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癒しの木  作者:
陽だまりの場所
11/90

来てよかった(由愛)

 私は今、彼氏である要くんと他校の学園祭に遊びに来ていた。要くんは1個上の先輩で、カッコよくて頼りになる素敵な彼氏だ。


「由愛、ご機嫌だな。そんなに遥稀に会えたのが嬉しかったのか?」


 驚いたことに、イベントで仲良くなったルカさんこと、遥稀ちゃんは要くんの中学時代のお友達だったらしい。私から見ると小柄で知的な印象の人。


「それもあるけど、お友達もできたし、何より要くんとこうして出かけるのが楽しくて、」

「おまっ、なんて可愛いことを...」


 私がそう言うと要くんは嬉しそうに笑ってくれた。

 正直、要くんと付き合うことに対して最初は躊躇していた。優しくてカッコイイ要くんは人気者でいろんな女の子が狙っていたから。私が釣り合うとは到底思えなかった。

 だから、お祭りのお誘いも断ってしまった。断った後で少しだけ後悔したけど、それでもこうしてまた誘ってくれたのはとても嬉しかった。

 遥稀ちゃんから聞いた話によると、要くんは中学時代に女の子に結構執着というか粘着されていて困っていたらしい。だから、基本的に友達や彼女以外に対する対応は塩だとも。

 私から聞いたことではあったけど衝撃的だった。いつだって優しい要くんが塩対応するだなんて信じられないから。

 ことを荒立てないために適当に柔らかめの対応をすることもあるけど基本は塩らしい。


「由愛?」

「ううん、ね、遥稀ちゃんってどんな子なの?途中から来た美男美女との関係は?」

「最近、いろんなやつに聞かれるな、それ」

「いろんな人に?」

「中学時代の友達とかにさ、前も聞かれたんだよ。遥稀ってどんな人に見えるかって」


 中学時代の友達にもってことが引っかかる。遥稀ちゃん、人当たりがよくて友人関係を円滑に築けそうでお友達も多そうなのに。


「...。その人にはなんて答えたの?」

「ん?あー変人。守らないといけないほど弱くないって言ったかな。3年の時に色々あったらしいけどオレは同じクラスじゃなかったから詳しくはないんだよな」

「そう、なんだ」


 要くんはなんてことのないように言っているけど、守るとか、そんな言葉が出てくる時点で遥稀ちゃんにとってはあまりいい環境ではなかったのかもしれない。憶測で考えるのはあまり良くないことだけど。

 でも、他校の男子生徒を目にした遥稀ちゃんは一瞬だけ狼狽えていた。

 一瞬だけ瞳に恐怖心が浮かんで、すぐに無機質なお人形のような瞳に切り替わった。


「美男美女が来る前に来てたのもお友達?」

「ん?同級生ではあるけど、友達ではないな。あいつらとほとんど関わったことないし」

「そうなの?」

「お、おう。3年のクラスも違ったしな。何より、話の系統が合わないからわざわざ話しかけるようなこともないし」


 要くんは、遥稀ちゃんの一瞬の変化には気がついていないみたいだった。気づいていたのはきっと、私と渉くん、そして、あとから来た美男美女だけ。


「由愛から見て遥稀はどんなやつだったんだ?」

「え?」

「いや、オレばっか聞かれるから。そんなの聞いて何が楽しいのかと思って」

「私から見た遥稀ちゃんは、第一印象はとっても理知的で落ち着いた人かな。握手すると心が落ち着くし、すごく優しいお姉さん、みたいな。頼りになりそう」


 私がそう言うと要くんは渋い顔をした。

 

「要くん?」

「いや、何で周りからそう見られてるのかがイマイチ理解できなくて...」

「ええ?要くんはどう思ってたの?」

「変人。キャラの制服のデザインとかスカート丈について真面目に議論できるやつだし」

「なにそのエピソード」


 詳しく話を聞くと、中学の頃同じクラスになった時にグループワーク中の時の話らしい。早々に課題が終わって暇を持て余した時に投下された話題で授業中にも関わらず結構白熱したとのこと。

 ちなみにその時の結論としてはセーラー服はそこまで短くしないで短くするならタイツを履いてほしい、ブレザーなら靴下によるとなったらしい。

 スカートの色などにも左右されるけどひとまず大人しめのキャラデザの子が着ると想定したものらしい。太ももも細すぎるのはちょっとな、とか。明らかに授業中にする話ではないと思う。


「へ、変人なのはわかったけど、他には?」

「他?んー?あとは、友達思いなんじゃないか?それと、厳しいことをズバッと言う」

「ええ?矛盾してない?」

「いやぁ、あれは遥稀が正しいとは思ったけどなぁ。外野からは心がないとか言われてたけど」

「いったい、何を言ったの?」

「運動部のやつがさ、大会で負けてすげー落ち込んでたんだよ」


 まさか、その人に向かって厳しいことを!?それはさすがに言われても仕方ないと思う。


「それで、クラスでも1番優しいって言われてた女子が何か慰めの言葉を掛けようとして、迷って遥稀に相談したんだ。なんて言葉を掛けたらいいかって」

「うん...」

「そしたら遥稀なんて言ったと思う?」

「え、お疲れ様、とか。よく頑張ったね、とか?無難な言葉を進めたんじゃないの?」


 私ならきっとそうする。落ち込んでいるなら元気になる言葉を贈りたいから。少しでも落ち込む時間を減らしてあげたい。早く元気になってほしいし。


「いや、あいつはさ、今は何も言わない方が良いって言ったんだ」

「なんで?」

「心の底から落ち込んでいるやつに思ってもいない言葉をかけると余計に落ち込ませたり追い詰めたりするかもしれないから、今は放っておけってさ」

「え?」

「後で聞いたら自分に言葉を聞きに来るってことはただの気休めを言いたいだけだろって少しだけ怒ってた。必死になって戦った人に対してそれは失礼すぎるって。無責任なことは言いたくないんだとよ」

「そう、なんだ」

「蒼が言ってたな遥稀の賞賛は心の底から思っていることだって。一切のお世辞を言わない真っすぐなものだってな」

「へぇ...遥稀ちゃんは、人の気持ちがきっとわかる優しい子なんだね」

「それも違うだろうな...時々人の心ないのかよって思う時あるし」

「ええ、?」


 ここまで人に寄り添えるのに...?


