだろう。」

俺は「これからは高校生になりますし、実家のことも心配なんです。」と師範の言葉をやんわりとかわした。

「そうだな、誠司の奴、奥さんに逃げられやがって。もう一人くらい作っておけばいいものを。」

誠司とは俺の親父の名前である。でも師範、それは大ブーメランです。しかもご自分にまっすぐ飛んできている。

瑠美の母親と同じように俺の母も俺がものごころつくかどうかの時に蒸発している。俺も瑠美と同じように母の顔は知らない。


師範の無理難題を華麗にかわしてトランクを持って玄関に行った。

瑠美は師範の陰に隠れている。

「長年お世話になりました。」

俺が挨拶すると師匠は「いつでも戻ってきていいからな。」といってくれた。

瑠美は声に出さずに口真似で「約束忘れないで」と言っているのが見えたので手を振るとあっかんべーと舌を出しやがった。


それで道場を辞去してゴロゴロとトランクを押して自宅に帰ったのである。

持っていた合鍵でドアを開けて中に入ると親父がいた。

「ただいま。珍しいな、親父が家にいるなんて。」

「何を言う。愛する息子の高校入学手続きくらいやらないとな。」

親父は振り向きざまににかっと笑みを見せた。

「合格発表が来ていたの?」

「ああ。しかも特待生らしいぞ。」

親父は書類を取り上げて俺に見せてくれた。

その紙には確かに俺の名前と受験番号が印刷されており、大きく「合」と印刷され、その下に「特待生として授業料50%減免3年間」と小さな文字で書かれていた。


「ははは、さすがは我が自慢の息子だよ。じゃあこの書類を出したら俺は仕事に行く。生活費などはいつもの口座に振り込んでおくからな。アディオス!」

そう言うと親父は嵐のように去っていった。


俺は親父の相変わらずの行動に小さくため息をつくと、自分の荷物を広げてクローゼットにしまった。

荷物自体少ないものだったのですぐに片付け終わると台所に行った。

台所には親父の残したお酒の空き缶とツマミらしい空袋が乱雑に残されていた。

冷蔵庫を開けると綺麗に空だった。想像通りである。


俺は親父の残した酒盛りの後を片付けるとスーパーマーケットへと向かった。自転車で10分くらいのこのスーパーマーケットには道場暮らしの時にもよく買い出しに来ていた店なので中はよく知っている。

もしかして瑠美が買い出しに来てやしないかと心配したが特に知り合いには出会うことはなかった。


いや、中学を卒業したばかりらしい若者が親と買い物に来てはいたのだが、俺も向こうの名前を知らないし向こうも俺のことを知らないだろう。

もう彼らとは生きている世界が違ってしまっているのである。


切れていた懐中電灯と予備の電池を買い、数日分の食料を買い込んで自宅に戻った。

久しぶりに自宅で料理して夕食を楽しんだのである。

自宅の風呂を沸かして入ったのも久しぶりだったと思う。

俺は疲れていたので早めにベッドに入ることにした。


♢♢♢


「ガサゴソ、ガサゴソ」

俺が目を覚したのは午前3時前である。

春分近くなって少しは日が長くなってきたとはいえ、この時間はまだ真っ暗である。

俺が目を覚したのは家の外から何やらガサゴソいう音がしたからである。

(獣かな?)

春になって獣が山から降りてきている可能性もある。

クマが出てきていたら困るよね。まずないと思うけど。


俺は上着を羽織ると木刀と懐中電灯を持って裏庭の方に回った。裏庭は山につながっている。

(えっ?子供?)

そこにはクマではなくて小柄な子供みたいな姿があった。

(いくらなんでもこの時間に子供がいたら怖いぞ)

その「子供」とふっと目が合った。


人間ではなかった。

鷲鼻をして目つきの悪い緑色の肌をした異形だった。

そいつは「グギャギャ!」と変な叫び声をあげて持っていた棍棒みたいな棒を振り上げて近付いてきた。驚いたことにそんな奴でも全裸ではなく粗末な腰蓑みたいなものを巻いていた。

そいつは俺に棍棒を振り下ろしてきたので、それをかわすついでにカウンター攻撃でそいつの脇腹を思いっきり木刀で振り抜いた。


嫌なグシャッという感触と共にその怪物はズルズルと地面に崩れ落ちてしまった。

横には同じような格好の怪物がいる。俺はそいつの脳天に木刀の一発をお見舞いした。そいつの頭はグシャリと潰れてそいつはそのままぶっ倒れて動かなくなった。


奥にいたもう1匹はいきなり踵を返して山に向かって駆け出した。

俺はそれを追いかけた。

山道は数年整備せずにほったらかしにしていたのであちこちに草が茂っていて走りにくかったが、なんとか見失わずに追跡することができた。

遂にはその怪物が山肌にできた穴に逃げ込むところまで確認できたのである。


しかしこんなところに穴なんてあったっけ。

記憶にはこんな穴はない。取り敢えず、穴の横に石をいくつか積み上げることで目印にして一度家に戻ることにした。


家に戻るとヘッドライトを取り出した。電池を入れ替えてしっかりとライトがつくことを確認した。

服もパジャマからいつもの服に着替えてヘッドライトを額に装着して上に帽子をかぶった。リュックサックに方位磁針と方眼紙、筆記用具、保存用の補助食品、水の入ったペットボトルを入れて取り敢えず準備は完了である。

腕時計を見ると時刻は3時半だった。


再び外に出た。裏庭のさっき怪物を倒したところに行くと死体はなかった。 

(えっ?)

驚いて辺りを探ると死体のあったと思われる場所に大きさが小指の先くらいの黒紫の宝石を見つけた。二つの宝石は同じくらいの大きさだった。


宝石をしまうと俺は穴のあったところに急いだ。


穴はさっき見つけた通りにあった。穴の横に俺が積んでいた石もそのままに残っていた。

さっきとは違い、俺は準備してきたのである。そのまま中に踏み込むことにした。

おっかなびっくり中に踏み込んでゆく。

入ったところは大きな広間みたいになっており、上から大きなコウモリが襲ってきた。不意を突かれたが俺は落ち着いてコウモリの攻撃を避け、かえす刀でコウモリを叩き落とした。

コウモリの姿はすぐに溶けるように消えてしまい、後には本当に小さな緑色の宝石が残った。

そこから奥の方にあちこち調べ回った。

いくつかの部屋にはあの緑色の小人みたいな奴がいた。他には大コウモリとゼリーみたいな半透明のぷるぷるした奴である。予想より大量にいて、最初は倒した数を数えていたが、どれもこれも倒されると宝石を残すのであとで宝石の数を数えればいいやと数えることはもうやめてしまっている。


踏破したところは頑張って地図に残している。最近のRPGは結構オートマップ機能がついているが、たまたま俺がやっていたRPGはその機能がなかった。それで俺は方眼紙にマップを書いていたのである。

その経験がこんなところで役に立つとは思わなかった。


迷宮は入口の方は自然の洞窟のようだったが、奥の方に来るとレンガとか石材で壁が作られており、直線的な通路や部屋に変わっていった。

不思議なことに壁が光っているようで、もうライトで照らさなくても見えるようになっていたのである。

おそらくは骨や内臓が破壊されるあの感触に慣れることはなかったが、俺の木刀は一撃で敵を粉砕し続け、小さな宝石を取り続けた。


そこに猫女が現れた。

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