第1話 始まり
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「大丈夫? フレイム」
(……え?)
目が覚めたら,知らない女性に不安そうに覗き込まれていた。
赤に近い茶色の瞳と金色の髪はファンタジー感がある。
(あるというか,ファンタジーだよこれは。色彩はあのアニメの主人公を溺愛する母親に似てる…ん?)
今,僕のことフレイムって呼ばなかった?
「あぁよかったわ,フレイム。一週間も目覚めなかったのよ? 私の愛しいフレイム。無事で良かった」
フレイム・カリエール。その名が脳をよぎる。それはそのアニメの主人公の名前だ。
(これ……もしかしてじゃなくってっ。ホントにあの,アニメの世界!?)
僕がこのアニメの世界に転生して,三日が過ぎた。この三日で思うことは唯一つ。
ここ本当にあのアニメの世界だ。
何でこんな事になったのかを考えると,簡単に答えが見つかる。
僕があの時死んで,転生したんだろう。
理由はわからないが,転生したならそれは受け入れなければならない。幸いにも僕はあのアニメのヲタクだ。あのアニメに関する知識は誰にも負けない自信さえある。
(でも……何か違うんだよな。会話とかはまだ納得できるけど……両親の関係とかが)
微かに違和感が残っているが,普通にこの世界の主人公・フレイムとして生活している。
「愛しい息子,そろそろ鍛錬の時間かしら?」
僕に穏やかな笑みを浮かべる母親・エミリーはそう言いながら玄関にある鍛錬用の木刀を渡してくる。ちなみにアニメだとこの木刀は旅に出るときに幻の剣,炎剣になる。
「う,うん。そだね」
(うーん。アニメだともうすぐ僕は旅に出るんだよね。この母親には言い出しづらい。主人公凄いなぁ)
そう考えながら庭で剣を振る。僕は父親に命令されて剣道をやっていたから,剣の扱いには慣れている方だ。けれど兄上には遠く及ばない。
何分か素振りをしたあと,僕は軽く呼吸を整えて庭を見回す。
庭には前世の世界には存在しない不思議な花が多く飾られている。母さんは無類の花好きという設定だったはずだ。確か特殊魔術は「花束」。
特殊魔術というのは,この世界の人間が十歳になると選ぶことが出来る魔術だ。種類は軽く一万を超えており,その全貌を把握するのは皇帝くらいだと言われている。故に大体の人は周囲の十歳以上の人から見聞きした魔術を選ぶ。その為,世界に使用者が存在しない魔術も多い。ちなみに僕は「火炎」だ。
主人公がそうだったので母さんに聞いたところ,本当にそうだった。
「まるで貴方のために作られた魔術のようね!」
その言葉はアニメにもあったセリフだ。その時主人公が返したように,僕も「そうだね」と笑った。
(ホントは母さんが 炎のように強く気高い子になってほしいわ! ってこの魔術に名前を似せたらしいけどね)
アニメだとそうなっていた。それを思い出して苦笑する。この異世界は本当にアニメに忠実だ。
「きゃあああ!!」
(……!? なに?)
母さんの悲鳴は玄関の方からだ。
インターホンのないこのファンタジーな異世界の一般的な貴族は,防犯意識が壊滅的。
偶に能力を活かして対策をしている人がいるが,極僅かだ。呼び鈴は一応あるが,音はしていない。
ちなみにこの家は十ある「位」のうち【7】だ。かなり高位の貴族なため,炎を使って鍛錬できるくらい屋敷は広いが,母さんが貴族同士の上下関係を嫌うため,騎士や側仕えはいない。
その為貴族の中でもかなり無防備だ。転生してすぐに気になったが,アニメには盗賊が入ってきたりしていないため,軽視していた。
__ここは,アニメに似ているだけで,アニメの世界そのものではないのかもしれない。
それは此処に来て二日後に考えたことだった。そもそも異世界転生なんて非現実的なのに,それが知っているアニメの世界なんて都合が良すぎると思う。
「フレイム・カリエール! 何処だ! 姿を見せろ!」
(……この声は……)
「愛息子! 逃げなさい!」
玄関には,恐怖のせいか声が上擦っている母さんと金髪碧眼の気の強そうな少年が立っていた。
「君……もしかして,ヒロイズム・クラージュ?」
思わず呟く。
ヒロイズム・クラージュ。いかにも子供向けアニメっぽい名前。百年以上前に姿を消した【英雄】に憧れ,その後継になることを夢見る素直な少年だ。十四歳で特殊魔術は「暴力」。
凄い名前だが,武道が得意で,魔力で体を強化することに長けている魔術だ。意外と使用者は多い。
(そんなことより……何でこの人が此処に来てるの?)
