ゴールデンウイークにダンジョンの攻略を進めたこと
布留那一刀流の門人たちは定期的に集まり、情報交換をしている。
門人たちは勝太郎に今年の一年男子の剣術一位は間違いなく勝太郎であろうと褒め称える。しかし当のご本人は浮かぬ顔である。
「若、どうされました?」
古株の門人が勝太郎に尋ねると、勝太郎は「鴉天狗」と一言いうのみである。
同級の者が慌てて「ですが奴は逃げるだけで相手に一太刀も入れておらぬはず。」と言う。
「入学試験では奴とは相打ちだった。」
そういったきり勝太郎は黙ってしまう。
若い門人たちもそれにつられて黙ってしまった。
沈黙が支配した場を破るように先程の古参の門人が言う。
「若様、修行など如何でしょう。苦しいですが更なる剣の境地に辿り着けるかもしれません。」
「今までできることは全部やったつもりだが。別のがあるのか?」
「はい。」
「じゃあそれをやろう。」
「厳しい訓練になりますよ。」
「そんなことを言っている余裕なんてないさ。」
北畠清子もこっそりとトレーニングを積んでいるらしい。
やはりローラに手もなくひねられたという事実は彼女のプライドをいたく傷つけたのだろう。
俺はと言えば、宮本先生のところに入り浸っている感じである。ただ、魔力を持つのは女子の方が多いらしく、宮本先生のところに来ている先輩たちも女子ばかりである。
彼女たちは男の俺が珍しいみたいで魔法のことについて手取り足取り教えてくれる。
時々お茶しようとか一緒に買い物に行こうとか誘ってくれることもあるのだが、それは俺じゃなくてローラが断ってくれる。
その必死に断る様子が可愛いので先輩たちもからかい半分で俺を誘っているような気がする。
そんなことを考えているとローラに「あなたが鼻の下を伸ばしているのが悪いのよ!」って怒られることになるのだが。
休日は裏山の迷宮にローラと行くことができるようになってきた。
瑠美も学校が始まるといろいろ用事があってこっちに来られない日が増えてきたのだ。
そういう時に迷宮に潜るのである。
瑠美も一緒に連れていってもいいのかもしれないがこの迷宮はローラの異世界に通じているので瑠美といえどもまだ他人には秘密にしておきたい。
ゴールデンウィークまでには地下2階を制覇しようと考えている。ゴールデンウィーク明けには学校でモンスターと戦う野外実習があり、また、その後に迷宮探索実習もあり、それを突破することで探索者ギルドに加入できるのである。
俺たち二人は地下2階の攻略を進めた。地下2階にはホブゴブリンやダイア・ウルフ達が配置されているようだった。時々毒ヘビやオーグル達がいて苦戦することもある。ローラは相変わらずナイフで突っ込んでゆくことが多い。短弓もつかいたがっているのだが残念ながら矢の数が少ないのだ。ここぞと言うときにしか使えない。本当であれば俺が前衛で戦ってローラには後衛で弓担当というのが理想的だと思っているのだが、なかなかうまくはゆかない。
それでもゴールデンウイークに入ると、瑠美がクラブの試合のため遠征に出ていったので、その間に探索を進めた結果、ついに地下2階のボス部屋にたどり着いたのである。
ボス部屋にいたのは十匹ほどのハルピュイアだった。こいつらは鳥の体に女性の顔がついている。特に嫌味にも天井が高いので飛び回っているハルピュイアどもには長剣は届かないのである。天井高く飛び回っているハルピュイアどもはしわがれ声でギャアギャアと泣いているのだが、いつしかそれが妙なる天女の声に聞こえてくる。
実際は老婆のような醜悪な顔なのだがそれが絶世の美女に見えてくるのである。
心の中の冷静な部分は「そんなはずはない」と全力で否定してくるのだが、実際に絶世の美女に見えてしまうのだからどうしようもない。
多分、思い出せる限りでは俺は攻撃も防御もせずにぼーっとしていたのだと思う。
