プロローグ
はじめまして。冬桜美狐です。おそらく完結までの道程は遠いですが,よろしくお願いいたします。
だいたい一ヶ月に1回ほどのペースで投稿していきます。
「おかえりなさいませ,光留様」
僕は側近の橋本洋に迎えられて,苦笑する。
「僕はそんな御大層な人じゃないっていつも言ってるでしょ? 様なんて兄上のような人のことを言うんだよ」
僕は鳩羽光留。12歳。日本有数の巨大財閥の次男だ。
鳩羽財閥は募金活動や孤児の教育機関設立などを行う財閥で,庶民からの人気が高い財閥だ。
けれど,それはただの表の顔でしかない。
この財閥は,裏社会のトップを他財閥と争うれっきとした犯罪組織だ。
その頭領は僕の父,鳩羽影彦。裏社会におけるこの財閥の地位を大幅に上げたのが彼だ。
そして次期頭領は僕の3つ上の兄,鳩羽哲彦。彼は穏やかな口調や見た目とは裏腹に,計算高く人を貶めることを得意としている父親によく似た人物だ。
この財閥を継げることを何よりの誇りとしている。見た目通り穏やかでのんびりとしている僕はよく比べられた。
「そのように謙遜をするから哲彦様や影彦様に侮られるのですよ。私は貴方様が耀子様の二の舞いとなるのでないかと不安で仕方がないのです」
耀子は僕の母親だ。鳩羽財閥と同盟を結ぶ犯罪組織尾崎財閥の令嬢。
けれど裏社会には似合わない穏やかな雰囲気が邪魔だと判断され,2年前始末された。
橋本曰く僕は母親と雰囲気がよく似ているらしい。
「まぁ,それは別に……ありえないことでもないけど」
(……最近ここの構成員っぽい男が,学校の門の近くで見張ってたっていうのは言わないほうがいいかな?)
僕はそう判断して曖昧に笑みを浮かべた。けれど僕の考えは読まれていたようだ。
「どうやら心当たりがあるようですね? 隠し事は無しですよ。場合によってはこちらも対策をしなくては」
「対策って……常に父上に監視されてるこの場で何ができるの? 無駄だよ」
この会話もおそらく父に聞かれているのだ。細い機械音が絶えず響く部屋を見回して溜息をつく。
「存じておりますよ。存じておりますけれど……」
最後まで言い切ることはできなかった。彼は静かに息絶えた。
「あちゃぁ。もう来てたのかぁ」
窓の隙間から細い筒状の物体が覗いている。そこから,黒に近い紫色の液体が漏れているのが見えた。
科学部門の構成員代表の四十万早紀が発明した新型の毒だ。確か相手の皮膚に触れた瞬間に相手の意識を奪い,3秒後にその命を奪う速攻型の毒。
「僕,毒殺は苦手なんだけどなぁ」
こうなることはわかっていた。
でもせめて母と同じように銃殺してほしい。長年裏社会で生活してきたためか,死の間際に思うことがおかしい。
すると,窓に映る影は無言で毒をしまい,小さめの銃を出した。銃殺してくれるようだ。
「……でも最後にあのアニメの最新話見たかったなぁ」
何故か蘇ったのは4年前ハマっていたアニメ。
あれは作者が活動を停止したため長いこと休んでいた。けれど最近最新話が出たらしい。
今度見逃し配信か何かで見ようと思っていたのに。残__
そこで僕の思考は途切れた。
最後までご覧いただきありがとうございます。