第15話 元王女兼四天王
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「……どうしてわたくしがいるってわかったの?」
「……どうしても消せない気配ってあるんですよ」
警戒するようなアゼリアの声に,僕は剣を突きつけたまま答える。
「……何を言っているのかしら。わたくしのこの魔術は,同じくらいの魔力量を持ってないと感知できないよう細工してあるのに」
優雅に首を傾げるアゼリアとマリア様が重なって,なんとも言えない気分になった。
「……魔力量と気配は別物だと思います」
「……そう」
興味なさげな声でそう呟いた後,アゼリアは身に纏っていた黒いローブを投げ捨てる。
マリア様のローブ・ア・ラ・フランセーズに似た,けれど何処か違う丈が短く動きやすそうな,それでいて何倍も飾りや布が使われた豪奢な衣服の上,右肩に深紅のケープのようなものをつけている。
そしてそのケープを留めるのは同色の宝石に四つの星のような装飾が散りばめられたブローチ。
(……確か,サンクチュアリーの四天王であることを示すブローチだったはず)
僕が記憶を掘り返していると,アゼリアは深紅の手袋に包まれた細い指で僕の目を指す。
そして一言。
「抉りなさい」
「……!」
危険を察知した僕の体が咄嗟に後ろに下がる。
バキッと音がして,背後に立っていた柱が折れた。
(……ちょっと不味いかも)
僕を冷ややかに見つめるアゼリアの手元に,茨のような鞭が戻る。
(……多分「花束」の上位の特殊魔術だと思うんだけど……あの茨以外もあるんだろうな)
だが,今はギリギリこちらの方が有利だ。
彼女がその特殊魔術以外を使わない限りは。
「……よく凌ぐわね。並の冒険者ではないのかしら」
数分。
延々と茨の鞭を避け続けていた僕に,呆れたような,感嘆するような声がかかる。
「これはもう飽きたわ。こっちにしましょう」
(……何をする気?)
少し距離を取りつつ様子を伺うと,アゼリアは鞭を消して両手を合わせた。
祈るような体制のまま,数秒。
静かに目を開けたアゼリアの背後から,恐ろしい数の太い茨が伸びてきた。
「……っ!」
僕は素早く炎剣を構えて,一つ一つ薙ぎ払う。
「……何? その剣……。変わった魔力を感じるんだけど」
気味が悪そうに目を細めるアゼリアの言葉を無視して,襲い来る茨を切り続けた。
やがて全て地に落ち,多くの魔力を消費したらしいアゼリアの動きが止まる。
「……ねぇ。何で貴方みたいな魔力を持つ冒険者が今まで我々の目に止まらなかったのかしら」
「……時間を稼ぐつもりですか?」
僕が冷たく返すと,アゼリアは「そうよ」と答えた。
「無駄な争いはしたくないのよね」
「負け惜しみですか?」
「負けてないわよ」
「このまま僕が攻撃し続けたら負けますよ」
「自信家ね」
「悪いですか? 事実です」
言葉の応酬を繰り返しつつ,自分の魔力の回復を待つ。
相手がこの時間を使って魔力を回復しているなら自分も回復しておいた方が良いだろう。
持ちつ持たれつとかいうやつだ。違った気がするけど。
「……うーん,貴方名前は?」
少し思案した後,アゼリアは首を傾げる。
「……フレイム・カリエール」
一瞬逡巡した後,素直に答えた。
するとアゼリアは,音が鳴りそうな程長い睫毛を瞬かせて口元を左手で覆う。
所作一つ一つが洗礼されているな,と思いつつその様を眺めていると,アゼリアは僕を上から下まで凝視した後,ゆっくりと溜息をついた。
「そう……あの方の息子か……」
(……だから母さんは何者なんだよ!)
少し気が立ったが,一旦それは忘れてアゼリアの動向を注視する。
「うーん……あの方の息子が相手じゃ分が悪いわね……でも……」
(……一人で思案し始めた)
こういうタイプは一度考え始めると暫く続けるタイプだ。
(……隙をつく? でもそんな隙を与えるような真似をするかな?)
「……隙をつけるとでも思ってないでしょうね」
こちらの考えを読んだのか,アゼリアは少しだけ顔を上げて深紅の瞳で睨みつける。
それに答えるように彼女の背後から無数の茨が現れる。だいぶ魔力が回復しているようだ。
「……!」
静かに魔力の回復を待っていると,突然アゼリアが警戒するように身を翻す。
僕の方を見て警戒するように眉を上げた後,すぐに視線を逸らして周囲を探り始めた。
(……この気配……ヒロ君? いや……)
「……お姉様」
アゼリアの形の良い唇から,冷たい地の底を這うような声が出る。
それに答えるように,少し離れた暗がりの気配が揺れた。
「……そんなので隠れているつもり?」
嘲るような,苛立つような声と共に,暗がりに向かってアゼリアの背後で蠢いていた茨達が,僕に対しての時とは比にならないくらいのスピードで襲いかかる。
しかしそれが気配に届くことはなく,触れる寸前に何かに弾かれて霧となって消える。
「…………暫く合わないうちに魔力の制御が鈍ったんじゃなくって? アゼリア。そんなのでわたくしに触れられるわけ無いでしょう」
無表情の中に何処か苦悩の色を滲ませたマリア様が姿を現す。
相変わらず動きにくそうなローブ・ア・ラ・フランセーズだ。
それがアゼリアとの対比のようにも見える。
「……そういうお姉様だって動きが鈍っているわ。賊に襲われたら一溜りもなさそうね」
所詮こんなものだ。
兄弟の愛情なんて。
ただの夢幻に過ぎない。
「……貴女にそんなことを言われたくないわ。此処は貴女の家でもあるのに」
「…………違うわ。わたくしの家,だっただけよ。王女でない今はもう無関係。違う?」
あっという間に脇役になった僕は,若干の疑問を覚えつつ二人の会話を静観する。
「……素直じゃない所は変わってないんじゃなくて? アゼリア」
「今のわたくしを素直と感じるなんて,この城は随分殺伐としてるのかしら」
「誰のせいだと思ってるのよ」
「わたくしじゃなくてシェイラのせいね」
(……アゼリアは言葉が尽きないね。父上に扱かれてた兄上と遜色ないよ)
ズレた所で感心していると,不意に二人の背後に不思議な気配が立ち上っていることに気づいた。
(……え? 君臨……と,何だ?)
首をひねっていると,背後が騒がしくなる。
「……時間切れね……。折角久しぶりにお会いできたのに」
対して何も思っていなさそうな口調で,アゼリアは虚空を眺めた。
そして,何を思ったのか,静かに反対の壁を向いて腕を降る。
大きな音を立てて,初代女王を書いたという絵が割れた。
呆然と見つめるマリア様の方に少し満足気に笑いかけた後,アゼリアは霧となって消える。
その場に残ったのは,行っていないはずの激しい戦闘の後と,粉々に割れた額縁,そしてなんともいえない敗北感だった。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:ほぼ1ヶ月後の更新になりました。
次こそは……! というのも何回目でしょうか……。
7月からも忙しいですが,次こそは早めに更新したいです。




