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ぼんやりとした風景が日常となったのはいつからだろう。
初めてこうなった時、私はどんな気持ちになったのだろう。思い出す日はきっとやって来ない。
でも、最近はぼんやりとしながら頭の片隅でそんなくだらないことだけを考えている気がする。
「それじゃあ、グループでプリントを集めてから提出してください」
授業の終わりかけ、先生はそう言った。
私が提出してこようと腰を浮かせかけた。
「私、提出して、」
「俺が行くよ。はい、プリント」
「あ、ありがと」
蒼が手早くプリントを集めたことにより私はお役御免となった。浮かせた腰をゆっくりとおろしてお礼と共にプリントを渡した。
集めたプリントをまとめて提出に行く蒼を見送る。こういうとこもモテる要素になるんだろうなぁ。
「おい、押すなよー」
そんな男子の騒がしい声と共に背中に衝撃が走った。指先が段々と冷たくなっていく。
私は後ろからきた衝撃と共に机に押し付けられた。
「はは、わりぃ」
悪びれる様子もない男子は笑いながらそう言い、さらに私の背中に体重をかけて机に押し掛けた。推定2人分の男子中学生の体重が圧し掛かり、机との間に挟まれた私は息苦しさと恐怖で声が出せない。背骨もぐりぐりされて痛い。
でも泣いちゃダメだ。無視をするんだ。この人たちに私の「やめて」は届かない。むしろ、調子に乗って、またエスカレートするに決まってる。
「おーい、早く提出しないと締め切るって言ってたけど」
頭上から蒼の声が聞こえた。男子たちは「あ、やべっ」と言って私の上からどいて急いで先生のもとへと向かった。
圧迫から解放された私の体は震えていた。泣きたくないのに涙が滲んでくる。涙がこぼれないように歯を食いしばって耐える。
もう溢れてこないと感じ、少し息を吐いてから私は他の人にはバレないように涙をハンカチで拭った。そして、ようやく前を向く。今の私がどんな表情をしているのか、私にはわからない。
きっかけはわからない。
ただ、本を読んでいたら急に取り上げられたり、虫のおもちゃを投げられることから始まった。
大きなリアクションはしなかった。いや、正確にはできなかった。戸惑いと恐怖心の方が勝っていたからr。声を上げることができなかった。
そして、徐々に背中を押されたり、さっきみたいにわざとぶつかれて圧迫されることが増えた。悪口なんて当たり前に言われる。
「遥稀、その、大丈夫か?」
「うん、次、体育だよね」
「あ、うん、あ、遥稀」
さくらとなおはもう移動したらしい。これもいつも通りだ。そう、これもいつの間にか日常のことで当たり前になった。私は体育着を持って移動を始めた。