ヤキザケ村と頼陣家①-016
第十六話:ヤキザケ村と頼陣家①
「お嬢様…村周辺で魔族が数匹現れました」
一つの屋敷、この屋敷の家系は昔から魔族を祓うことを専門とする巫女という一族が住む。
そしてここに一人、氷術使いの巫女…詩姫という女がいた。
「わかりました、行きましょう…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
場所は変わり、南最果ての地…ナズーク王国。
「いやー、ここまで来るのに一ヶ月要するとはね」
その日は久しぶりの晴天であった。
師匠は丸まった腰を反り返すようにしてそう言った。
たしかに、ここまで来れたのは一応ラテと師匠のおかげである。
「ラテ、大丈夫か、かなり疲れているだろう?」
「そうね、ヤキザケ村を探す間まで宿で休んでいて」
「いいや、マリーに魔力を半減してもらったおかげであまり疲れていない!」
何度もの徹夜していてくれたのに、ピンピンの様子だが不安だ。
とりあえず、地図を広げヤキザケ村はどこにあるのか見てみる。
「ここから数分で着く距離だ、あちらの森を抜ければすぐ着くだろう」
二人を見ると、見てみるとなぜか手には串焼きや握り飯なんかを持っていた。
今俺が話している中で、買いに行ったと考えると、ツッコミを入れることすらできない。
二人の襟首を引っ張り、とにかく進む。
「ちょぉ、ちょっとまだ食べたいものあるんだけど!!」
「そうぉだぜ、フィナシェ、お前も食いたいだろ?」
だめだ、やはり二人は魔力共に体力を削りすぎている。
目元のクマと回らない呂律で、それがわかる。
二人にも悪い、休んでもらおう。
「まだまだ私はいけるって、はなしなさ……」
「ああ、俺はまだ大丈夫…」
暴れすぎた二人は気絶するように寝てしまった。
二人を無言で宿に放り込む。
「二人は、目元のクマを見てから俺について来い…」
一言スヤスヤと寝た二人に言い残し、そっとドアを閉めて宿を出ていく。
やり方は荒いかもしれんが、旅には休息は必須だ。
とりあえず仕切り直しだ、地図で見た通りナズーク王国東門に大きな森がある。
その森奥を進んで行けば、最後の君主の住むヤキザケ村だ。
「……腹が減った」
二人にあんなことをしたが、俺も満更ではなく十分な休息は取れていない。
だが時間は無限ではない、またオズや楽喜なんかの魔族たちがまた奇襲を仕掛けてくるかもしれん。
とにかく頑張る!!
……………着いた。
およそ一時間をかけて、東口を抜け森に着くことができた。
これは俺の足が超絶遅いのではなく、このナズーク王国が広すぎるからだ。
にしても森に入ってみると一つの明かりすらない、木の隙間から普通光がさすと思うが真っ暗だ。
「……血の匂いがする」
わかりやすいほどの血の匂い、こんなに真っ暗な中だ魔物が人間を襲っているのかもしれない。
敵襲はかなり早いものだった、魔族が俺に体当たりをするようなスピードで爪を掻き立てた。
とにかく飛ぶ、やはり人が襲われている。
「これほどデカい魔族なのに、なぜ気づけないのか…」
〝ギュギャァァァッ〃
面倒だ、このまま奴を殴る。
相手は三メートル級のゴーレムだ、奴は持つ大木をこちらへ振り上げた。
必殺技の死蔵は奴の体に触れなければならない、だが相手に攻撃を与えられないこの時のために違う技を考えた。
「必殺…!!」
ゴーレムの持つ大木に拳を入れる、攻撃はここからだ…。
いつもの死蔵は五将眼の力を最大限まで腕の筋力に宿し相手を破壊する技。
今回は物に流し相手に強化能力を付与する…相手の筋力は強化され逆に体に異常をきたす技だ。
「俺の五将眼の能力値は上がることしか許さない」
ゴーレムは倒れ、灰になった。
というか、ゴーレムということは魔族が作ったもののはずだ。
まさかだが周辺にも魔族やなんかがいるのだろうか。
「いてて…」
後ろから聞こえる人の声、振り向くと眼鏡をかけた一人の男がいた。
「大丈夫か?」
「は、はいありがとうございます!、私ヤキザケ村のハルキィと申します!」
「俺はフィナシェだ」
男は自分の名を名乗った。
見たところ俺よりも年下のようだが、ちょうどいいヤキザケ村のものなのならば村まで案内してもらおう。
「ぜひ村でお礼をさせてください!」
「礼などいらん、とりあえずヤキザケ村まで案内してくれればいいさ」
ハルキィは快く村まで案内してくれた。
「一つ質問なんだが、お前の村に氷術を扱う巫女というのはどんなものなんだ?」
「詩姫様のことすね、氷術の巫女で村長の娘なんです」
「…詩姫…か、その詩姫とやらと話をしたいんだが頼めるだろうか?」
いきなり村に行って図々しいと思われるが、仕方ないことだ。
それに師匠とラテがいないうちに話を進めてしまおうとも思っている。
ハルキィはそんな俺に一言。
