第6話 少女と女王
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僕の炎剣が届くより先に,マリオネッタはバリアを出して防ぐ。
が,バリアはガラスのような澄んだ音を立てて割れた。
散らばった破片が自分に降り注ぐ光景に,マリオネッタは驚いたように軽く目を見張った。
僕は咄嗟に,炎剣で破片を四方に飛ばす。
その勢いでマリオネッタに斬りかかったが,マリオネッタは後ろに飛び退いて避けた。
「……貴方,【7】ですか?」
【7】とは位のことだろう。軽く頷くと,マリオネッタは少しだけ目を細めて「そうですか」と呟く。
「音刃!」
隙をついてリベが杖を振る。
鋭い音符のような形状の刃が飛んでくるが,マリオネッタはそちらを一瞥もせずバリアで防ぐ。
深い茶色の瞳を僕から離さない。
恐らく位が高いことで警戒されているのだろう。
「歓喜!」
リリーの杖から明るい桃色の光が溢れる。
その光はふわふわと飛んだ後,合体してぬいぐるみのようなウサギみたいな生き物の形になった。
そして,二本のピンと伸びた長い耳から桃色の光線を噴射した。
……おぉ。これが謎だらけの特殊魔術「ファンタスティック」! 面白い! ……いや……アニメで見たけどさ? でも生で見ると迫力が段違いだよ。すごいなぁ。あとウサギ(?)の顔がすごく可愛いな。リリーらしいというか。
けれど,二本の光線もマリオネッタはバリアを少し大きくして防いだ。
位が【7】の僕以外の攻撃が届かない。
その事実に,背筋が震える。
敗北が目に見えた瞬間,塔を取り囲むように生えていた木々が,風もないのに大きく揺れた。
驚いて上を見上げると,森の中にいる僕等の頭上を,深紅の花弁の波が通り過ぎる。
その波は,不思議そうに首を傾げるマリオネッタを飲み込んだ。
目を大きく見開いたマリオネッタの姿が,深紅の波の中に消える。
ただ驚いてその波を見つめることしかできない僕と違って,リベとリリーは波の中に飛び込もうと駆け出した。
ヒロイズムも二人の後を追って駆け出す。
けれど,三人は波に弾かれた。
僕も飛び込もうとしたが,深紅の波は僕等を入らせまいと強く拒む。
「えー? なんで入れないの,これ?」
「うーん,なんでだろーね?」
桃色音楽姉妹が揃って首を傾げる。
そっくり過ぎて姉妹であることを疑う人はいないだろう。
そう思うのは僕だけだろうか,いや違うと思う。
「うーん。花系魔術っぽいよね。オレ等に敵意はないっぽいけど」
「たしかにー?」
ヒロイズムの分析に,わかっているのかわかっていないのか,リリーが頷く。
……確かに敵意はない……のかな?ヒロ君はそんなことわかるんだ。すごいな。
ぼーっと花弁の波を見つめていると,波の中で何かがキラッと光った。それも複数。
「……え?」
ヒロイズムと顔を見合わせて首をひねった瞬間。
「皆様,少し離れてくださいませ!!」
どこからか高いけれど落ち着いた女性の緊迫したような声が響いて,咄嗟に僕等は数歩飛び退く。
すると,一瞬の間を置いて,波から黄金色の槍が大量に降ってきた。
「ひぇっ!?」
リリーが叫んだ瞬間,僕が立っていたところにドッと槍が突き刺さった。
そこの地面が大きく抉れ,シュウゥゥと音を立てて,魔力でできていたのか,槍は消える。
少し震えた手を反対の手できつく握って槍が出たところを見る。
波の中で魔術を振り回すマリオネッタが見えた。
けれど,見えたのは一瞬だけだった。
次の瞬間,別方向から現れた同じ深紅の花弁の波がマリオネッタを重ねて包み込む。
その波は,少しだけ色が濃かった。
「……はぁ!? え? どういうこと!?」
ヒロイズムの動揺したような声が響く。
数秒立って,マリオネッタがいたあたりが一瞬カッと金色に光った。
2つの波が消える。その場にマリオネッタはいない。
「……え? ……えぇ?」
思わず変な声を出してしまった。けれどそれだけ驚いた。
「えっと……さっきの声の人は……?」
リベが自分を落ち着かせるように深呼吸したあと,ハッとしたように周囲を見回した。
「あ」
女性と目があった。躑躅色の艶やかな髪を複雑に結い上げ,森の中なのに前世の本で見たことのある桜色のローブ・ア・ラ・フランセーズみたいなドレスに身を包んだ20代前半くらいの若い女性だ。
女性は僕をジッと見つめたあと,桃色の瞳を細めて穏やかに微笑んだ。
「えーと,どちら様ですか?」
ヒロイズムが困惑したような声でそう問うと,女性は笑みを深めて一歩前に出て,凛とした佇まいで口を開いた。
「わたくしはここ,華国の女王,マリア・ヴィクトリアですわ」
最後までご覧いただきありがとうございます
一言:マリオネッタと交戦中,突然の出来事に皆固まっていますが,リリーは結構いつもどおりです。