その後の記憶はない。思い出そうとしてもどうしてもわからないのである。
気がついたときには目の前にローラの顔があった。彼女は俺の顔中を舐め回していたようだった。
ローラは「健斗、起きてよ」と泣き続けていた。
起きあがろうとしたが後頭部がズキズキと痛む。
俺が目を開いたことに気づいたローラは「あは、健斗が起きた」といって俺の口に唇を重ねて舌を差し入れてきた。
俺だって年頃の男である。そんなことをされたら頭の痛みも忘れて必死でローラの舌と俺の舌を絡み合わせようとした。
そのときふと誰かに見られている感じがしてちらっと横を見ると目を見開いた老婆の顔があった。思わず起き上がると、キスが離れたローラは「あん」と言ったのだが、周りは矢が刺さったハルピュイアの死体だらけだった。
血の匂いがすごいことに気がついた。
「ローラがやったの?」
「うん、矢を全部使っちゃったけれど」
「ローラ、ありがとう。」
俺はローラにもう一度キスしたが、死体に囲まれていてはえっちな気分もどこかに飛んでいってしまったのである。
「とにかく魔石を回収しよう。」
なんだか冷静になってしまった俺にローラはちょっと不満そうだったが、それでも言われた通りに魔石を回収した。
奥には例の如く、下に続く階段と宝箱があったのである。
「宝箱を開けようか。」
俺はそういうと、宝箱を開けた。
中には10本ほどの矢が入った矢筒と刀があった。
刀は「Katana of Samurai」という剣で魔力が込められているらしい。矢も魔力のこもった矢ということのようでついに魔力の武器が手に入ってしまった。
Katana of Samuraiって侍の刀ということだろう。振り回すと手によく馴染んでくれる。
問題はローラである。
明らかに欲求不満を残した顔をしている。
「と、とりあえず家に戻ろうな。」
俺たちが地上に戻る間もローラは俺の体を触ってくる。よほど欲求不満が溜まっているみたいだ。
これは覚悟を決めなきゃいけないのだろうかと思いながら家に帰ってみると、そこには瑠美がいた。
本来はゴールデンウイーク最終日に帰ってくるという話だったのである。
どうやら1日早く帰ってきたようだ。
ローラもお土産を持ってきてくれた瑠美をむげに追い出すわけにもいかない。
二人で瑠美の活躍をニコニコして聞いた。
お土産を開けてそのお話を聞いたのである。
残念ながら彼女のバスケットボールのチームは府大会では準決勝で負けたので全国には行けなかったそうである。
二人で「よく頑張ったよね。」と言って瑠美を褒めてあげると瑠美の顔も緩んだ。
3人で夕食をとり、瑠美の話を聞いてあげた。
本当は優勝して全国に行きたかったのだろう。でも、途中で負けることが悪いわけではない。全力でぶつかって悔いなく戦えたことは良かったよね。
もしかすると、完璧主義の瑠美はベスト4にしか進めなかった自分を責められるのではないかと思っていたのかもしれない。
いつもの瑠美らしくなく饒舌に喋って帰って行った。
いつものように瑠美を師匠のところに送り届けた帰りにはもうローラは我慢出来なくなっていたみたいだ。
「健斗、あのね」と言いながら俺の方に体を寄せてきてキスをねだってくる。
田舎の過疎の街だけれど、それでも誰かに見られるとことである。
俺はローラの腰をぐっと抱き寄せて、頭の上から(耳元ということだ)そっと「家までこのまま行こう」という。
ローラの顔は真っ赤だったが俺の顔も赤かったと思う。
家に帰るとさっさと布団を敷いた後、俺とローラの二人でシャワーを浴びた。
一人で入ろうとしたのだがローラもついてきたのだ。
シャワーを出た後はもつれるように二人で布団に倒れ込んだ。
多分、眠ったのは夜明けで鳥が鳴き始める頃だったと思う。
俺は男になったし、ローラも女になったということである。




