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魔王の物語

 時は少し遡り。


 私ニルナは、海岸近くに建っている砦につきました。


 こんな国の真ん中に昔の砦がある理由。

 ここが昔の国境で、小さな国が占領されたということに他なりません。


「この国は昔から……他国を占領して……」


 依頼書によると、私の国民は、ここにアジトを構えているとのこと。

 一から建物を構えるよりは、楽なので理にかなっています。


ガシャーン。


 私は、錆び付いて開かなくなっている門を無理やり壊しながら、入ります。


 どうせすぐ出て行きますし、目玉って誰か来てくれることを期待しています。


「誰かいませんか?」


 私は、気配を確認しながら、進んでいきます。

 

 少し進むと、死体が置いてある部屋がありました。

 金髪銀髪が多く、サンヴァーラの国民だと思われます。

 

「ああ、こんな小さな子供が」


 一番最悪の死に方……餓死です。

 筋肉は、ほとんどなくなり、ガスがたまっているのかお腹だけがぼっこり膨れていました。

 まだ腐りきっていないということは、それほど前ではないのでしょう。


「もう少し早く助けに来れたら……」


 近くに小さな魚の骨も転がっています。

 狩りよりも、簡単な釣りで食を繋いでいたようですが、限界があったようです。


「苦しかったですね。すみません。私が不甲斐ないばっかりに」


 他にも沢山の遺体が、埋葬もまともにされずに、放置されていました。


 世の中は無常です。

 守らなくてはいけないものから、死んでいきます。

 まずは子供、老人、それから負傷した者……。

 圧倒的に多いのは、負傷した人です。

 こんな場所です。

 碌に治療もできなかったのでしょう。


「冒険者のような人もいますね。サンヴァ―ラ国民ではないようですが」


 どうやら、冒険者に拠点を襲われたのでしょう。

 応戦し対応したようでした。


 私は、持っていた依頼書を握りつぶします。

 依頼書の内容は、討伐です。

 子供達は、殺さないようになんていう注意書きなどは見当たりません。


「本当に酷い」


 生きた人もまだいるでしょうか。

 私が歩いていると、酒の匂いがしてきました。


 それと、血の臭い。


 私は、急いで臭いのする広場に向かいました。

 広場には、沢山の人が殺されていました。

 明らかに奇襲です。

 

 殺されていた男の手には、娘の写真と思われるものが握りしめられていました。

 写真の娘は、餓死で死んでいた娘のように思えました。


 近くには酒が転がっています。

 宴会している最中に襲われたようです。

 

「なんて酷い。誰がこんなことを」


 斬り方が悪く、随分苦しんで死んでいる死体もありました。

 

 私は、死体に触れて確認します。


「まだ体が温かい。殺されたのは今しがたですか」


 まだ助けられる人が、いるかもしれません。

 私は、涙が出そうになるのをこらえながら、生きてる人を探しました。


 折り重なる死体をどけながら、探します。


「ニルナ様?」


 か細い声が聞こえてきました。


「はい。ニルナです」


 私は返事をしながら、声のする方に行き、男の人を抱き起しました。


「ど、どうしてこんなところに」


「助けに来たに決まっているじゃないですか」


「私たちを……ですか」


 血まみれの顔から涙が流れていました。


「当たり前です。今、止血します」


「もう私は、長くはないので、ニルナ様聞いてもらえますか」


 見れば、分かります。

 流れ出ている血の量から、今にでも死んでしまいそうなことぐらいすぐわかりました。

 私は気丈をふるまいながら、返事をします。


「はい」


「私たちは、サンヴァーラのアンデットパニックから逃れる為、ストークムスを訪れました。すむ場所もなかったので、ここを拠点にしました。ですが、近くの村に、援助をお願いしにいきましたが、断られました。……それどころか奴らは、私たちを国に討伐を依頼しました」


「なんて酷い……」


「冒険者を含め、村の連中と戦いました」


「それでどうなったのですか」


「私たちが、勝ってしまった」


 男の人は悲しそうに言いました。

 まるで勝ったことが悪いことのように。


「お頭……村長が、子供達だけは殺すなと、指示していたので、この砦の牢屋に保護しています」


 子供に罪はない。

 それに、子供を失った悲しみを抱えた彼らにとって、子供まで殺せるほど、残酷にはなれなかったのだと思います。

 足元に転がっているのは、酒瓶ばかり、食料は最低限しか手を付けていないようでした。

 

 これ以上手に入るかわからない食料は最低限で食いつないでいたようですが、酒は我慢できなかったのでしょう。

 多分、悲しみを紛らわせるために。


「子供たちを逃がしてもらえますか」

 

「わかりました。なにも知らない振りして他の町まで逃がします」


「ありがとうございます」


「ですが、あなた達も国に帰りましょう」


 ながくはない。

 それが分かっていながらも私はそんなことを言っていました。

  

「私たちは、もうニルナ様に顔向けできません。国に泥を塗る訳には……」


 盗賊に身をやつしたことを言っているのでしょう。

 

「そんなの関係ありません。あなたたちは私の国民です。私がなにがなんでも守ります」


 例え他の国全てから揶揄されようとも、国民を守るのが、王の責務です。

 死んでしまったお兄様も、いつもそう言っていました。


「ありがとうございます。最後に、ニルナ様にあえて良かった……」


 それだけ言うと男は、糸が切れたように力をなくしてしまいました。

 もう命の灯火が感じられません。

 少しだけ満足気な顔をしていました。


「うっくっ」


 勝手に嗚咽がこぼれてきてしまします。

 男を地面に優しく寝かせると、瞼をしっかり閉じてあげました。


「すみません」 

 

 埋葬してあげる余裕はありません。

 彼の願いを叶えてあげることの方が大切です。


「子供達を探さないと」

 

 遠くから、岩が砕けるような音が聞こえてきました。


「まだ戦いの音が……」


 二種類の魔力を感じました。

 片方は、私と同じ『ラグナロク』もう一つはよくわかりません。

 感じたことのない魔力です。


「彼らをこんな目に合わせた者は、何者であろうと許しはしません」


 私は、聖剣を構えると、魔力の感じた方に向かって駆け出しました。

 戦いの場にたどり着いたとき、目の中に飛び込んできたのは。


 村長が、勇者に剣で心臓を貫かれるところでした。


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