野外演習(4)
オーグル達を倒したが、洞窟から別のモンスターが現れる気配はない。
嫌な予感もするので俺は侍の刀に持ち替えることにした。
ローラには短弓を準備するように言う。
刀を持った俺と短弓と矢筒を背負ったローラを見て北畠と勝太郎は唖然としている。
「「お前らどこで探索者をやっていたんだ!」」
俺は慌てて「い、いやまあちょっと。」と誤魔化そうとした。
ローラはニッコリとして「私たち番ですから。」と言う。そして俺に向かって上目遣いで俺を見つめてきた。
俺はドギマギして「そ、そうだね。」と言う。
勝太郎は「その、番ってことはわかるけれど、それが今、どういう関係があるのかわからない。」
俺も全くその通りと思う。
ローラは俺に小声で話しかけてきた。
「ねえ旦那様、私がちょっと帽子を取ってもいいかしら。」
俺は腰を抜かしそうになって「待て待て、それはだめだ。」と厳重に留めることにした。
「何か事情でもあるの?」
北畠は怪訝そうな声で聞いて来た。
「い、いや、なんでもないんだ。それより洞窟へのアタックを開始すべきだと思う。」
とりあえず俺は話を誤魔化すことに成功した。
ローラのやつ、ちょっと気を許しすぎなのではないか。
そりゃもし彼らとパーティーを組み続けるならいつかはバレるかもしれないが、それはその時になって考えればいい話である。
少し落ち着いた俺はパーティメンバーの鑑定を行うことにした。
名前 海崎 健斗 種族 人間 レベル20 HP111/122 MP1021/1440 スキル 刀術Lv.4 剣術Lv.5 槍術Lv.2 鑑定Lv.2 言語理解Lv.1 火魔法Lv.5 称号 慈恩流免許皆伝、火妖精との契約者、ローラ王女の番、鴉天狗、火魔法の熟練者
俺はレベルは上がっていなかったが火魔法レベルが上がっていて称号も加わっていた。
名前 ローラ・ハルシュタット 種族 猫獣人 レベル20 HP171/171 MP102/102 スキル 短剣術Lv.5 剣術Lv.2 短弓術Lv.3 宮廷作法Lv.3 言語理解Lv2 称号 第一王女、二刀流短剣術の達人、海崎健斗の番
ローラは変わりがない様子である。
名前 布留那 勝太郎 種族 人間 レベル10 HP41/89 MP 30/30 スキル 刀術Lv.3 剣術Lv.2 体術Lv.2 称号 布留那一刀流嫡男
勝太郎もレベルは1上がっているが大きな変化はなかった。
名前 北畠 清子 種族 人間 レベル10 HP51/58 MP 98/99 スキル 刀術Lv.4 剣術Lv.2 体術Lv.1 称号 無想神念陰流後継者
北畠は思ったよりMPが高いようである。もしかすると魔法剣士の素質があるのかもしれない。俺が鑑定をかけた後で少しくすぐったそうな顔をしているが、鑑定に気がついたのだろうか。
俺は「じゃあ俺が先頭で入るね。」と言って洞窟の中に入ることにした。
部屋の中はほのかに明るい。壁がわずかに光っているようである。
うちの裏山と同じ感じだな。
と、部屋の奥からガサガサという音と共に両手にハサミを持ち、尻尾を上げた甲殻類が数匹出てきた。
「こ、これは蠍?それにしてはデカすぎないか?」
合わせて3匹の大蠍が出てきた。
後ろからローラと残りの二人も部屋に入ってきた。
「ローラ、短弓で狙って!」
ローラは狙いをつけて矢を射たが、3本のうち1本しか当たらない。
当たった一本は体節の境目に突き立っていた。
ローラは冷静に「殻が硬いですね。」という。
俺はファイアボールを唱えてみた。
火の玉が爆発したが、効果は少ないようだ。
「あちゃあ。火の玉も無理か。」
蠍たちは火の玉にめげずにこちらに攻め寄せて来る。殻の一部分には焼け焦げがあるが、中にまでダメージが及んでいないのだろう。
鑑定をかけると
大蠍 HP50 MP 10 ハサミダメージx2 尻尾の毒針
という表示になる。
その後に「大蠍:硬い殻を持ち、耐久力の高い蠍。両方のハサミによる攻撃は強力である。尻尾の毒針の毒は相手を麻痺させる効果がある。」という説明がある。
「みんな、刃物であの節と節の間に攻撃しろ。あと尻尾の毒針に気をつけろ」と声をかけた。
ローラはナイフを両手に持って蠍のハサミを切り離しにかかった。
ハサミの攻撃を素早く掻い潜り、関節部分にナイフを突き立てた。
「これは切れるわ。」