「あれ、要くんと彼女さんだ」

「あ、さっきの美男美女」

「え、?」

「蒼と清水だ」


 また会えるとは思わなかった、美男美女。遥稀ちゃんをものすごく大切にしていて遥稀ちゃんもこの人達の前だと安心できるのが分かった。瞳の温度が戻ったのもこの人たちが来てからだし。


「ってか、2人は何で来てんの?暇なん?」

「ハルに会いに来たに決まってるでしょ。お祭りは一緒に行けなかったんだから」

「お泊り会をしたって自慢してきたくせによく言う。ってか彼氏とデートはいいのかよ?」

「ハルに会いに行くって言ったら快くオーケーしてくれたわ」

「ええ!?遥稀ちゃん優先で良いんですか!?」

「彼氏もよく許可出したよな...1人で来ることを」

「だって、ハルを怖がらせるわけにはいかないでしょ?」

「それは、確かに...」

「いや、2人で来たわけじゃないのかよ?」


 そう、私も驚いたのはそこだ。てっきり2人で遥稀ちゃんに会いに来たのかと思ってた。何なら美男美女カップルだと思ってた。


「いや、そんなわけないでしょ。偶然鉢合わせて目的地が一緒だったからそのまま来ただけ」

「校門で出くわした時はさすがにびっくりした。ダンス部の友達と回らなくていいのかよ?」

「はぁ?ハルへの差し入れの抜け駆けをさせるわけないでしょ?ハルの食べ物の好みは私がよく知ってるんだから。この前も一緒にクッキーを焼いた時なんて、まいが作ったの可愛いってニコニコしてたのよ」

「それ、使った型が可愛かっただけだろ。こっちはこの前の祭り一緒に回ったからな」

「その時は要くんとなおもいたんでしょ?マウントになってないわよ?」


 ...。察するに、遥稀ちゃんを中心に置いためんどくさい関係か...。今のところ、清水さんが優勢っぽいけど。


「あ、さっきは驚かせてしまってごめんなさいね」

「あ、いえ、遥稀ちゃん顔色悪かったですけど大丈夫でしたか?」

「ええ。きちんと落ち着かせたから大丈夫よ。ハルのこと、気に掛けてくれてありがとう」

「い、いえ、遥稀ちゃんのこと、大切なんですね」

「もちろん。ハルは大切な友達だから。ハルが1番大好きな友達は私だもの」

「ぐ、どこからそんな自信が...」

「事実よ。本人から直接聞いたもの。寝ぼけながら言っていたわ」


 蒼さん、さっきから一方的にボコられてるけど大丈夫かな?


「あ、由愛ちゃんいた」

「え?遥稀ちゃん?どうしたの?」

「これ、忘れ物。メッセージ既読が付かないから買い出しついでに探してた」

「ありがとう。これ、要くんに貰った大切なハンカチなの」

「よかった。大切なもの失くしたら大変だもんね」

「でも、なんで私のってわかったの?」

「私のでも涼音ちゃんや渉のでもないねって話してて、見つけた直前にいた人を考えた時にまいや蒼じゃなさそうだから由愛ちゃんかなって」


 見ただけで違うってわかるのは遥稀ちゃんも2人の好みを把握しているんだな。


「ハル、もう戻るの?」

「うん。2人に任せたまんまだから。トラブルがあったらフォローしないと。私、先輩だし」

「ムリすんなよ」


 お、蒼さんがさりげなく頭を撫でている。遥稀ちゃん、特に反応はない。

 というか、あからさまなアピールなのに気がつかないってどうなんだろう...。


「遥稀、明日時間あったら案内してくれないか?」

「蒼、明日も来るの?暇なの?」

「ぐっ、ま、まあ、他の学校って気になるし?実際に通ってる人に案内してもらえたら安心だろ?」

「わかった。待ち合わせ場所とかは明日連絡する。まいのダンス部コラボも接待に見に行くからね」

「うん、楽しみにしててね」


 遥稀ちゃんは清水さんと軽く抱擁して戻っていった。うん、蒼さん色々と不憫。

 要くんが言っていた意味がなんとなく分かったかもしれない。


「蒼さん、」

「何?」

「頑張ってください、いろいろと」

「いつの間に仲良くなってんだよ。蒼、由愛は渡さんからな」

「いや、大丈夫。友達の彼女に手を出す趣味ないし」


 遥稀ちゃん、恋愛ごと興味なさそうだから長期戦になりそうだけど、ぜひとも頑張ってもらいたい。そしたら、ダブルデートとか楽しそうだし。

 それに、恋を知った遥稀ちゃんの表情や態度を見てみたい。要くんいわく「心のない人間」がどう変化するのか気になる。そうだ、イベント情報も蒼さんに教えて遥稀ちゃんと接触できる機会を増やしてみるのはどうかな。

 私は次々と湧いてくるアイデアを頭の中でまとめながら要くんに笑いかけた。

 これは少しの嫉妬。私のことより友達のことをよく知っている恋人と恋人ときやすい関係を築けている友達に対しての。まあ、2人がくっつくことはないけど。

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