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野外演習(2)

午後の剣術練習の時にはいつものように勝太郎と組んだが、身体中傷だらけのくせに却って動きは良くなっているように思えた。

鑑定をかけてみると以下の通りだった。


名前 布留那 勝太郎 種族 人間 レベル9 HP48/72 MP27/27 スキル 刀術Lv.3 剣術Lv.2 体術Lv.2 称号 布留那一刀流嫡男


それなりには頑張っているようである。


向こうではローラと北畠がどちらも笑顔で殺気を振り撒いて戦っている。

あちらには近づくまい。俺はそう心に決めた。


勝太郎に聞いてみたいことがあった。

「さっきはいきなり北畠が俺の方に近づいてきたから驚いたんだけれど、勝太郎と北畠はそういう特別な関係じゃなかったのかい?」

勝太郎は笑顔で答えた。

「ははは、あいつと俺との関係は武道大会の縁だけだよ。どちらも最強を目指していたからそれで知り合っただけだ。」


「ということは別に彼女がいたりして?」

「ば、ばか、そんなこと聞くもんじゃないだろう。」

勝太郎は若干顔を赤くしている。図星だったということだろうか。

「とにかく健斗が清子を捕まえてくれて俺は良かったと思うぞ。」

「勝太郎め、何がいいっていうんだ?俺に二股かけろっていうのかい?」

「もちろん外から見ている分には楽しくて仕方がない。」


「怪我人だと思って手加減していたのがよくなかったというのかな?もう少し鍛えてほしいとでも?」

俺はスンと表情を消して竹刀を構えた。

「ヤバい、俺は逃げるぜ。」と勝太郎が逃げ回るのを俺は追いかけて竹刀で打ち込むことになったのである。


剣術練習の後にはホームルームがあり、班分けが行われた。

担任の古城先生によると、班は4〜5人で自由に組んでいいらしい。

俺たちはまあ、ローラが北畠と「うふふ」「おほほ」と笑い合いながら俺の腕を掴むし、俺はそこから逃げ出そうとした勝太郎の腕を素早く掴んで逃げられないようにしたので結構すぐにグループメンバーは決まってしまった。


黒井が何かいちゃもんをつけてくるかと思ったけれど、向こう側で別のグループに決めたようだった。黒井はそれでも俺の方ににやっと気持ち悪い笑みを向けるとグループメンバーと向こうに行ってしまった。


他の同級生もローラと北畠の対決に恐れをなしたのか、俺たちの周りには既に奇妙に怪しげな無人の空間ができていたので、もしかすると黒井も近づくに近づけなかったのかもしれない。


