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決闘

おれが目覚めたのは昼過ぎになってからだった。

ローラはすでに起きていた。猫娘は元気である。


布団をめくるとローラと俺の跡がシーツに残っている。

ローラはそれを欲しいと言い出した。

え、血の跡が欲しいの?

俺は何のことか理解できずにこくこくと頷いたのだが、ローラはにっこりするとその血の跡の部分を丁寧にハサミで切り取ってビニール袋に入れたのである。


俺は切り取られたシーツは捨てざるを得ないか、とシーツを剥がして布団だけを庭の物干し竿に干すことにした。


そのあと、トーストを焼いて俺が食べていると、ローラは自分の城に行きたいのでついてきてほしいという。


これはあれかもしれん、ことを致したので責任を取れって迫られる展開なのか。

しかし、ローラは腐っても王女様である。城に行って女王から娘をキズものにされたからといって莫大な賠償金を求められたら学校を辞めてバイト人生しなくては行けないのではないか。

碌でもない妄想が頭を占領してくる。


それが顔に出ていたのかもしれない。

ローラは「大丈夫よ、旦那様。」と言って俺にキスしてきた。

はああ、旦那様って。ローラの脳内ではもう婚約とかすっ飛ばして結婚したことになっているのかもしれない。

やはり煩悩の赴くままに行動したのは失敗だったかも。

俺は15分くらいは恐ろしい妄想に苛まれていたわけであるが、ローラがよそ行きに着替えて「さあ旦那様、行きますよ。」と弾んだ声で俺を促してくる。


俺はもう処刑場にしょっぴかれていく罪人の気分である。最後だけは綺麗に振る舞おうと新しい服を出して着替えた。

そこで気がついたのは言葉の問題である。

ローラは言語理解の技能を持っているので俺は普通に会話しているけれど、俺と他の猫獣人は意思疎通できないのである。

そこで俺は以前の探索でゲットしていたスクロールの中に「言語理解」のものがあったはずだと探した。

地下2階を探索するときに通ったボス部屋でたまに巻物が落ちることがあるのである。

その中に言語理解があったはず。


ああ、あった。俺がそのスクロールを読むと、スクロールの文字が俺に吸い込まれてゆく。

自分に鑑定をかけると、レベルも20になっていた。


名前 海崎 健斗 種族 人間 レベル20 HP122/122 MP1440/1440 スキル 刀術Lv.4 剣術Lv.5 槍術Lv.2 鑑定Lv.2 言語理解Lv.1 火魔法Lv.4 称号 慈恩流免許皆伝、火妖精との契約者、ローラ王女の番


ローラ王女の番の(仮)がとれていた。

言語理解のスキルも確かに付与されている。

俺は「侍の刀」を手にすると、意気揚々と歩いているローラの横でトボトボと歩いてゆくのだった。


一応、瑠美には今日は俺とローラで買い物に行くから遅くなるということは連絡している。


迷宮を進んで以前来て見覚えのある扉を開けると、そこはまだ夜明け前の薄暗さだった。

「さ、行きましょう。」

ローラは久しぶりに帰ってきたわとウキウキしている。


扉は丘にあったようで丘を下ってゆくうちに太陽が昇ってきた。


「あっちよ。」

ローラが指差す方向を見れば遠くに城の尖塔のようなものが見える。

「急いで行けば朝ごはんに間に合うかもね。」

そう言ってローラの足は早まった。


そうして少し陽が高くなった頃に俺たちは城門の前に立っていた。


城門は閉まっており、両脇に門番なのであろう、槍を持った猫獣人ぽい男がいる。


ローラは気軽に話しかけた。

「あら、シンハにロルカじゃない。お久しぶり。今日はお母様に私の番をご紹介するためにきたの。」


「あっ、ローラ王女様。こ、この男はもしかして人間ですか?」


そうして奥に向かって「大変だ、女王陛下にお伝えしろ、ローラ王女が人間の男を連れ帰ってきたぞ!」と叫んだ。


ややあっておそらく内側から開けたのであろう。城門がゆっくり開き、俺たちは中に招き入れられた。


門の内側には馬車が用意されていて、乗るように促された。

俺がエスコートしてローラを馬車に乗せ、そのあと俺も乗り込んだ。

ローラと俺は馬車に並んで座っている。


ローラの鑑定結果ではやはり(仮)はとれていた。


名前 ローラ・ハルシュタット 種族 猫獣人 レベル20 HP171/171 MP102/102 スキル 短剣術Lv.5 剣術Lv.2 短弓術Lv.3 宮廷作法Lv.3 言語理解Lv2 称号 第一王女、二刀流短剣術の達人、海崎健斗の番


