第5話 四天王
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音楽草原の中心部から進み続けて2日目。
段々道の雰囲気が変わり始めた。
「なんかいい匂いするね! お花の匂い!」
リリーが言うように,何故か常に流れていた穏やかな音楽が薄れていき,様々な花の香りが漂い始めた。
「華国は花と美の国だもの」
リベが当たり前というようにそう返す。
(そういえばこの二人は華国に行ったことがあるって言ってたね)
僕も言ったことはないが,アニメで見たのでどんなところかは知っている。
アニメ通りなら,そこでどんな出会いがあるかも。
「ここが,華国?」
華国は,あたり一面が美しい花々に囲まれていて,日本には存在しない美しい蝶が飛び交い,ミツバチのような黄色い虫の大群がその横を通り過ぎていく。
整備されている道は,向日葵のような花,秋桜のような花,チューリップのような花が等間隔で並んでいて,利便性より見た目を重視しているのがわかる。
その道を進んでいくと,花々に囲まれた森についた。
その一箇所だけ,高い木々が並んでいるので,かなり目立つ。
(ヒロ君は,この森の中にサンクチュアリーっぽい人が入っていったのを見たんだっけ)
ヒロイズムの顔も,わずかに強張っている。
この森の中に,自分の家に侵入し,両親を殺し,自分を殺そうとした人間の仲間がいるかも知れないのだ。
知らずのうちに,僕の頬にも冷たい汗が伝っていた。
「そろそろ……なんか……見えてこないの……?」
アニメ通り体力が低いリベが,途切れ途切れにそう言った。
確かに,森に入って数十分だが,森が途切れることも,今通っている細い道以外の道が見えるわけでもない。
(……おかしいな。森の中に突然高い塔が出てくるはずなんだけど)
そしてその塔から,のちに主人公たちに大きく関わってくるサンクチュアリーの幹部が出てくるはず。
「……フレイム君……あの塔……じゃない?」
「え?」
リベがそう言って,木々の間を指差す。僕には何も見えない。
ヒロイズムとリリーも,目を凝らしているが,見えていないようだ。
「……あ,私目がいいから……。もう数m歩けば見えてくると思うけど……」
毎度のごとくアニメにそんな設定あったっけ? と思いながら歩を進めると,段々と塔が見えてきた。
「おぉー。ホントに大きい塔出てきたねー」
リリーが塔を見上げて目を輝かせる。
「ヒロ君,大丈夫?」
「え?」
「すごい震えてるよ」
「え,あ,うん。ちょっと……緊張? してて」
そう呟いたヒロイズムは,一度深呼吸をした後,いつもの笑顔を浮かべた。
「__あの」
突然,塔の扉から遠慮がちな声が聞こえた。
驚いて,咄嗟に炎剣を構える。三人も各々の武器を構えた。
一瞬の間をおいて,声の主がゆっくりと進み出てくる。
黄金色の髪と,深い茶色の瞳を持つその少女は,整った顔に何の感情も浮かべず,静かに口を開く。
「私は,森に入る貴方方を上から見て,我々に牙を剥く危険人物と認識しました。よって,排除します」
(物騒!)
だが,この少女は知っている。アニメ通り,塔から出てきたことで確信を得た。
マリオネッタ。
確かそんな名前だったはず。
とんでもなく含みのある悪役らしい名前の通り,常に無表情で機械的な口調が特徴的なサンクチュアリーの幹部だ。
「やっぱり……サンクチュアリー?」
リベが警戒するようにそう問いかける。
「はい。私はサンクチュアリーの四天王,マリオネッタと呼ばれています」
(来たよ。アニメにありがちな伏線入りのセリフ)
そんなことはさておき,そういえばマリオネッタは幹部の中でもトップクラスの4人,四天王だったことを思い出す。
確か色々あって最年少の幹部で四天王という細かい設定持ちのキャラだった。
「マリちゃんはなんで排除するの?」
(マリちゃんとは)
「我々サンクチュアリーに逆らう者は排除しなくてはならないからです」
会話が成立していない。あとマリオネッタは自分の名前が変なふうに呼ばれてるのを気にして欲しい。
「リリー,理由はどうであれ,排除,つまり私達が殺されそうだってことに反応して」
リベが冷静な声でそう言いながら,瞳の色とよく似た翡翠色の魔石が嵌った30cmくらいの杖のような物を取り出す。
(そういえばリベは杖で音符を操るキャラだったね)
そう思っているとリリーはよくわかっていないというような表情で,とりあえずというようにリベとよく似た杖を取り出す。
姉妹でお揃いの杖らしい。
未だ全貌が明かされない特殊魔術「ファンタスティック」も杖を使う魔術のようだ。
(そういえば,ヒロ君は特殊魔術が「暴力」だから,剣とか杖はないんだね)
ヒロイズムはきつく握った拳に瞳に似た青い魔力を込め始める。
「先手必勝」
そう言い残して,ヒロイズムはマリオネッタに向かって駆け出す。
怒りなのか,恨みなのか,暴走しそうな表情に少し不安を覚えたが,相手は強かった。
マリオネッタは自分に槍の如く飛んでくるヒロイズムに驚きの表情一つせず,左手を軽く振る。
するとその手から魔力のバリアが現れ,ヒロイズムを弾き飛ばした。
大きな音を立てて飛んでいくヒロイズムを見て,リリーとリベが目を見張った。
いつも明るく光るその瞳には,恐怖が浮かんでいた。
「こちらは無傷ですが,私からも反撃しますね」
冷静な声のまま,軽く左手を振ると,薄黄色の無数の魔力の塊が空中に現れ,鋭く変形する。
その先端はすべて,僕等に向けられていた。
「音守!」
リベがサッと杖を振って,僕達全員の前に楽譜のようなバリアを張る。
そのバリアによって,身体に鋭い魔力が当たることはなかったが,バリアにはヒビが入っていた。
(実力差が,圧倒的すぎる)
けれど,出くわした以上は戦わなければいけない。
ヒロイズムがもう一度魔力を拳に込める。
リリーとリベが杖を構えて,マリオネッタをキッと睨む。
僕は炎剣に魔力を込めて,マリオネッタに斬りかかった。
最後までご覧いただきありがとうございます
一言:初めての敵キャラ登場です。アニメっぽくなってきました。あと自分で書いといてなんですが,すごい名前ですね。