この少年は,旅に出た主人公が途中で喧嘩をふっかけられて実力を示し,仲間になったはずだ。家に突入してくるなんて筋書きじゃない。
やっぱりアニメの世界と決めつけるのは良くないようだ。
「……何でお前がオレの名前を知ってるんだよ!?」
ヒロイズムは動揺して群青色の瞳を揺らす。そりゃ知ってるよ と心の中で返した。
(僕,君の事かなり好きだったからね。裏社会の子供は純粋なヒーローに憧れるものなんだよ)
「彼のこと知っているの? 流石ね愛息子! 素晴らしいわ!」
先程まで恐怖で震えていた母さんが今度は感動で震えだす。感情の切り替えが凄い。
「っ……まぁ良い! フレイム・カリエール! オレと一緒に旅に出ないか!」
(ストレートに誘ってくる流れか……!)
その流れで来るとは思わなかった。けれど僕は断る必要がない。
「なっ……! 私の愛息子になんて無礼な口調と提案なの……? 子供とはいえ許しませんよ」
あ,と声が漏れそうになる。
(……まずい。子煩悩とはいえ母さんは位【7】の一族に嫁いだ実力者だ。それに特殊魔術「花束」は相手を蔓で縛ったり,花粉で戦意喪失させたりと,かなり高い実力を誇る魔術。此処で争われると屋敷がほぼ確実に壊れる!)
こんなときに屋敷の心配をする僕が少し可笑しいことは脇においておく。
「__待って,母さん。僕,旅に出るよ!」
僕が力を振り絞って叫ぶと,ヒロイズムに棘だらけの蔓を伸ばしていた母さんと,それに応戦しようと拳を振り上げていたヒロイズムが同時に振り返る。
ヒロイズムは嬉しそうに,母さんは呆然と僕を見た。
「愛息子? 何ですって?」
「……だから,僕は旅に出たい!」
僕がもう一度そう叫ぶと,母さんは怒るでも青褪めるでもなく,意外にも,困ったように小さく微笑んだ。
「まぁ……やはり? 貴方も,行ってしまうのね」
「え?」
「そういえば,まだ貴方には話していなかったわね。……ヒロイズム君,だったかしら? 少し応接間で待っていてくださる?」
「え? あ……はい」
急に雰囲気が変わった母さんに驚いたようにヒロイズムが目を瞬く。僕も同感だ。
ヒロイズムが応接間に行ったあと,母さんは躊躇いがちに口を開いた。
「……あのね。貴方のお父さん,フレデリックは私と結婚した1年後,旅に出たの。急だったから驚いて止めたけど,彼は祖先の秘密を見つけに行くと言って,聞かなかったわ。旅に出てからは全く音沙汰がなくなってね。周囲の人は皆,谷から落ちたとか,魔獣に殺されたとか言ってたわ。私もそうだと思うわ。だから,貴方にも同じ目にあわないでほしいのよ」
(そんな設定……アニメにはなかった。アニメだと父親は商人で,盗賊に襲われて亡くなったはずだ)
そう思いながら,神妙に頷く。母さんの赤茶色の瞳にあるのは不安と期待だった。恐らく,旅に出ることに反対はされていない。
ただ,安全であってほしいだけだ。
なら僕の言葉で説得できるだろう。
「……大丈夫。僕は母さんを悲しませることはしない。それに,僕は既に仲間がいるし,これからも仲間を作っていく。 定期的に手紙も出す。 だから,お願いします!」
僕がそう言って頭を下げると,母さんは少し驚いたように目を瞬いたあと,嬉しそうに笑みを浮かべた。
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