「……どうでしょうね、実は詩姫様は村の儀式…結婚争奪戦の真っ最中なんですよ」
「結婚争奪戦……とはなんだ?」
「まあ、簡単に言えば村の男たちが数個の試練をクリアして勝ち残ったものが詩姫様と結婚ができるというものです」
どうやら、ヤキザケ村の村長とやらは娘の言い分は聞かず武力こそが正義と思っているらしい。
およそ村の男の二割が結婚目的にそれに参加しているらしい。
どうするか…まあ一番重要なのは彼女の言い分だ、君主になりたくないと言えば別に強要する必要はない。
だが会うだけ会って話を聞いてみよう。
「つきましたよ!」
ハルキィの声で村の入り口が目の前にあるのが気づいた。
たくさんの人たち、村はかなり賑やかなようだ。
「ハルキィ、ここまでで構わない、また会ったら美味い生姜ソーダ屋でも紹介してくれ」
「こちらこそ、必ずまた会いましょう!」
そう笑顔で、ハルキィは去ってゆく。
とりあえず、街をぶらぶら歩いて探すとしよう。
というかかなりこの村は高い地形にあるようだ、ナズーク王国が見渡せる。
空気も澄んでいて村の真ん中に大きな滝があり住むのなら贅沢なものだ。
「む、これは…」
右側を見ると大きな掲示板があった。
ざっと百と並んだ札のようものには人の名前が書いてある。
すると一人の老婆が悩んでいる俺に喋りかけた。
「旅の方かい?、それは詩姫様の結婚争奪戦に参加している村の男たちの名前だよ」
「なっ、こんなに!?」
思わず声を出してしまうのも仕方がない、数百と並んだ札の数だけ、その詩姫とやらに求婚している奴らがいるということだ。
「……ばあさん、その詩姫の居場所はわかるか?」
「そうねぇ、今なら弓道場にいるかも入れないわ、着いてきなさい…」
これは、ありがたい。
色々な道を抜け観光気分でばあさんの背中を追う。
そしてついたかなり、古い道場だ。
「年季が入っていてねぇ、古いけど強者の巫女が多く出ているの」
巫女のことはよくわからんが、魔術に近いものを使っていると本で見たが。
木がきしむ音を立てながら道場の扉を開けた。
誰もいない…。
「なんてことだ、ばあさん詩姫とやらはいないが…」
「あらら、この時間はいつも弓の稽古を村長様につけてもらっているのに」
惜しくもここにはいなかったが、探さないわけもいかない。
だがどうするか…。
「おい、てめぇふざけてんのか!?」
む、なんだ痴話喧嘩…とも言えんな、男が一方的にもう一人の男を殴っている。
というか、殴られてるのハルキィではないか。
「てめぇ、俺はメガネは形が好きじゃねぇんだ!!」
「い、痛い、やめてください!!」
「あれはハルキィ…というか理不尽だな!?」
仕方ない、村まで案内してくれたお礼も兼ねて…。
「なんだ?、小僧…」
「あ、あなたは!?」
仕方ない、打撲しない程度に吹っ飛ばすか…。
「ちっ、てめーもくたばりてぇか!」
右フック、最近まで狂ったように強い奴らとの戦いでもうこのくらいの攻撃では怯まない。
頭を少し引っ込め相手に隙を与える。
「なっ、はや…」
男の顔面に一発…。は流石にしない、目の前で拳を止める。
寸止めするくらいなら思い切りやってやりたいとこだが、大事になっても困る。
「そこを退け、俺は人探し中だ」
腰を抜かしたその男は、オーバーに転がり去っていった。
流石に怖がりすぎじゃ。ハルキィを見ると先ほどと変わらず情けない顔をしている。
「大丈夫か、面倒な奴がいるもんだな」
尻餅をついた手を差し伸べる……顔はずっと驚いた様子で固まったままだ。
「あっ、あっ」
なんだ、そんなに怖かったのか?
……いいや、周りの人が俺を見ている、この顔は俺に怖がって!?
「あなたやってしまいましたね……、村長の息子というのに…」
「祟りが起きるわよ!、村長の家系に手を出してしまうなんて!!」
ハルキィに続き、周りの皆がザワザワと騒ぎ始める。
あの男がこの村の偉い奴ということは、今分かったが祟りがどうとかって一体どういうことなんだ。
「は?」
……胸を突抜かれた!?
胸を三本の矢で射られる感覚がした、そして殺気だということに気づいた。
「何だ!?」
見えない威圧感に体が反応し、上空に緊急回避をした。
ドドドッと、三本の氷柱のような鋭利な氷が俺の足元へ飛んでくる。
「何しやがる…」
「………」
目に映ったのは、すっきりとした青髪の少女。
和服の袖が揺れ、その手には弓のようなものが俺に向けられていた。そして周りの者たちがまた少しザワつき始めた。
「この村の宝と言われている、頼陣家に牙を剥く者は死戦を望むものと捉えよ…頼陣家の決まり事その一…」
よくわからんが、俺はこれから重い刑罰を受けるということになるというわけか。
困っている人を助けただけでこんな仕打ちとは、観光者相手にはキツいな…。
続けて女は、俺に告げる…。
「この氷の巫女、頼陣詩姫が処罰を与えよう…」
つづく




