第18話 行先
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「皇帝直轄領……ですか?」
思わずそう問い返しながら,僕は記憶を探る。
確か皇帝直轄領というのは,その名の通り,各国の王を束ね,その頂点に立つ皇帝が治めていて,皇族の城がある大陸の中心部だ。
「……ご存じないかしら?」
首を傾げるマリア様の言葉を慌てて否定しつつ,情報を整理する。
「……えーと,皇帝直轄領は知っています。ですが何故今此処で……と思いまして」
三人が沈黙して,何故か此方に視線を向けてくる。
それを無視しながらそう問うと,マリア様は合点がいったというように頷いた後,穏やかに微笑んだ。
「わたくし達はいくらサンクチュアリーに手を出したくても,立場や国があるでしょう? ですが皆様は主を持たない華国と関わりがある,信用できる冒険者。サンクチュアリーに対抗するにはこれ以上ないくらい良い人材ですわ」
そう言われてみればそうな気もする。
「……オレ等以外にいないんですか?」
ヒロ君が首を傾げると,マリア様は微妙な表情で首を振った。
「……何人かわたくしが贔屓にしていた冒険者がいました。けれど何方も……」
言葉を濁したことで,何となく察する。
僕達も微妙な表情になっていると,マリア様が僕を見て困ったように続けた。
「本当はエミリーにお願いしても良かったのですけど……彼女は争いを忌避しているようですし……」
(……また増えた,母さんの謎……)
僕は内心うんざりしているが,ヒロ君やリベ達は特に気にしていないようで,適当に頷いている。
「……それはそうと,気になっていること良いですか?」
徐ろにリベが挙手する。マリア様が視線を向けると,リベは少し遠慮がちに切り出した。
「……その話を纏めると,私達が華国の専属……公認の冒険者になるってことですか?」
その言葉にはっきりとした拒絶を感じ取って,僕はヒロ君と視線を交わす。
リリーも何処か遠い所を眺めるような目になっていた。
「えぇ,そのつもりですけど……。その辺りの冒険者が突然,皇帝直轄領に出向いてサンクチュアリーに対抗すると宣言しても,訝しまれるだけですし……」
その答えに,リベが難しい顔になる。疑問に思ったのはヒロ君も同じなようで,珍しく沈黙しているリリーに小声で問いかけていた。
「……リベ姉と私はね。一つの所に縛られるのが嫌いなんだ。誰かの為にとか,性に合わないの」
いつもより随分と大人びた口調で,リリーはそう語る。
澄んだ緑の瞳は,此処ではない何処かを移しているように見えた。
その声はマリア様にも聞こえていたのか,マリア様も難しい顔になって考え込む。
ややあって,マリア様は仕方なさそうな表情を浮かべて,「では」と人差し指を立てた。
「皇帝陛下にわたくしから推薦と言いますか,身分証明のようなものを致しましょう。庇護ではなく,協力という形にするのは如何でしょうか」
「……まぁ,それなら私は良いです」
少しの間考え込んだ後,リベは納得したように頷く。リリーも不満はなさそうだ。
「では,皆様には皇帝直轄領に向かって頂くということで決定致しますね」
有無を言わせない口調がなんとも権力者らしいと若干遠い目になりつつ,僕達が承諾して,話は終わった。
「……皇帝直轄領って何処だっけ?」
「え? そこから?」
部屋に戻る途中,唐突にリリーがそう口にする。思わずリベの方を見ると,物凄い勢いで首を横に振られた。
「いや,私は知ってる! リリーが覚えてないだけ!」
「え? 行ったことあったっけ?」
リリーが目を瞬いて首を傾げると,リベが目を見開いて 思い出して!? と叫ぶ。
「ほら! 楽器修理してもらったでしょ!?」
「……あー,そんなこともあったような?」
「有名な店が沢山あるからな……。フレイムは行ったことある?」
「多分ないよ」
姉妹とは全く関係のない話をしつつ解散する。
ちなみにマリア様曰く,早めに皇帝に連絡しておくので,嵐が止み次第出発して欲しいとの事だ。
(……まぁ上には上の苦労があるんだろうね。連絡したのに僕等が来ないと煩い人とかいるのかな)
そういう世界とはお近づきになりたくないものだ。二の舞を演じるというか,前と同じ人生を歩みたいとは思わない。
「……フレイムってさ,結構高位の貴族だよな」
ヒロ君の問いに,思考を中断する。
「……一応そうなるね」
この世界における十ある「位」の【7】。これは伯爵や侯爵に該当する高位の貴族であることを表す。
確か【1】〜【3】が平民で,【4】〜【5】が騎士爵,男爵。確かヒロ君の一家が該当する。
【6】が子爵から伯爵で,土地持ちか否かで,同じ位の中でも身分差が大きいと聞いた。
【8】は公爵で一定の大きさの領土を持っており,皇帝からの信頼度によっては,華国のような一国家を凌ぐ程の力を持っているらしい。
そして【9】はマリア様のような一国家の王族。広大な土地と皇帝からの厚い信頼を持っている。
最後に【10】。これは皇帝とその血族のみが持っている。【8】以上でなければそうそう謁見も出来ない高貴な御方だ。
ちなみに余談だが,【7】でありながら大して土地を持っていない我が家は大分特殊な例らしい。
「……また思考が何処かに行ってる」
「あ,ごめん」
ヒロ君は僕が思考に沈むと直ぐに気づく。そんなにわかりやすいだろうか。
「……フレイムの家は一応位【7】だけど,冒険者ってやってて良いのか?」
その言葉に,僕が一瞬固まる。
ヒロ君はこう言いたいのだ。
高位の貴族の子息でありながら,貴族から侮られることの多い冒険者をしていて良いのか。
基本的に貴族は冒険者を侮り見下す。
何故なら冒険者というのは食うに困った平民が多く,貴族から見た平民というのは蔑みの対象だからだ。
逆に上下関係を厭う母さんや,冒険者を庇護するマリア様のような貴族は中々いないと思う。
「……まぁ正直,あんまり良くないとは思う。でも,母さんが良いって言ってるんだし,良いかなって」
あの親馬鹿な母さんが良いと言ってくれたのだから良いんだと思う。そう言外に告げると,ヒロ君は少し驚いたように目を瞬きつつ,微苦笑を浮かべた。
嵐が止んだのは,その翌日のことだった。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:久し振りに世界観について語りました。やはりこういうのを考えるのは楽しいですね。




