第16話 後始末
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「……さて,皆様お疲れでしょうけど……宜しいかしら」
溜息混じりに,誰よりも疲れた表情を浮かべたマリア様が,紅茶のカップをソーサーに戻しながら告げる。
「……先程の人は,アゼリアさんで間違いないですよね」
僕が代表して話を始めると,マリア様は僅かに唇を噛んで頷いた。
「……わたくしがあの子の気配を間違える筈がないし,わたくしにあんなに敵意を剥き出しにする人なんてアゼリアくらいよ」
「……あの時の深紅の波も,マリア様同等の魔力も,アゼリアで間違いないみたいですね」
ヒロ君が紅茶を飲み干してソーサーに戻す。その動作は妙に洗礼されているように見えた。
「えぇ。短時間で何人もそんな人が現れたら堪らないわ」
軽い口調でそう答えるが,その声は僅かに固い。
それもそうだろう。
同じ魔法なのに自分のものより濃い魔力。自分に恨みを持つ自分同等の魔力量を持つ妹。
そんな話が広まれば,マリア様の弱点になることは確実だ。
俯いて思案する僕を他所に,マリア様の背後に立っていた青髪のメイドが「そういえば」と進み出る。
「……その,アゼリア様が現れた後,メイド長のシェイラが行方不明になったそうです。メイドから,アゼリア様らしき人影の背後にいたという証言もございます」
(……アゼリアの目的は,自分の忠臣を連れ戻すこと?)
それだけではないだろうが,それも理由の一つだろう。
「……あのっ……一つ宜しいですか?」
壁際に並んでいたメイドの一人が控えめに挙手した。
「どうかして?」
マリア様が首を傾けて問うと,そのメイドは小さな声で語り始める。
「……あの,その……あの時,門番からの連絡が来たとき,門番が……その,その魔力の近くにシェイラ様の気配がしたという情報もあるから,シェイラ様には知らせないでくれ,と言われて……そういえば,マリア様が邪森に向かった後,シェイラ様の姿がなかったのです。もしかしたらその時から行動を共にしていたのでは……? この城の中に入れたのもシェイラがいたからかと私は思ってて……」
メイドが言い切ると,マリア様は少し思案するように指を組んだ。
(……それにしても,何かメイドさん達の雰囲気が変わったような? 発言も多いし……シェイラの有無が大きいのかな)
僕がそう考えていると,マリア様は頷いて「そうかもしれませんね」と呟く。
「内通者なしに,誰にも気づかれずに城に入ることは出来ないでしょう」
「……なら,これまで城にあった情報も,シェイラによって歪められていたかもしれないのですね」
その可能性に思い当たったらしいメイド達が,互いの行動を思い返すように視線を彷徨わせた。
「……別のメイド長を任命して早急に我が国の情報網を張り直さなければなりませんね」
「ん? 情報網はメイド長が担当してるんですか?」
何となく気になって尋ねると,リベも気になっていたのか,コクコクと頷く。
「……えぇ。メイドは諜報要員でもありますから。メイド長は諜報部隊長でもあるのですよ」
(……あぁー……だからメイドの入れ替わりが異常に多いんだ)
納得して頷いている間に話が進んでいき,シェイラの話から今後の話に変わった。
「今後最も最優先にすべきは,アゼリア様ですが……」
「そのアゼリア様について情報が集まって来ました」
メイド達が手に持っていた資料を順に読み上げていく。
「……サンクチュアリー,ですって?」
五人目のメイドの報告に,神妙な表情で聞いていたマリア様が柳眉が跳ね上がった。
「……マリア様はサンクチュアリーについてご存知なんですか?」
案の定,ヒロ君が驚いたように問う。
マリア様は逆に,彼がサンクチュアリーについて知っていた事に驚いたようだ。
少し逡巡するように視線を巡らせてから,小さく頷く。
「……サンクチュアリーは,わたくし達のような大陸の中枢に関わる者にしか知らされていない,ある極悪組織が自らを差す名です。彼等は本当に極悪非道な事をなんの躊躇いもなく実行し,その目的の一切を明かすことなく,気配を消して大陸の何処かに拠点を置き,大陸全土に蔓延っています」
(……凄い言われようだな。まぁそれだけの事をしたんだろうけど)
アニメの内容を思い出し若干遠い目になっていると,興味を持ったのか,リベが「例えばどのようなことをしたんですか?」と問う。
「……そうですね。有名なのは勇者と幹部の一騎打ちや,種族間での大戦争を引き起こした事等でしょうか」
少し思案したマリア様がその二つを例に上げた。
(……種族間での大戦争はわからないけど,勇者と幹部の一騎打ちは確かアニメでも話してたような……)
「……勇者……?」
心当たりがなかったのか,リリーが首を傾げると,ヒロ君が興奮気味に語り始める。
「知らないのか? 勇者っていうのはその昔,数多くの魔獣を打ち倒し,民を助け,強敵を前に一歩も引かずに世界を救った英雄だよ! 百年前に突然姿を消して行方がわからなくなったけど,彼は不老の薬を持っていたという伝説もあるし,きっと今も何処かで生きているんだ」
(……わぁお,熱烈。そういえばヒロ君は【英雄】に憧れてるんだった)
「……えーと,凄い人ってこと?」
やや引き気味にリリーが確かめるように問うと,ヒロ君は力強く頷いた。
「オレが旅を続けてるのだって,勇者みたいになりたいからだ!」
「……それはまた,壮大な夢ですね」
マリア様がそう言って苦笑する。
その後ろで,ミュリエルさんの瞳が何処か輝いているのが見えた。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:今回は後始末です。
一ヶ月過ぎていると思った方。わかっております。すみません……。




