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vs銀行強盗

 今日は休んだ分の補修を受けている。休んだ分のテストや提出物の嵐だ。これをやらなければ、留年の危機というので仕方なく受けてている。せっかく午前で授業が終わったのに放課後がかなり潰れてしまった。

 玄関に向かい疲れ切っているところに、ふいに背後から聞き慣れた声が飛んできた。

「お、こんなとこで何してんの?」

 振り返ると、そこには一親が立っていた。テニスバッグを肩にかけ、少し汗ばんだ額を拭いながら、にこやかに私を見ている。私は一瞬戸惑ったが、鞄軽く揺らして答えた。

「一親か……ただの補修だ。入院やらしていた時の足りない分のな」

「へぇ、お疲れさん。私は部活帰りだよ……テニス部って相変わらず忙しいんだよね」

 一親は苦笑いしながら、自分の肩を軽く叩いた。テニス部に所属する彼女は、毎日放課後になるとコートに向かい、走り回っている。その忙しさには感心するが、私には到底真似できそうにない。

「美術部は年中暇だぞ」

 絵を描くという活動が主の美術部は、テニス部のように体を動かすこともなく、時間がゆったりと流れている。

「暇すぎるのも嫌だなぁ……」

 一親は笑いながら、ふと何かを思いついたようにこちらを見た。

「そうだ、ちょっと付き合ってよ。どーせ暇でしょ?」

 彼女の突然の申し出に、私は少し眉をひそめた。どこへ行くつもりなのかを尋ねようとすると、一親はすでにその答えを用意していた。

「どこに?」

「コンビニ!」

 彼女は元気よく答えると、私の手を引っ張るように歩き出す。私は一瞬ためらったが、仕方なく鞄を持ちながら後をついていくことにした。

「お、あったあった!」

 コンビニに入るなり、一親が真っ直ぐ向かっていったのは、レジ横に並べられた小さなラック。そこには色とりどりのグッズが並んでおり、その前で一親が目を輝かせている。私も彼女の後ろからその様子を見つめた。

「……何だそれは?」

 思わず声をかけると、一親は嬉しそうにこちらを振り返った。手に持っているのは、小さな紙片で、何か書かれているようだ。彼女はそれを掲げながら説明し始める。

「1番くじ!今やってるアニメのやつだよ。グッズが当たるんだ!」

 一親の目は期待に満ちて輝いている。私はその説明を聞き、彼女の普段の姿からは想像もつかない興奮ぶりに、少し驚きを隠せなかった。普段はクールでさっぱりした性格だと思っていたが、どうやら一親にはオタクな一面があるらしい。

「……なるほど、そういう趣味があったのか」

 私は腕を組みながら、彼女を観察する。彼女が熱心にラックの中を眺める姿は、さっきまでのテニス帰りのクールな雰囲気とは打って変わって、まるで子供のようだ。

「お試しに少し引いてみよ!」

 一親は楽しげに紙片を手渡そうとする。私は一瞬戸惑いながら、その紙片を見つめた。興味がないわけではないが、こんな形で彼女の趣味に付き合うのも悪くないかもしれないそう思って、私は軽く頷いた。

「……まぁ、一度試してみるか」

 コンビニの1番くじを試しに引いてみたはいいものの、どうやら私には運が味方していたらしい。数枚引いたはずなのに、気づけばあれよあれよという間にグッズの山ができていた。フィギュアやキーホルダー、ポスターやマグカップ、こんなにたくさん手に入るとは思ってもみなかった。

「すごっ…ほとんど当たりじゃん」

 一親は萎えながら私の隣でグッズの数々を眺めている。私は買い物袋いっぱいのグッズを抱え、家へと戻ることにした。

「重いな……」

 鞄だけでもそこそこ重かったのに、今ではそれに大量のアニメグッズが加わっている。

「悔しい……!」

 突然、一親が悔しそうに叫び、こちらに振り返った。彼女の顔には明らかに負けたくないという気持ちが滲み出ている。そして、何かを決意したかのように拳を握りしめ、口を開いた。

