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剣術稽古

担任の教師は古城由香里という女性で、手際よく注意点を説明してくれた。それによると、迷宮科では制服の着用は自由であるらしい。武器についても迷宮科の中では銃刀法の制限なく所持可能であるらしい。ただし高校から出る時には外から見えないように梱包しなければならないということでいいそうだ。


学生証は配られたが、その後は試験に合格すると探索者ギルド(扇状ケ岳支部)に入会するのでギルド証を生徒証がわりに使えるとのことである。俺たちにとっては学生証がなければ鉄道の定期券が買えないわけだから死活問題であるが、寮生活をしている連中にとってみれば、定期券は不要なのでギルド証だけあればいいということなのだろう。


そのあとには席替えを行なった。幸か不幸かローラは前の方の席で北畠さんの隣になった。俺は後ろの方の席で勝太郎の横になった。

ローラはベソをかいて俺の横に来たがったが、北畠さんはニヤリとしてローラの腕を掴み、性根を叩き直して上げると宣言するのだった。


続く自己紹介の時には、北畠さんや勝太郎は有名な流派の後継であるということで教室の中で感嘆の声が大きかった。

ローラは上品にピレネー山脈にある小さな国から留学に来ましたと自己紹介を済ませた。もちろん、俺と番だなどという不規則発言はしないように言い渡してある。

ローラはちらっちらっと俺の方を見たが、俺は小さく首を振るだけだったのでローラはしょんぼりと座ってしまった。

あ、心が痛い。けれども、入学早々からややこしい話を振る必要はない。


俺は自分の紹介はこの近くに住んでいて近くの道場に通っていましたと簡単に済ませた。

「あんなのがなぜローラ様といるのよ。」とかいう声が小声で囁かれているのが聞こえるが無視の一手である。

サフルが「あいつらの頭を燃やしてやろうか」と言ってきたが「やめろ」というしかない。

おそらく教室のほとんどの生徒にはサフルは見えないので俺が大きな声を出したら一人で空中に向かって会話している怪しい人扱いになるだろう。

自己紹介の後は教科書などが配られて解散ということになった。

俺は自分の分の教科書をカバンに入れると、ローラの分の教科書もカバンに入れようとローラの席に向かった。

その瞬間、ローラは北畠が止めようとした手をするりと抜けて俺にしがみつき、「うえーん、健斗と離れて寂しかったよ」と言い出した。

北畠は呆気に取られているし、俺がチラッと周りを見回すと、同級生たちは明らかに視線を逸らしてそそくさと教室を出て行ってしまった。

勝太郎が笑いながら近づいてきて「もうお前ら公認カップルでいいじゃねえか。」という。

なんだか北畠がガルルルと傷ついた獣のように唸っているが、小声で「羨ましい。」と言ったかと思うとプイッと横を向いてしまった。

勝太郎が「まあそう拗ねるな。」と北畠に言い、俺たちに学校の中を見に行かないかと誘ってくる。


その後、俺たちはローラに割り当てられた個室を見学したり、食堂や修練場などをざっと見学した後、寮に戻る勝太郎たちと別れて実家に帰ってきたわけである。


帰宅すると、すでに瑠美が来ていて「お兄様、学校の方はいかがでしたか?」と聞いてきた。


ローラが「校舎は綺麗だった」とか「修練場やグラウンドが完備されていたよ。」とか説明している。

俺が勝太郎とか北畠の話をすると、瑠美は「その人たちって中学の武道選手権の優勝者じゃないですか?」という。去年の大会の様子を瑠美のスマホで確認すると確かに優勝者はあの二人であった。

「へえ、すごいやつが来ているんだな。」

俺が感心していうと、瑠美は「そもそもこんなことを知らない武道家はお兄様くらいですよ。」と微笑む。


そうして俺とローラを無理やり引き剥がして、「ここでは不純異性交遊は認めませんよ。さあ、テーブルに座って。お昼ご飯にしましょう。」と無理やり俺たちを椅子に座らせたのであった。