先生にグループメンバーの報告をして俺たちは教室を出ることになった。


「最初の野外演習は学校側が無害なモンスターを放流するだけって聞いているし、各班に先生や上級生が監視につくらしいから大丈夫って話だよ。」

北畠はわけ知り顔で言う。

「それならば木剣でいいのかな?」

俺がそう言うと勝太郎は呆れたように「そりゃ真剣を持ってくるのが当然では?」と言った。


その後、寮に帰る北畠や勝太郎と別れて俺たちは列車に乗っていつもの駅に戻ってきた。


駅の近くにある肉屋に行って俺は肉を買った。

「どうしてこんなに肉を買うの?」

「ああ、あのロドリーゴ兄弟の歓迎会としてすき焼きをしようと思ってな。」

「スキヤキ?」

ローラにはすき焼きを振る舞ったことはなかったなあ、そういえば。

俺はステーキ肉も買って「ローラはステーキ重がいいかい?」と聞くといきなりローラはうっとりとした目になって「ステーキ重」と言う。

多分よだれをこぼしそうである。

「ローラ、気を確かに持て。もしステーキ重で誘き出されて誘拐でもされたらそんな大間抜けな話はないぞ。」

俺がそう言うとローラは涙目になって真っ赤な顔をして「そんなことないもん。」と俺の胸をポカポカ叩いてきた。

いや十分に誘拐はありうると俺の理性はいうが、俺の心の別の部分はローラ可愛いと思ってニマニマしてしまうのである。誘拐については俺たちが全力で見張ればいいか。


ついでに卵や野菜や割下も買って俺たちは帰路についた。


俺は家に着くと、すき焼き用の鍋を取り出した。

その頃に瑠美もウチに来て、「えっ!すき焼き?」と言うことで買ってきた野菜を切ったりし始めたのだった。


すき焼き鍋に牛脂を塗り、砂糖と醤油で味付けして肉を焼き始めると、ロドリーゴ兄弟たちも鼻をヒクヒクさせ始めた。焼けた肉から卵を溶き落とした小鉢に入れて食べさせるとみんな猛烈な勢いで食べ始めたのである。


その後は割下を入れて野菜の鍋にしたが、ロドリーゴ兄弟は「我々猫獣人は野菜は食べないのです。お肉ごちそうさまでした!」と言う。それで野菜肉鍋は俺と瑠美で堪能したのである。

ローラは「ううっ、スキヤキは美味しかった。ステーキ重も食べたいけれどもう入らないわ。」と言って畳の上でゴロゴロしていた。


ロドリーゴ兄弟は「ごちそうさまでした。お皿洗いをやります。」と言って鍋やお皿を洗ってくれた。

俺はステーキ肉を焼いて明日のお弁当をステーキ重にしようと考えていた。


結局ステーキ肉を3枚焼き、俺とローラの分として切り分けることにした。残りの一枚は瑠美にあげたが、瑠美は「もう食べられないからお父さんへのお土産にするわ。」と喜んでもらってくれた。


いつものように瑠美を家に送り届けてから俺とローラは散歩しながらもう一度自宅に戻ったのである。


自宅に戻ると、ロドリーゴ兄弟のうち2人が城に戻るという。

秘密に潜伏しようと思っていたがもうバレてしまったので多数の人数は不要であると言うことのようである。

代わりに侍女を連れてくるという。

あまり大っぴらにすると周囲にバレそうであるが、ローラは侍女が来てくれると言うと嬉しそうであるので、そのことについて文句は言いづらい。


婚約については親父には簡単にメールでは知らせていた。けれどもまだ返信は来ていない。海外にいる親父はいつもそんな感じである。


俺は今日は意識的に肉を買って散財したが、今後も猫獣人を住まわせると食費がかかるよなあと考えたわけである。多分、早く探索者ギルドに入って魔石などを売れるようにならないと食費で破産することになりかねない。


俺はローラと一緒にシャワーを浴びて一つ布団に入りながらそんなことを考えていたのである。


♢♢♢


翌日は魔法演習である。

そろそろ薬草をポーションにできる人は一人二人現れてきていたが、魔法を使えるのは俺だけである。

そのため、俺は演習後に宮本先生の研究室に行くことになっていた。


「北畠…さん、よねえ。」

先輩方が戸惑っている。

いつもはローラだけがお邪魔虫として研究室について来ているのだが、今日は北畠までお邪魔虫としてローラと並んで研究室に来ている。


「あ、あはは。」

俺に説明を求められたって無理である。

教室を出る時、ローラと北畠の二人がついて来たので「なんでついてくるの?」と言った時には二人は「うふふ」「おほほ」と笑いながら俺を全く無視して視線を交わし合っていたのである。その時には視線がばちばちと火花を飛ばしそうになっていたのが見えるようだった。


先輩方はローラと北畠の二人を気味悪そうに見ていたが、それでも俺に魔法の修練を行ってくれていたのである。


それ以外には野外演習での役割分担があった。

この1年生最初の野外演習ではほとんどの生徒が魔法を使えないので特に役割を決めずに一斉に襲い掛かるだけでも良かったのだが、俺はとにかく魔法を使えるのである。


そのため俺が後衛、勝太郎が前衛ということにした。

残る二人についてはどちらもが後衛希望だったので埒が開かない。


俺としてはローラが短弓を使えるのでローラを後衛にしたかった分けである。

けれども現時点でそれを後悔するのはどうだろうと思って隠していたのでなかなかお互いに譲らなかった。

それで最終的にはジャンケンでジャンケンに勝ったローラが後衛に回ることになった。

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