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vs銀行強盗 2

 男の目が一瞬だけ細まり、その口元に不敵な笑みが浮かぶ。そして次の瞬間、彼は音もなく私へと駆け寄ってきた。その動きは獣のようにしなやかで、一瞬でも気を抜けば致命傷を負うだろう。私はすぐに構え、迎撃の体勢を取る。

「......っ!」

 彼の攻撃は鋭かった。腕を振り抜き、挙が空気を切る音を立てる。私はそれをかろうじて避け、足を踏み込みながらカウンターの一撃を放つ。だが、男はすでに私の動きを読み、紙一重でかわしてくる。

「やるな......」

 互いに攻撃と防御を繰り返す。私は何度も拳や蹴りを繰り出すが、彼の動きは素早く、常に一歩先を読まれているようだった。

 魔法を使いたいが、予備動作を見せた途端死が確定する気がしたのでしばらくは封印だ。

 私の速度は車を凌駕する速さのはずだが、何食わぬ顔で合わせてくる。

 ようやく腹部に1発入れ、男が一瞬体勢を崩した。

 激しい戦いが続く中、私と男は一瞬の隙を突こうと互いに動きを探っていた。だが、戦局は未だ決まらず、彼の攻撃をかわしながらも、こちらも決定打を与えられないでいた。

 そのとき、不意に男の後ろから足音が近づいてきた。そこには息を殺した。一親が、何かを力強く握りしめてこちらに走り込んできた。

「一親!?」

 私の驚く声が出るよりも先に、彼女は大声で叫んだ。

「わたしの友達に手ェ出すな!!」

 その手にはテニスラケットが握られていた。目を見開いたままの私と暗殺者を一気に視界に収め、一親は勢いよくラケットを振りかぶった。

「なっ......!」

 強盗はその予想外の動きに一瞬たじろいだ。まさかの展開に戸惑ったのだろう。だが、一親はその一瞬の隙を逃さなかった。

 全力でラケットを振り抜き、脇腹に一撃を叩き込んだ。

「ぐっ......!」

 苦痛に顔を歪めてよろける。その力はさほどではなかったが、その突然の行動と、自身が持つ意志の強さが、男に一瞬の動揺を与えたのは間違いない。

「一親…」

 私は思わず声を上げた。彼女の手は震え、顔には恐怖が浮かんでいたが、それでも彼女は私の前に立ちはだかっていた。

「助かった…一親」

 私は冷ややかに彼を見つめ、ここで一気に勝負を決めることを考えた。通常の攻撃ではこの男を倒しきれないと悟り、私は手のひらをかざして魔力を集中させる。

「魔法を使わせてもらう」

 私の手のひらから魔力がじわりと立ち上り、周囲の空気が震えるような感覚が広がる。男は一瞬その変化に気づき、目を見開いた。彼の表情には明らかに恐怖と驚愕が浮かんでいる。彼はただの武力ではなく、異能の力が今目の前にあることを悟ったようだった。

「お前.....何だそれは!」

 男が叫ぶ間もなく、私は魔力を凝縮し、火球を形作った。それは小さくとも猛烈な熱を秘めた一撃だった。周囲の機械やらは粉々に破壊された。男は衝撃波で壁にぶつかり、気絶した。

「…おかしいな」

 正直、目の前の男は殺すつもりで魔法を放ったのだが、指が勝手に動き標準がズレた。最近、肉弾戦のしすぎで訛っていたんだな。鍛えておかなければ。

「さて……」

 私は一親に歩み寄りながら、周囲に目を配った。銀行の中は静寂に包まれ、倒れた強盗たちの姿が散らばっている。一親は私を見上げ、まだ少し震えている。

「よく頑張ったな」

 私は静かに呟いた。それにしても、一親は暗殺者の才能があるのではないだろうか。殺意があるのに、攻撃の瞬間まで一切感知する事が出来なかった。

 だが、このまま彼女が私の力の正体を知り続けているわけにはいかない。一親の恐怖心も、そして目の前で展開した超常的な光景も、すべて消し去る必要がある。私が人間として、この世界で平穏に生きていくためには、彼女にこの記憶を残しておくわけにはいかないのだ。

「本当に魔緒なの…?魔法とか運動神経抜群だし…わけわかんない」

 一親は不安そうに私を見つめている。その瞳に少しだけ心が痛むが、私は冷静に彼女に向き合った。

「分からなくていい。少しだけ眠ってくれ」

 私は手をかざし、魔力を静かに解放する。淡い光が彼女の額に届き、次の瞬間、彼女の瞳がゆっくりと閉じていった。私の力に反応して、彼女は静かにその場に倒れ込む。周囲の一般人も同様に、その光に包まれ、次々と意識を失っていく。




「最悪……財布、無くしたし……」

 一親は倒れ込むようにベンチに座り、肩を落としてため息をついた。その顔には明らかに失望の色が浮かんでいる。

 銀行の一件からしばらく経ち、平穏に戻った。ニュースでは、強盗らが急に来て急に倒れて機械が壊れたと報道されていた。

 一親が大事そうにしていた財布が見つからないのは事実だが、私にとってはそれほど深刻な問題ではないんじゃないかと思っている。

 むしろ、彼女の浪費癖を考えれば、これはいい教訓かもしれない。

「1番くじで消える運命だったんだ。物理的にお金が下ろせなくて良かったじゃないか。口座自体に金はあるんだろ」

 私は軽く皮肉を込めて言う。もし銀行でお金をおろせていたら、きっとその全額を1番くじに費やしていたに違いない。現実的には、財布がなくなったことで浪費は防がれたのだから、ある意味幸運だろう。

「うぅ……それでも無くすなんてツイてないよ……」

 一親は悔しそうに頬を膨らませ、眉を寄せている。その反応に、私は思わず笑みを浮かべた。

 帰り道、私は一親と並んで歩いていた。一親はいつものように元気に笑いながら話しているが、その笑顔の奥にあの日の勇気が残っているように感じてしまう。

 私はふと立ち止まり、その姿を見つめた。記憶は消えてしまったが、一親の行動は私の中でしっかりと刻まれている。ラケットを握り、私を守ろうと立ち向かってくれたあの姿は、今でも鮮明だ。

「一親のことを知れて良かった…」

「え、どういうこと? なんかしたっけ?」

 一親は不思議そうに目を細め、私の顔をじっと覗き込んでくる。一親からすれば、何も特別な出来事はなかったのだから、当然だろう。

「いや、別に……なんとなくだ。」

 私はあわてて言い繕った。

「なんとなくって……でもあたしの評価が上がってるならいいかな」

 一親は少し首をかしげ、笑いながらそう言った。

 私は一親の姿をちらりと横目で見ながら、心の中で小さく息をついた。

 不思議な事に今の私は、一親を守ってやりたいと思う。だが、それだけではない。一親……そして友理もだ。

 二人と過ごす日常の中で、ふと考えてしまう。もし私がこの世界を再び支配する日が来たら…そのとき、この二人をどうするべきか、と。私はほんの少し口元を緩める。

 そうだ。一親と友理は、世界を支配した際には、側近に置いてやろう。

 私の心の中で、その決意が固まっていく。勇気と強さを持つ一親、そして穏やかで鋭い感性を持つ友理。二人の資質は、魔王として君臨する私のもとで輝くだろう。それが、彼女たちにとって最も適した場所になるはずだ。

 表には出さず、そんな思いを胸に秘めながら、私は黙って一親の話を聞き続けた。


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