♢♢♢


翌日からはいきなり授業開始である。

高卒資格も取れるようになっているので午前の座学には普通の英数国理社の授業と迷宮探索の授業が混じっている。


午後からは剣術の時間だった。

みんなでグラウンドに行く。ローラも早速個室に行って体操着に着替えてきたようである。

担当は担任の古城先生である。

先生は「まず全員の実力を見るので男女別で模擬戦をする。」というのである。

すると、北畠はローラに「あなたに模擬戦を申し込むわ。」とすごい目をして言う。

ローラは喜んで試合場に行こうとしたが、俺はその肩を掴んで止めた。

「健斗、どうしたの?」

「真剣のナイフを使っちゃいけない。あっちで小太刀の木刀を選んできなさい。」


「ちぇー」と言いながら木刀を探しに行くローラを見て俺は「やっぱり。油断は禁物だ。」と学校生活を壊さないために注意を怠らないようにしようと心に誓うのであった。


北畠とローラの試合は一瞬でついた。

いつものようにナイフを二刀流に構えたローラに対して刀を上段に構えた北畠との試合は北畠が打ち込んでくるのをローラが一瞬で左手の小太刀で払いのけ、右の小太刀を北畠の首に擬して勝負ありである。


北畠は多分何が起こったのかわからなかったかもしれない。周囲の同級生も「え?首席が一瞬で負ける?」「北畠さんって去年の中学優勝者よね。」と囁いている。

審判のはずの古城先生もすぐには動けない様子だった。

ローラの顔に戸惑いの表情が浮かんでくる。


俺は拍手をした。

「ローラ、良かったよ。」

その声を聞いて我に帰ったのだろうか。古城先生が「一本、勝者ローラさん。」と声を上げたのである。

俺に続いて何人かがパラパラと拍手をした。

ローラは俺の方に駆け寄ってきて抱きついてきた。

「私、何か悪いこと、した?」

「いや、みんなローラが強いから驚いただけだと思うよ。」

「うん」


そうしていると北畠が立ち上がってこちらの方に歩いてくるのが見えた。

「ローラさん、握手してくれる?」

「えっ?」

北畠さんは手を差し出している。

「ローラ、行っておいで。」

俺がそういうとローラは俺から手を離して北畠の方におずおずと手を差し出した。

「あなたの突きは本当に早かったわ。私も鍛錬が足りないって痛感したわ。これからもよろしくね。」

そう言って北畠はローラに微笑んだ。

ローラも「うん、よろしくね。」と言えている。

俺はほっと胸を撫で下ろしたのである。


次は男子の模擬試合である。俺は適当な竹刀を選んだが、ローラがあれだけ鮮やかに勝っちゃったのであまり派手に勝つわけにもいかないだろう。

そう言うことで相手の攻撃をかわすことだけにした。男子の振りは女子よりも早いがそれでも俺の目にはゆっくりと言える。

こっちが下手にぶちのめして心が折れても困るわけである。

ということで相手の攻撃をふわりふわりとかわしていた。


時間切れ引き分け狙いなのであるが、俺が攻撃しないので、あまりわかっていない人は俺に攻撃力がなく、攻めあぐねていると勘違いしてくれるであろう。

勝太郎の取り巻きたちは「あいつ烏天狗の名の通り避けるのは上手いが、攻撃はからっきしのようですね。」と言っている。

勝太郎はそれには答えず、恐ろしい顔で俺を睨みつけている。


時間の最後の頃に俺と勝太郎の直接対決になった。

「俺には打ってきやがれ」と勝太郎は言う。


仕方がないので彼とは剣を交えることにした。

中学覇者だけあって打ち込みは鋭いし威力がある。

適当にいなしているといきなり勝太郎は喉笛めがけて突きを入れてきた。

すっと体を寄せて突きを避ける。

勝太郎は渾身の突きを外されて呆然としている。


今ならどこにも打ち放題である。

俺は籠手を打つと見せかけて勝太郎の竹刀を跳ね上げて終わりにした。

勝太郎は一瞬唖然としていた様子だったが、バタンと地面に寝っ転がると、「こりゃ叶わねえや」と言って笑っていたのである。

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