表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

勇者の物語

 僕は、ストークムスに任命された勇者セカル。

 任命を受けて初めてたどり着いた辺境の町は、ボロボロになっていた。

 焼け焦げ崩れた家々からは、未だに煙が上がっている。

 石畳の道は亀裂が入り、建物の壁は崩れ、その残骸が道路を埋め尽くしていた。


 そして、捨てられているように転がっている沢山の死体。

 男も女も老人も等しく殺されていた。

 中には、獣に噛みつかれたような残酷に死体もあった。


 この悲惨な光景を目の当たりにした僕の心の奥底では激しい怒りと哀しみが渦巻いていた。


 死体の中には、子供の姿はない。

 きっと、金になるからと連れ去られてしまったに違いない。

 

 依頼書を見ながら、つぶやく。


「なんてひどい奴らなんだ」

 

 サンヴァーラからやってきた彼らは、善良な町の人々を殺し、食料を奪い、子供たちを攫うの悪行三昧を行って、さらには町を壊滅させた極悪人達。

 

「子供たちを助け、盗賊団を必ず倒しましょうね」


 一緒に旅をしているストークムスの姫リリサの言葉に頷く。

 盗賊団を討伐するため、依頼書に書いてあるアジトの場所へと向かう。


「奴らが根城にしているのは、あの砦か」


 大昔、この辺りが国境線だったころ建てられた砦だ。

 時が経つにつれて荒れ果て、忘れ去られそうになったところを奴らに利用されてしまった。

 

 気配を読まれないようにしながら、慎重に歩を進める。

 盗賊たちがたむろしている広場のような場所を見つけると、聞き耳を立てた。


 中の盗賊の連中は、小さめの宴を上げていた。

 盗賊達の足元には、多数の酒瓶が転がっている。この国の銘柄の酒だ。


 奪ったに違いない。

 

「ああ、酒がたりねぇな」


「おい。牢屋の子供には食料持って行ったのか」


「ああ、お頭が持って行ったぞ」


 なるほど、子供たちは牢屋に入れられているのか。

 それだけ分かればいい。


 僕は、飛び出すと剣を構える。


「町を荒らす者どもよ!僕が成敗してやる!」


 力強く宣言した。


「なんだ、お前は? やるのか」


 男達は、僕の姿を見ると、剣などの武器を構える。

  

 ただ一様に酔っていて、足元がふらついている。


 これなら!


 僕は、間合いに飛び込むと、剣を振るった。


 敵の腕を切り飛ばし、急所を突いていく。


「こいつ!」


 他の男のの攻撃をかわし、キレのある剣技で応戦した。

 剣が空気を裂き、火花を散らしながら、敵の動きをいなし、確実に敵を葬っていく。


「お頭に連絡しろ!」


 誰かが叫ぶように言った。


「わかった」


 男が一人、逃げるように駆けだした。


「勇者逃げます!」


 姫からの声に、敵が逃げる方向を確認した。


「すぐ追いかける。」


 叫んだ男を斬りつけて、慌てて追いかける。

 僕は、急いで姫と共に追いかけた。

 ようやく追いついて、男を背中から切り伏せた。


「ぎゃああああ」


 男が、壮絶な叫び声をあげて倒れる。

 僕の傍に、大きな斧が飛んできたのを、慌てて避ける。

 大男が、斬りつけた男を抱き起していた。

 

「おい。しっかりしろ」


「お頭すまねぇ。敵が……」


 男は、それだけ言うと、絶命していた。

 髭面の大男は、ギラつく瞳で僕をにらんでいた。

 

「許さねぇ。俺の仲間達を」


 僕は男から感じる只者ではない気配に、剣を握りしめて気を引き締めなおす。

 そして、負けずに睨め付けると言った。

 

「許さないのは、こっちだ。お前たちの悪事はここまでだ!」


 僕の胸には、盗賊たちを倒して、平和を取り戻すための決意が満ちている。


「殺してやる!」


 盗賊のお頭はそういうと、斧をかかげた。


魔力解放『破滅の大狼(ラグナロク)』 


 野獣のように獰猛な魔力が迸った。

 目の色が異様に赤く輝いていた。


「魔力か」


 勇者クラスまではいかないにしろ、一般人が持つにしては、相当強力。

 盗賊のお頭は、そのまま斧に魔力を注ぎ込む。 


魔斧変形「大狼の牙(フェンリルファング)


