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癒しの木  作者:
枝は折られた
19/90

 私にとって友達はとても大切なものだった。だから、心配も同情もされたくない。

 これが独りよがりの強がりなのはわかっている。

 でもね、本当の本当に巻き込みたくないだけ。巻き込まれるくらいなら...私は...。




 準備運動が終わって体育の授業が始まった。


「それじゃあ、ペアを作って練習を始めてください」


 私が嫌いな呪文を先生は淡々と唱えた。

 組む人がいないことが既定路線の今の私にとってはそれは呪いの言葉のように聞こえる。


「ね、遥稀、一緒に、」

「なお!一緒に組もう!組むよね?」

「え、でも私今、遥稀と、」

「はあ?」

「いいよ、さくらと組みなよ」

「あ、遥稀...」

「ほら、遥稀もこう言ってるんだから!」


 さくらは勝ち誇ったようになおの手を引いて行った。

 なおが私を誘ったとしてもこうなることはわかっていた。さくらが癇癪を起すと私だけじゃなくてきっとなおも悪口を言われる。それを聞くのも宥めるのもめんどくさい。

 ああ、何もかもがめんどくさい。試合が始まるまで適当に見学してサボっていようかな。

 周囲からあまり目立たないところに腰を下ろして耳を澄ます。楽しそうに笑いながら練習する声に混ざって不満や文句を言う声が聞こえた。さくらだ。

 希望通りなおとペアを組めたのに甲高い声で癇癪を起しているらしい。


「遥稀、隣いい?」


 ぼんやりと適当に思考を巡らせていると不意になおに話しかけられた。さくらは隣にいない。


「なお、さくらはどうしたの?」

「ペア、解消されちゃった。私が下手だから練習にならないんだって」

「ふーん」


 なおは困ったように笑った。なおとさくらなら下手なのは圧倒的にさくらだと思うけど。まあ、解消されたなら仕方ないのか。私は適当に返した。さくらは結局3人組になっている。


「だから、一緒に組もう?」

「え、なんで?」


 ようやくなおと目が合った。なおは申し訳なさそうな表情をしている。別にそんな表情をする必要なんてないのに。


「最初から、遥稀と組みたかったの。上手いし、楽しいから」

「楽しい、ね」

「あ、嫌なら無理にとは言わないよ...。それと、ごめん。最近、さくらとばかり一緒にいるから」

「気にしてないよ。さくらだけでも大変なのに私にまで構ってたらなおが潰れちゃうでしょ」

「でも、」

「なおが気にすることないよ」

「遥稀...」

「組むんでしょ?早くしないと練習時間無くなるよ」

「あ、うん...」


 体育の時間もさくらに文句や悪口を言われつつもなかなかに良い試合をして終わった。


「やっぱり遥稀とやるのやりやすいし楽しい」

「遥稀って意外と運動できるよね...」

「わかる。集中スマッシュとか返されて悔しいもん」

「いや、バド部じゃない人に何やってんのよ...でも、遥稀もお疲れ。ナイスプレー」

「あ、うん、ありがとう。そっちもお疲れ」


 更衣室の中はやや盛り上がっていた。

 運動部の人たちとはあまり積極的には絡まないけど基本的に良い人たちなのは知っている。

 さくらには物凄い形相で睨まれている気がするけど、気にせずに私は更衣室を出た。


「あ、待って!遥稀!」

「なお、どうしたの?」

「その、一緒に戻ろう?」


 断る理由もないので私は了承した。後ろからなおを追ってさくらもやって来た。



 展開は読めていた。さくらのなおに向けられたマシンガントーク。私は完全に疎外されていて会話に入り込む隙すら与えられない。なおはどうにか私に話題を振ろうと奮闘しているけどさくらがそれを許さない。

 ぼんやりと2人の攻防を聞きながら階段の踊り場へ差し掛かった時、私の体は宙に浮いた。

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