征服の能力②-018
第十八話
「皆、この村の女神ゼロウス様を讃えよ!」
群衆の中にこだまする声――
その中心にいたのは、カムイ七桀の一人、麗桀ゼロウスだった。
「なんだ……宗教みたいなもんか? まぁいい、行ってみよう」
〝ダンッ!〟
イラアが足を踏み出したその時――
「……近くに誰かの気配がするわ。ものすごい量の魔力を感じる」
ゼロウスはすでにイラアの存在を感知していた。
「なっ……魔力感知か!? 一体何者だ。とにかく今は様子を――」
「あなたでしたか、眼帯の少年というのは」
――背後から声がした。
振り向いたイラアの背後には、ゼロウスが立っていた。
〝ザッ〟
「は、早い……いつの間に!」
ゼロウスは優雅に頭を下げた。
「驚かせてしまいましたわ。私は国王軍カムイ七桀、ゼロウスと申します。以後お見知り置きを」
「国王軍……!」
「ここは、私が支配している街の一つですの」
(そうか……やはりこいつも国王軍。権力で人々を支配しているのか……許せない!)
イラアは即座に構え、攻撃を仕掛けようとする。
――だがその瞬間、後ろから住人の魔法が飛び、イラアは意識を失った。
…
「……ここは?」
目を覚ましたイラアがいたのは、あの寺の中だった。
そう――イラアは捕らえられていた。
「お目覚めですか、イラア様。あなたのことは、少し調べさせてもらいましたわ」
「どういう意味だ……!」
「あなたの記憶を、少しだけ覗かせてもらいましたの。なんという壮絶な過去……悲しみと苦しみの毎日。さすがの私でも、心が痛くなってしまいましたわ」
ゼロウスは微笑みながら言葉を続ける。
「――だからこそ、考えましたの」
「……どういうことだ?」
「私の部下になってください。そうすれば、国王軍には“あなたを殺した”ということにしてあげますわ」
イラアは、静かに、だが力強く言った。
「……なるわけない。自分は、お前ら国王軍のせいで悲しい過去を過ごしてきたんだ。だから、お前らは……絶対に倒す!!」
ゼロウスは少しだけ悲しげに笑った。
「そうですか……残念ですわ」
そう言った瞬間――イラアはゼロウスに向かって走り出した。
だが――
「目が合いましたわね」
〝ザッ〟
イラアの動きがピタリと止まり、そして――
ゆっくりとその場に首を垂れた。
「なっ……!? どういうことだ!」
ゼロウスは優雅に微笑む。
「これが私のアビリティ、『ネアルド』。目が合った瞬間――私が思った通りに、相手を1分間行動させる能力ですわ」
イラアの瞳に、驚愕が走る。
「……まさか、この能力で住人たちを支配していたのか……!?」
ゼロウスはイラアの上に馬乗りになり、妖艶に笑った。
〝ドスッ〟
「死ぬ前に美女の尻を感じられるなんて、嬉しいことでしょう? イラア様?」
「くっ……動かない……少し嬉しいけど……っ!」
1分間――ただそれだけで、命が絶たれるには十分すぎる時間。
住人の一人が、巨大な大剣を持って現れ、
イラアの首を狙って――
〝ザァッ!〟
「アコウカ!!」
イラアの体と、すぐ近くにあった椅子が瞬時に入れ替わった。
ゼロウスは驚きもせず、静かに呟いた。
「……ちょうど1分、経ってしまいましたか」
イラアは即座に寺を飛び出し、逃走した。
「また目が合ったら……今度こそ、殺される……どうにかしないと!」
その時――脳裏に浮かんだのは、阻止雨の教えだった。
「イラア、戦闘で一番大事なことは何かわかるか?」
「……相手の動きを読むこと、ですか?」
「まぁ、それもある。だがな――一番大事なのは、“隙をつく”ことだ」
「……そうか! あいつの隙をつくしかない!!」
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