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第21話 別れの門

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「じゃあ,レーツィと君達は此処でお別れなのね。レーツィは皇帝直轄領インペラーゼに用事があるわけじゃないから」

 驚きと興奮がまだ冷めきらない僕達に向かって,レーツェルさんがそう告げる。

「……えーと,ありがとうございます」

 徐ろにヒロ君が礼をした。

 レーツェルさんは少し驚いたように目を瞬いた後,「何がなの?」と問う。

「……その,見ず知らずのオレ等を態々転移魔術……? で連れてきて頂いたんで」

 朗らかな笑みに何か思うことがあったのか,レーツェルさんは目を丸くして固まった。

 妖精族ということもあって落ち着いている雰囲気だったが,その表情になると,見た目通りの年齢に見える。

 長い間があって,レーツェルさんは小さく表情を綻ばせた。


 ずっと笑みを浮かべてはいたが,何処か空虚だった瞳に光が宿っている気がする。


「そうなのね。そうなのね。君達はお礼を言うのが普通なのね」

 明るく,花が開くような眩しい笑みで,レーツェルさんはそう繰り返して笑った。

「……此方こそお礼を言うの。ありがとうなのね。リリーとその仲間の皆」

(……リリーの印象が強い? 同類って言ってたし……)

 若干の困惑を他所に,リリー達は素直に礼を返し,別れを惜しんでいる。


「レーツィさんは何処に行くの?」

「うーん,レーツィは世界中を旅してるんだけど,今は一寸用事があってこの近くの村に行くの」

「そっか! また会えると良いね!」

 リリーが嬉しそうにそう言って,レーツェルさんも頷いた。

「……そういえば,君達はどうして此処に来たかったの?」

 思い出したようにレーツェルさんが『ポルタール門』を振り返って問う。

 少し悩んだ後,ヒロ君が口を開いた。

「……オレ達,ある組織と戦う為に来たんです」

 マリア様が言っていたが,サンクチュアリーのことは大陸の中枢に関わる人物にしか存在を知られていない組織らしく,一般には公開されていない。

 レーツェルさんの事は詳しく知らないが,そんな機密を簡単に話すのもどうかと思ったのだろう。

 ヒロ君の真剣な表情を見て,レーツェルさんは少し思考した後,深く詮索しないことにしたようだ。

「そう。目標を持って行動するのはとても良い事なの。頑張るのね」

 大人の余裕というのだろうか。そういうのを感じられる笑みに,僕達は揃って頷く。

 それに満足そうに笑みを深めて,レーツェルさんは目的の村の方向に向かって行った。


「……不思議な人だったね」

「良い人だったよ?」

 すぐに見えなくなった後ろ姿を思い返すようにヒロ君が呟き,リリーが首を傾げる。

 リベはそれに適当に頷きつつ,僕の方を見た。

「……それで,どうする?」

「……どうする,とは?」

 心当たりがない為そう問うと,リベは視線をずらす。

 その先には,固く閉ざされたポルタール門があった。

「……通る為の説明に困るでしょ?」

 溜息混じりに吐き出された言葉に,僕は納得する。

 門番だって一般であることに変わりはない。サンクチュアリーの話は勿論,皇帝陛下に会いに来たという事さえ,そう簡単に話せないだろう。

「……うーん,桃色音楽姉妹の権力乱用とか?」

「噂に権力はないけど」

 明るい声で明るくないことを言うリリーを諌めつつ,リベは考え込むように視線を彷徨わせている。

(……うーん,マリア様の名前を出すのもありだけど……あ)

 ふと,脳裏を一つの案がよぎった。

「……もしかしたら,あれで行けるかも?」

 小さく呟くと,三人が期待に満ちた目で此方を見る。

 思わず出てしまった言葉だが,冷静に考えてみると,意外と良い案かもしれない。


 結論から言うと,僕達はポルタール門を通り,皇帝直轄領インペラーゼに入ることが出来た。

 方法は簡単。訝しげな目で誰何すいかを尋ねる門番に,名前を名乗り,こう付け加える。

華国ジャルディーノに縁のあるエミリーの代理」と。

 マリア様が「本当はエミリーに頼みたかった」と言っていた事や,異常な知名度と信頼で薄々察していたが,どうやら母さんはこんな大陸中心部の門番にさえ知られているらしい。

 謎に謎を重ねて掛け算した気分だが,こういう時は役に立つ。

 後で定期的に出している母さんへの手紙に書いておこうと思いつつ,改めて皇帝直轄領インペラーゼを見た。

 前世の資料で見たような街並みで,人通りが多く活気に溢れている。

 立ち並ぶ店や家々の明かりや,色鮮やかな飾りが赤い太陽と重なって,家の周りや華国ジャルディーノとは違う,明るい印象を与えた。

「……何かお祭りの時みたい」

「此処はいつでも賑やかだから,毎日がお祭りみたいなもんだよ」

 興味深げに周囲を見回すリリーに相槌を打ちつつ,ヒロ君も興奮気味に視線を巡らせている。

「……まずは,宿屋を探した方が良いかもね」

 服飾系と思われる店に興味が行っていたリベが,一度首を横に振った後そう呟いた。

 確かに段々暗くなっているのがわかるのに,いつまでも此処を彷徨くのは良くないだろう。

 目を話した隙にいなくなりそうな二人を連れて,僕達はポルタール門に近い所にある宿屋に入った。


「あら,いらっしゃい。冒険者さん?」

 受付と思わしき場所には,三十代くらいの穏やかな笑みを浮かべた女性が座っていた。

 周囲に立ち並んだ店に比べると小さな建物だが,内装は落ち着いていて外の喧騒が遠い。

 問いに肯定すると,女性は笑みを深めて料金を提示した。

 壁に書かれていた料金より安い。聞いてみると,冒険者は特別料金にしているらしい。

「……私も元々冒険者でね。あれ,苦労するでしょう?」

 遠い昔を懐かしむような黄土色の目は,僕達ではない誰かを見ているようだった。


 華国ジャルディーノの時と同じように,二部屋で二人ずつに別れ,落ち着いた雰囲気の部屋に置かれた椅子に座る。

「……人で賑わってる所は緊張するな」

 不意にヒロ君がそう呟いた。僕が首を傾げて疑問を示すと,ヒロ君は小さく続ける。

「……不意打ちとか警戒するのが難しいだろ?」

 思ったより物騒な理由だった。だが,わからなくもない。

 僕も前世では,出来るだけ人混みを避けるように教育されていた。

「……まぁ,此処は逆に人が多すぎて,そんな事出来るかは怪しいけどね」

 苦笑しつつそう答えると,ヒロ君は少し考えた後,「それもそうか」と軽く頷き,空を眺める。

 太陽の名残が,地上に無数に散った明かり達を,静かに染めていた。


最後までご覧頂きありがとうございます。

一言:ようやくやって来ました皇帝直轄領インペラーゼ。ちなみに街並みの参考はドイツとかその辺りです。

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