俺たちは謁見室に通されたらしい。


奥には立派なドレスを着た女性がいる。横から「跪き、首をたれよ」という声が聞こえてきたので俺は言われたようにした。


ローラは「お母様、私と健斗の婚約が成立しましたのでここに来ましたの。」と言っている。

奥の偉そうな女性がローラの母親、つまりこの国の女王様ということなのだろう。

女王様が「証を示せ」というとローラはビニール袋に入れたあの血のついたシーツの切れ端を渡したらしい。

廷臣がそれを受け取り、女王様は「鑑定にかけよ」という。

俺がこっそり鑑定をかけると、「ローラ王女の破瓜の血。ローラ王女と海崎健斗の愛の証」という一種生々しい説明が出てきた。


跪きながら「うへえ」と思っていると、廷臣が「鑑定の結果間違いございません」と女王に報告している。

さすがに鑑定の結果を生のままは報告できないようだ。


女王はそれを聞いて「うむ、婚約の条件は整っているようだ。この中で異議のある者はいないか。」とあたりに聞こえる声でいう。


すると、一人の若者がすっくと立ち上がった。

「俺はこの国一番の勇士ファーロンだ。姫様が人間と婚約するなんて俺は認めない。決闘を申し込む!」

周囲の人たちが「おおぉ!」という中を女王は「承知した。闘技場にて直ちに決闘を開始せよ。」とやや嬉しそうに言う。


マジデスカ?


一応、侍の刀は持ってきているが初披露が決闘とは。

まあもしかしたら木剣の戦いになるかもしれない。


残念ながら俺の期待はあっさりと裏切られた。

国一番の勇士さんは「我が愛刀グラムの名にかけて人間の首を刎ねてやる!」とエキサイトしているのである。


闘技場に着くと審判さんは「なんでもありです。相手を戦闘不能にするか屈服させたら終了です。」と言うのみだった。


女王が席につくと速やかに決闘の開始の合図がなされた。

途端にファーロンがものすごい勢いで剣を振り回してきた。

俺はその斬撃を紙一重で交わしてゆく。


「この、くそっ、ちょこまかと逃げやがって。人間め、これでも食らえ!」

いきなり彼の手から放たれた10本ほどのナイフが俺に向かってきた。

俺は地面と平行になって真ん中の一本だけを足で蹴り飛ばして回避した。


ローラが「旦那様、頑張って!」と声援を送ってくれたのが聞こえた。

この状況で負けるわけにもいかないか。


俺はファイアボールの呪文を唱えた。

火の玉がファーロンに向かって飛んでゆく。


手加減はしていたが火の玉をまともに食らったファーロンは美しい毛並みは焼けこげていた。


「ま、魔法なんて卑怯だぞ!」とファーロンは叫ぶ。

「なんでもありなんだろう?」俺はそう返事して侍の刀で切り掛かる。もちろん寸止めであるが。

そのまま、当てないように気をつけながらファーロンを隅に追い詰めていった。


「ま、負けるものかあっ!」

ファーロンはいきなりジャンプした。

「そっちか!」

俺はファーロンより高くとび、その脳天に剣の柄をお見舞いしてやった。

そのままバランスを失って地面に落ちたファーロンは口から泡を吹いて手足をぴくぴくさせながら気絶していた。


審判は驚愕していたようだったが、すぐに気を取り直したとみえて「勝者!海崎健斗!」と宣言してくれた。

途端にローラが闘技場の中に飛び込んできて「さすが旦那様!」と言いながら俺の顔中にキスの雨を降らせたのである。


女王は「ローラの婚約者、海崎健斗で異議はないな」と厳かに言うと、見物の客たちは「わああ」と歓声で答えたようである。


女王様は再び謁見室に戻ってくると、「ローラ、良い男を見つけたな」と言った。

「このまま一週間くらい婚約締結の祝いの宴会をする?」と言われた俺は明日から学校が再開するので心を鬼にして断ったのである。


帰り際に女王はローラに指輪を一つ差し出して、婚約の証にこれをつけておけと言ってくれた。

ローラはその指輪を大事そうに自分の左手の薬指に嵌めたのである。

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