ニンマリとローラは笑うけれど、その背後に毒針の尻尾が襲いかかる。俺は侍の刀を持って尻尾を両断した。
その間にローラは蠍の頭を潰してトドメを刺してくれた。
北畠と勝太郎は力を合わせてもう一匹の蠍と戦っている。
「ローラはあの二人を助けに行ってね。」
俺がそういうとナイフを引っ提げたローラは勝太郎たちの救援に向かった。
俺はもう一匹の蠍に向かい合ったのである。
この侍の刀は結構切れる。それを自信に一人でいけそうということで戦うことにしたのである。
ローラの真似をしてハサミの攻撃を掻い潜ると尻尾の毒針を切り離す。
その後、ハサミは無視して蠍の頭を潰すという方法で戦うと結構あっさりと倒すことができた。
もう一匹を見ると、ローラが蠍にトドメを刺したところだった。
北畠が倒れ込んでいる。
「どうした」と駆け寄ってみると、どうやら北畠は蠍の毒を喰らったようである。
意識が朦朧としているようで呼びかけても北畠は返事しない。
これは解毒薬を自力で飲めないのではないか。
俺はとにかく傷口を吸って蠍の毒を吸い出すことにした。
腕の傷口を吸うと口の中がピリピリする。多分これが毒なんだろうと思う。
その後、俺は解毒剤を開封すると、それを口の中に含み、彼女の口に直接流し込んだ。
俺の口の中は解毒剤で洗い流した感じになり、違和感は消えた。
彼女の口に流し込んだ解毒剤も少しづつは飲んでくれたようで、ややあって彼女は目を開け、「あ、健斗君」と弱々しく呼びかけに答えてくれた。
一応、北畠は歩けるくらいにまでは回復したが、戦闘は無理なようである。
奥の部屋に通じる道があるけれど、彼女はこの部屋に残して奥の部屋に行くことにした。
奥の部屋には二匹のオーグルがいたが、瞬殺である。
さらに奥の部屋に入ると、額から日本のツノを生やしたオーグルの巨大版のようなモンスターがいた。
「あ、あれは鬼じゃないか。」と勝太郎は蒼白になって指差した。
俺たちに気がついた”鬼”は無表情に立ち上がった。
”鬼”は棍棒を獲物にしている。俺たちは散会して鬼を取り囲む形になった。
ものすごい勢いで棍棒を振り回してくる”鬼”にはさすがのローラも間合いを詰めることができない。
「これは魔法の出番かな?」俺はファイアボールを”鬼”の顔面に打ち込むことにした。
「ファイアーボール!」
俺の手から発せられた炎の玉は狙い違わずに”鬼”の顔面目掛けてすっ飛んでゆく。
必死で顔をかわそうとした鬼だったが、火の玉は”鬼”の左顔面に激突した。
”鬼”の左顔面は焼け爛れ、眼球からは出血している。
すると”鬼”は棍棒をグルングルンと体の周りでふり回し始めた。
逃げようとしたローラが棍棒に当たって弾き飛ばされた。
「おい、ローラ、大丈夫か。」
「なんとか大丈夫よ。」
吹っ飛ばされて倒れたローラはゆっくりと起き上がりながらいう。
今は勝太郎が”鬼”に剣を向けて対峙している。
「ローラ、あの”鬼”の左手から短弓で打ち込んで勝太郎を援護してやってくれ。」
「ええ。」
ローラは短弓を取り出して”鬼”の左手にまわって矢を打ち込み始めた。
”鬼”は」イライラとして左側に向き直ろうとする。それに対してローラがさらに左側に移動して短弓を撃ち続ける。
その時、棍棒を振り回す手を止めた”鬼”に一瞬の隙を見つけたのか、勝太郎が”鬼”に必殺の突きを打ち込んだ。
次の瞬間、鬼の棍棒を交わしきれずに右腕に受けた勝太郎は吹っ飛んだ。
右の二の腕は痛々しく腫れ上がっている。
その間も”鬼”の左半身には矢が十数本突き刺さってきている。
”鬼”の意識がローラと勝太郎に向いた隙に俺は侍の刀を”鬼”の背中から袈裟斬りに切りつけた。
鬼の右の肩口から切り下げた傷からは大量の出血が起こり、鬼は棍棒を取り落とした。
仁王立ちになった”鬼”に、起き上がった勝太郎は左手一本で鳩尾から上に向けて突き通す勢いで刀を突き出した。
おそらくは心臓に達したのであろう。ものすごい勢いで傷口から血が吹き出したのである。
俺と勝太郎は血だらけになって立っていた。
ややあって我に帰った俺たちだったが、勝太郎は右腕の痛みを自覚したらしく、「いて、いてて」と我慢できない様子で言い始めた。
俺は慌てて初級回復ポーションを飲ませたが、完全には治らないようである。
ローラが「勝太郎も清子のところに連れて行くわね。」と言って左肩を支えながら後ろに戻って行った。