「銀行行ってお金おろす!! まだ1番くじやる!」

 彼女の言葉に、私は思わず立ち止まり、驚いたように一親を見つめた。

「ほどほどにな……?」

 しかし、一親は悔しさを噛み締めるように目をキラキラさせていた。

「大丈夫! 次は絶対にもっと当てるから!」

 その決意は固いらしい。その様子を見て、私は心の中で苦笑した。どうやら、オタクの世界は私が思っているよりも奥が深いらしい。


 コンビニの前で、私は一人、袋を抱えながら一親の帰りを待っていた。彼女が「お金をおろしてくる!」と意気込んで銀行へ向かってから、もうかれこれ10分は経っている。

「遅いな……」

 ため息をつき、時計をちらりと見る。時間にして10分程度かもしれないが、待っている身からするとずいぶん長く感じる。

 コンビニの明かりが静かに通りを照らし、周囲は夕暮れの中に溶け込んでいく。心のどこかに、不安のようなものがじわりと広がってくるのを感じた。

「……様子を見に行くか」

 私は独り言のように呟き、買い物袋をしっかり持ち直す。一親の元へ向かおうと足を踏み出した。彼女が向かった銀行はコンビニから少し離れているが、このままじっと待っているよりは動いた方がいいだろう。

 私は銀行の入り口にたどり着いた。普段と変わらないように見えるその自動ドアを平然とくぐり、中へと入る。シャッターが閉まっており、電気も消えている。中に入れないのは困るので、溶接して入り口を作った。

 店内には、普段の銀行ではありえない光景が広がっていたが、特に問題はないだろう。

「さて、どこだ一親……」

 目を細めて一親を探しながら、ふと周囲の空気の重さに違和感を覚える。異様な静けさと、頭を抱えて伏せている人々の姿が、徐々に視界に入ってくる。私の足が、そこで初めて止まった。

「……何だ、これは?」

 状況を飲み込めないまま、周囲を見渡す。そして、そのとき、鋭い視線を感じて振り返ると、銀行の奥に立つ数人の男たちと目が合った。

 ふと私は腕組みをし、辺りを見回す。床に伏せている客や行員の姿、怯えた表情。なぜみんなこんな状態なのか、まるで理解できない。

「私は人を探しに来ただけだ。邪魔をするな」

 私は平然と呟き、周りをきょろきょろと見渡す。強盗たちが一瞬、私の言葉に固まったように見えた。

「おい、お前! ここがどんな状況か分かってんのか!?」

 一人の強盗が声を荒らげ、私に向かってナイフを突きつけた。だが、私はまだ事態の深刻さを理解していなかった。ただ、銀行の異常な静けさと、武器を持つ彼らの存在に何かおかしなことが起きているとは感じているが、それが具体的に何なのかまでは掴めていない。

「一親、先帰っていいか?親を怒らすのが怖い」

 私はそう付け加え、周囲を見渡した。未だに状況がよくわからないが、ここで探し物をしているような気分だった。何が起こっているのかよりも、まず一親を見つけることが優先だった。

 その言葉に、強盗たちの一人がにやりと口元を歪め、周りを見回しながら声を張り上げた。

「お友達はこいつか?」

 彼が合図すると、奥から連れ出される一人の少女。それは、確かに私の友人である一親だった。彼女は両手を縛られ、怯えた表情を浮かべている。彼女の姿を見た瞬間、私は思わず声を上げた。

「一親!?」

 一親は私の声に反応して、こちらに視線を向けた。彼女の顔には、驚きと不安が交錯している。自分がこんな状況に巻き込まれていることへの恐怖が、ありありと表情に表れていた。

「助けて……」

 彼女がかすれた声で私に訴えかけてくる。私は瞬時に事態の深刻さを認識し、視線を強盗たちへと戻した。胸の中に、急速に怒りと焦りが沸き上がってくる。

「なるほど……」

 私は鋭い眼差しで強盗たちを見据えた。

 一親の怯えた表情を目にした瞬間、何かがはじけるような感覚が体中を駆け抜けた。

 強盗たちが一親を縛り上げ、笑みを浮かべている様子に、胸の奥から湧き上がる激しい怒りが押し寄せる。私は視線を鋭く彼らに向けた。

「.....お前たち、よくも一親に......!」

 その言葉とともに、全身に力がみなぎった。もう躊躇する余裕はない。私は一瞬で駆け出し、目の前の強盗に向かって全力で蹴りを繰り出す。乾いた音が響き、強盗の体が宙に舞い、壁に叩きつけられた。