 魔力を流し込みながら、変形も終わってないのに、そのまま突っ込んできた。

 僕は、盗賊の斧を受けようとして。 


「勇者離れて!」


 僕は、姫の言葉で、その場を飛び退く。


 刃が通り過ぎると、お頭は、勢い余って石の壁に突っ込んでいく。

 そのままぶつかると思われたが。


ギュルルルルルルルルルル。

ドガガガガガガガガガガガ。


 崩れたのは、壁の方だった。

 

 盗賊のお頭が持っていた斧は、剣に姿を変えていた。

 しかも、普通の剣じゃない。

 刃が細かく割れて、両刃の鋸のような形状だった。


 壁を砕いたことで、小さな刃はこぼれていたが。


 再構築(リメイク)


 こぼれた刃は魔力を注ぐと、一瞬で元に戻った。


「なんだ。あの剣は……」


 恐ろしく攻撃な剣だった。

 姫の声がなければ、間違いなくやられていた。


「あれは、サンヴァーラ特有の物理特化形態です」


「ちっ。知ってやがったのか」


 盗賊は吐き捨てるように言った。


「こいつはな。伝説の海賊王が最も使ったとされる剣と同じ形状なんだよ」


 魔力を注ぐと、ギュルルルルと刃が恐ろしい勢いで回転する。


「剣を一度受けたら、並みの剣や鎧なら、そのまま砕いちまう。お前の持つ剣ごと、ぶっ殺してやる」


 刃は、まるで、獰猛な野獣の牙のようで。

 町で殺されていた人たちを思い出した。 


「それで、町の人々を殺したというのか」


「だったら、どうだっていうんだよ」


「勇者として、僕が倒す」


「勇者なんか、ただの国の犬だろうがよ」


「見せてやる。僕の力を」


魔力解放『混沌(カオス)


 原初の始まりを告げるような魔力が僕から放たれた。


「そんな魔力がどうした!」


 盗賊は魔力を高めると、さらに回転速度をあげた。


 僕の魔力を受けて、聖剣が形を変えていく。


聖剣変形「時の神(クロノスソード)


 軋むように、剣が姿を変えていくと、細長い、時計の針のようになった。


「そんな細い剣で、受け止められるかよ」

  

 男が、剣の刃を唸るように踏み込んできた。


 そのタイミングで、僕は、剣に魔力を注ぐ。


魔法効果『時の牢獄』


 カーン。


 鐘の鳴るような音と共に、世界が停止する。

 すべてが静寂に包まれ、固定されたような光景が広がった。

 宙舞う砂煙も、雲の流れも、なにもかも閉ざした氷の中のように、動かなくなっていた。


 その中で、僕は一人取り残されたように、動く。


 僕は、動きの止まった頭領の心臓に向かって、ゆっくり剣を突き刺した。


 カーン。


 盗賊のお頭は、何が起こったかわからないといった顔で、自分の胸に突き刺さっていた剣を見る。


「くそぉ……」


 そのままお頭は僕の剣を刺したまま膝から崩れ落ちる。

  

「勇者やりましたか?」


 盗賊のお頭は無念を顔に張り付けたまま、死んでいた。


「はい。どうにか勝てました」


 ギリギリの戦いだった。

 それでも、僕の反則級に強い僕の魔法の前には、どんな敵も無力だ。


「それにしても」


 自分の力に、空恐ろしいものを感じる。

 使い方を間違えるわけにはいかない。

 強い力は正しく使わないといけない。


 僕は、ようやく一息ついた。


「ようやくこの地にも平和が」 


 あとは、子供たちを助けるだけだ。


 僕がそう思いながら、盗賊のお頭から剣を引き抜いたその時。


「よくも私の国民を殺しましたね」


 背後から、声がかけられ慌てて振り向いた。

 立っていたのは、聖剣を構えた金髪の美女だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