第1話<私。或いは明日の嚮導者。>
「*それで、なんで博士はここに居座ることにしたんですか?」
「うん、いい質問だ。」
「*褒めの言葉は要らんのでさっさと理由を教えやがれ下さい。」
「うーん……プログラミングしたのは私だけどなんでこんなに口が悪いのかな?」
「*それで、何故です?」
「そうだね。強いて言うなら『好奇心』、かな?」
「*はぁ……」
「……」
「*そろそろ空気ボンベの在庫も少なくなってきてるのに、大丈夫なんですか?」
「あら、心配してくれてるのかい?ありがとう。」
「*あんた様がどうなってもワタシには特に影響ないですが……」
「……」
遂に地球では空気ボンベが無いとまともに呼吸が出来なくなった。
塩漬けにされた地面は一見雪景色のようで綺麗だが、その中にはしょっぱい空気と人類の残滓だけが蔓延っている。
「最近空気ボンベの値段が高くて家計がピンチなんだよねぇ……」
「*家計もなにも、最早家に物がほとんどない気がするんですけど。」
「だって話し相手が出来たからもう要らないかなって……」
「*こわ。この部屋には博士とワタシしか居ない筈ですけど。」
「あらやだ、照れてるの?可愛いね。」
「*キm……失礼。大変そうですね。」
「そういう反応が1番辛かったりするんだよなぁ……」
「*……」
「ねぇ」
「*はい」
「明日買い物に行かない?」
「*……どこに」
「内緒だけどキミの好きな海藻を買ってあげるよ?どう?」
「*わ、悪い話じゃないですね……」
「でしょ」
「*だが断る」
これはそんな世界での物語。
これはそんな世界で生きる一人の物語。
塩漬けにされた孤独の物語。