 最初の頃とは違い、体の制限を超えることのないギリギリの範囲で力を出している。

「な、何だこいつ!?」

 他の強盗たちが驚愕の声を上げるが、私は気に留めない。怒りに任せて体が動く。次の瞬間、もう一人の強盗の手首を掴み、カ任せにねじり上げる。彼の武器が手から滑り落ち、痛みに顔を歪ませる姿を一瞥しただけで、私はさらに動いた。

「誰が…私の友達に触っていいと許可した?」

 拳を振り抜き、もう一人の強盗の顎を一撃で打ち抜く。彼の体がガクンと揺れてその場に倒れ込む。強盗たちは、まさか女子高生一人にこれほどの力があるとは思わなかったのだろう。次々と倒されていく仲間を見て、残った数人は恐怖に顔を引きつらせた

「く、来るな!やめろ…」

 彼らの叫び声など、私には届かない。激しい怒りに任せて、私は彼らを次々と倒していく。最後の一人が床に崩れ落ち、銀行内が静寂に包まれるまで、私は一瞬も動きを緩めなかった。

「.....ふん、これで終わりか」

 倒れた強盗たちを見下ろし、私は大きく息を吐いた。全身に力を込めていたせいで、体中が熱く火照っている。だが、その熱を振り払うようにして、私は一親の方へ向き直った。

「一親、大丈夫か?」

 縛られた手を解きながら、私は安堵の息を吐いた。これで一安心だと思った瞬間、彼女の瞳に一瞬だけ恐怖が走った。

「後ろ......!!」

 一親の警告に、私は反射的に振り向こうとした。しかし、遅かった。背後から何かが迫ってくる気配を感じた瞬間、強烈な衝撃が背中に叩き込まれた。

「......っ!」

 衝撃で体が前に飛ばされ、頭の中で痛みが響く。何が起きたのか、一瞬のことで状況が掴めない。私は振り返り、後ろに目を向けた。

 そこには、倒したはずの強盗とは別の一人が、武器を持って立っていた。だが、それだけではない。彼の動きには何か異様なものを感じた。先ほどまでの強盗たちとは明らかに違う、不気味な静けさが漂っている。

「おかしい......気配は全くしなかった.......」

 鉄製のバッドで殴られたのか…クソ痛い。

 私はなんとか踏みとどまろうとしたが、足がふらつき、完全にバランスを崩してしまった。その瞬間、男の一人が私に向かって勢いよく蹴りを放ってきた。

「これで終わりだ!」

 強烈な蹴りが脇腹に直撃し、私は地面に転がり込んだ。激しい痛みが波のように押し寄せ、体が反射的に丸まる。呼吸が止まり、一瞬、全ての音が遠ざかった。

 息ができない。

 痛みによるショックで、意識が朦朧としてくる。体を動かそうにも、腕が震え、力が入らない。

「まだ立つつもりかよ、バカが!」

 男たちの一人が笑いながら私の髪を掴み、無理やり顔を上げさせる。その瞬間、再び強烈な拳が私の顔面に振り下ろされた。視界が揺れ、頬に感じた鋭い痛みに意識が飛びそうになる。頭が激しく揺れ、私は地面に倒れ込んだまま動けなくなった。

 薄々感じていたが、ヒトの体というには痛覚が敏感らしい。しっかりと痛みが伝わってくる。魔王の時とは違った痛みを感じる。

 ここまでピンチになったのは勇者と死闘を繰り広げた時以外ない。

「正直舐めてたよ。たかが人間…されど人間って思ってたけど。本気を出す時が来るとは」

 息を整えながら、男をじっと見つめる。私でも気配を悟れないものが、勇者以外にいるとは。

「久しぶりに本気を出したかったんだ!」

 私は彼にそういい、全身を構えた。


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