第4話 【余談】太陽と空と音楽と
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「おはよー。朝だよー」
テントの中にいる仲間たちにも聞こえるように,心持ち大きな声でそう口にした。
これは旅をする前から朝が弱い姉を起こすために少し前から始めた習慣だ。
(そういえば……今日からフレフレとヒロろんが一緒に旅するんだったねー)
フレフレはオレンジっぽい髪と目の男の子だ。
なんか炎みたいだけど,優しい人だと思う。火の剣は強い。
ヒロろんは金色の髪とお空みたいな青い目のかっこいい男の子だ。
なんかすごいけど,優しくて難しい話ができる真面目さんだ。
まだ戦っているところを見たことはないけど,フレフレは強いと言っていた。
「あー……おはよぉ……」
起きているのか寝ているのかわからない口調のリベ姉がテントから出てきた。
眠そうなのに,身だしなみは整えられている。
リベ姉のテントの中は私が長いこと気になっている秘密の空間だ。
「リリカ……リリーは朝早いねぇ……」
フレフレもオレンジ色のテントから出てきて,眠そうに目を擦る。
そんなに早いだろうか?と首を傾げたあと,ポン と手を打つ。
(そういえば私ってお日様の光が見えたら起きるから,早いのかも!)
「フレイムとリリーとリベ……おはよー……眠い」
ヒロろんが眠そうに青いテントから出てくる。
ぼんやりとしているが,目はいつもと同じ,明るい青色だ。
私は密かにこの青色を気に入っている。
「おはよー! もうご飯食べるよー」
今日一日輝いてくれるように,青い目に向かって心持ち大きな声ととびきりの笑顔で答える。
ヒロろんは驚いたように目を丸くした後,頬を微かに赤らめて,小さく「うん。わかった」と言った。
(どーしたんだろう? もしかして焚き火が熱かった?)
後ろでニヤニヤと愉しそうな笑みを浮かべている二人には気づかないリリカルだった。
「そういえば華国までってどれくらい?」
朝ご飯の油が少ないお肉を食べながら,ヒロろんがリベ姉に問いかける。
「ここ,音楽草原から華国の中心部まではだいたい3日くらいかな。辿り着くのは2日後くらいだと思うけど……。ほら,華国はあまり大きくない領地だから」
(あんまり大きくないんだねー。なんだっけ。ジャル……?)
一人で首をひねっているリリカルに気づかず,三人は話を進めていく。
「2日くらいなら食料は魔獣を狩らなくても足りると思うけど」
「私はどこの道を通るのか地図を見て考えておきたい」
「僕は安全であればどこでもいいんだけどなぁ」
「安全な道ならこの道とか……」
「あ,この道はやめたほうがいいよ。前通った時にそこそこ大型の魔獣に襲われたんだ」
その言葉に,リリカルがハッとしたように顔を上げる。
「魔獣!? 何の魔獣? 音楽系魔獣? お花系魔獣?」
ぐいぐいと前のめりになって問うと,ヒロろん驚いたように後退りしながら,目を瞬き,リベ姉を見た。
「えーと……この子は,前に音楽を奏でる魔獣を見てからそういう魔獣に興味を持つようになったの」
「へ,へぇ……」
フレフレが違和感があるような顔で,そう言った。
「うーん。オレは流石に戦えないから逃げたけど,普通に草系の魔獣だと思う」
「なぁんだー」
一瞬で興味が失せたのを察したのか,ヒロろんが慌てたように付け足す。
「で,でも,今から華国まで行く道には音楽の魔獣とかもいるんじゃないか? 特にここ,音楽草原だし」
同意を求めるようにヒロろんがフレフレとリベ姉を見ると,二人は何度も頷く。
(なんかリベ姉とフレフレ今日楽しそう。いいことあったのかなー?)
「さて。ご飯も終わったし,テント片付けたら出発しようか!」
フレフレがそう言って,テントに向かう。
リリカルはテントの中に入って,ハァ,と溜息をつく。
(相変わらずって言えば相変わらずなんだけど……散らかってるんだよねー)
最初は旅に出るのに必要最低限の物しか持っていなかったから,散らかることはなかったが,旅をする間にたくさんをその地域の特産品や楽器,喉に良いらしい食べ物などを買っていたので,今はそこそこの大荷物になっている。
(うーん。物は減らそうとしてるんだけどねー。だってお土産は楽しいものが多いし……楽器はリベ姉と演奏するからいるし……お歌も声が綺麗って言われてるから歌いたいし……。そもそも私,【旅の歌姫】だからなー。うん。どれも捨てられないね)
いつもと同じノリで納得して,直後にどんよりとした気分で荷物をまとめ始めた。
(あーー。疲れたぁー)
口には出さずに,頭の中で精一杯叫ぶ。
いつもは体を動かすのがあまり得意ではなかったリベ姉に合わせて,かなりの頻度で休憩を挟みながらのんびり進んでいた。
こんなに歩いたのはあの時以来だ。
(多分リベ姉は私よりも疲れてるんだろーなー。フフフ)
さっきから少し前を歩く男の子二人においていかれないように必死に足を動かしながら「あ゙ー」とか「うあ゙ー」とか呻いているリベ姉を見ると,疲れていても笑みが浮かぶ。
いつも通りな姉の姿に,なんとなくホッとした。
「そろそろっ。休憩っ,しまっ,しませんか……?」
「え,あ,そっか!ごめん。休憩しよっか」
フレフレは草原に座り込んだリベ姉を見て,一瞬目を彷徨わせた後,ハッとしたように足を止める。
「あーそっか。オレ等はまだ行けるけど,女だもんな。リリーも大丈夫か?」
ヒロろんがそう言ってこっちを見る。
「うん。私はまだ大丈夫だよ! リベ姉が歩くのに苦手なだけ!」
「ちょっ,リリー!」
リベ姉が慌てて止めようとするが,本当に疲れているのか,立ち上がろうとして,また座り込む。
そんなリベ姉に水筒(?)を渡しながらフレフレが嬉しそうに笑った。
「フレフレどしたの?」
「えっ!? な,何が?」
フレフレがビクッと肩を震わせる。
「だってニコニコしてたじゃん」
「あ,えっと……それは,ね……」
恥ずかしそうに顔を背けるフレフレに,三人の好奇に満ちた視線が向かう。
「その……僕,こうやって同年代の人とこういう関係を築いたことがないから……嬉しくて」
「……ちょっとわかんない言葉があるけど……友達ができて嬉しいってこと?」
そう言って首を傾げると,フレフレは太陽のような笑顔を浮かべた。
「友達……! ……うん! そういうこと!」
フレフレは誇らしそうな,嬉しそうな笑みを浮かべたまま,立ち上がる。
「さぁ,そろそろ行こう! 華国に!」
最後までご覧いただきありがとうございます
一言:今回はリリカル視点です。天然ポジティブなリリカルの心の声(?)は書いていて楽しかったです。