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ギルドで依頼


 私はラニーラ。

 元冒険者。

 ようやく念願のギルド職員に転職できました。

 

「良かった戦争が始まる前に、転職できて」


 こんなご時世、冒険者なんて続けていたら、戦争に引っ張り出されることでしょう。


「ここなら、戦場から遠いですし、よっぽどのことがないかぎり、巻き込まれることはないわ」


 研修を経て、今日から正式に窓口業務。


 緊張する。


 まず、最初のお客さんは……。


 真紅の鎧を着た、金髪の美女が一番前に座っていた。


 うわぁ。綺麗。

 美貌だけで世の中渡っていけそう。


 見た目だけで、どこぞの貴族としかいいようのない人。 

 自分も知り合いの冒険者に言い寄られるぐらいには、それなりに美人だと思っていたが、少し自信を無くしそうだ。


 今は、ギルド職員。

 全体で見れば、自分は勝ち組に違いない。


 さあ、お仕事頑張ろう。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


「すみません。初めてギルド利用するんですけどよろしいですか?」


「はい。もちろん」


 初めてということは、登録だろう。

 戦争でなにかしらあって致し方なく、冒険者登録ということなのかもしれない。


 マニュアルを見ながら、質問をする。


「登録ですね。まずはジョブ教えてもらっても良いですか?」


「魔王です」


 まおう?

 『まおう』というジョブはマニュアルにはない。兼業で冒険者になろうとしているのかもしれない。


「すみません。本業ではなく、戦闘職をお願いします」


「なら剣士でお願いします」


 剣士と……。

 見ると確かに、腰に煌びやかな剣をつけている。とても扱いきれるとは思えないほどゴツい。


 あんなに白く綺麗な細腕で振り回せるのだろうか。


 疑問は抱いたが、剣を持っているのだから、剣士で間違いはなさそう。

 私は、そのまま記入した。

 

「次にお名前お願いします」


「ニルナ・サンヴァーラです」


 私は、冒険者登録カードに名前を記入する。


 んんん?

 あれ? 変だな。

 どうして、敵国の名前と名字が同じなんだろう?

 国の名前が王族の名字になっていることが多い。

 確か、サンヴァーラもそうだったような?


 ま、まあ、そんな偶然もあるよね?


 とりあえず、冒険者登録カードに内容を記入していく。


「どこの出身になりますか」


「サンヴァーラ王都です」


 王都?


「ちなみに王都のどちらに住んでいますか?」


「城に住んでいます」


 城に住んでいる?

 そんなの王族しか……。

 そういえば、最初に聞いた職業の名前は確か……。


『ま……』


 私は首を振る。

 思い出し……たくない。


 気のせい。

 私は、忘れた。


 住所はカードにそこまで詳しく書く必要はないため出身国サンヴァーラと書いた。


 ストークムス以外の人間には訪問理由も確認する事とマニュアルには書いてある。


「ど、どういったご用件でわが国を訪問されているのですか」


「侵略ですね」


『しんりゃく』?

 んーん、全然どういった漢字を書くかわからない。

 正確には、一つだけ思い当たる感じがあるが、気のせいだと信じたい。


 だって、そんな言葉、『観光』や『仕事』と同じぐらいの口調でいうわけない。


 これはあくまで確認だけで、記載の必要はないので、私は、意識のそとに投げ捨てた。

 

「依頼の受領方法ですが、掲示板から、依頼の紙をとってこちらに持ってきてください。依頼の掲示板ってご覧になりましたか?」


「ああ、私の討伐依頼がたくさん貼ってありましたね」


 うん。

 この人、『私の』討伐依頼って言いましたよ。


 さすがにそろそろ聞き間違いというのも辛くなってきた。


「私は依頼を受けたいのではなく、依頼したいのですが」


「であれば何か身分証明となるものありますか」


「はい。これで良いですか? サンヴァーラ王族の証です」


 サンヴァーラの王族のマークが描かれたコインを見せられます。


 ああ、もう気のせいで、済ますわけにはいかなくなった。


 ただ詐欺師の可能性は捨てきれない。


 魔王討伐依頼書の人相書きを確認する。


 金色の髪。

 紫色の瞳。

 真紅の鎧。

 装飾剣。

 そして、鎧に刻まれている太陽と月をあわせたような紋様。


 間違いがどこかにないか何度も見直すが、すべて一致している。


 嘘でしょう。

 本当に魔王!?


 なんでこんな片田舎のギルドにラスボスがいるの!?

 普通、魔王って城でふんぞり返って、勇者待ってるものじゃないの!?


 有り得ない、有り得ない、有り得ない。


 ま、ま、まだ書類の方が間違っているという可能性も。


 第三者が魔王と認めないかぎり。

 確信があるとは言えない。


 そう思っていると、大量の冒険者達がドカドカとギルドにのりこんできました。


 各々武器を構えながら、叫びます。


「見つけたぞ! 魔王」

「いたぞ。魔王だ!」

「観念しろ!」

「冒険者の振りをしやがって」


 あああ、第三者が魔王だと認めました。

 もう言い逃れできません。


 魔王と言われた女は眉をひそめます。


「なんの話ですか。冒険者の振りなんてしてません」


 そうですね。一言目から、魔王だって名乗ってましたね。

 ものすごく目立つ格好をしていて、変装とかも一切していません。


「私は魔王ニルナ・サンヴァーラ。逃げも隠れもしていません!」


 あああ、名乗りの口上まで聞いてしまった。


「ちょっと、横やりやめてください。私こういう手続き苦手なので集中したいんですよ」


 横やりとかそういう次元なんだろうか。


「すみません。お姉さん、ちょっと中断しますね」


 ああ、なんだろう。

 そんなところだけ、礼儀正しくされても困る。


 魔王は、すくっと立ち上がると、冒険者達に向きを変える。


魔力解放『創生(グニルズ・ブルースト)


 世界の始まりを告げるような色鮮やかな魔力が放たれる。

 明らかに一般人とは違う圧倒的な魔力があたりに広がります。


聖剣変形「雷神の鉄槌(ミョルニル)


 装飾剣に埋め込まれたエンブレムが黄色に光り輝きます。

 剣は、音を立てながら形を変えていくと、大きなハンマーになりました。


魔力解放『秩序宇宙(コスモス)


 無限に広がり続ける星の輝きに満ちたような魔力が放たれます。

 魔力が流し込まれたハンマーから火花のような黄色い稲妻が放たれました。


「ぎゃああああああああああ」


 冒険者達は、突然放たれた雷の属性魔法に黒こげになりながら倒れていきます。


 ピクピク動いているところを見ると、生きているようです。かろうじてですが……。

 

「まったくもう。失礼ですね。ここが中立のギルドないでなければ、全員血祭りにするところでしたよ」


 もう完全にセリフが魔王です。


「お待たせしました。続きお願いします」


 何事もなかったように目の前に座ります。

 

 嘘でしょう。

 このまま続けるの!?


 私は、助けを求めて、他のギルド職員を探しました。


 あああ、みんないない!


 昨日まで、親切に仕事を教えてくれた先輩達は、私を置いて逃げ出していました。


 私も逃げ出したい!


「すみません。お客様、少しトイレに行ってもいいでしょうか」


「はい、じゃあ、その間にそこの人たち外に出して、トドメ刺しておきますね」


 ああ、この人、ギルドの外なら殺していいと思っていらっしゃる。ナチュラルに人質にとられた。


「やっぱりあとにします」


「そうですか。でしたら、依頼内容ですが」


 ろくでもない依頼だと思われるので、なんとか断る方法を思案する。

 

「あのー今は、国からの依頼以外受け付けてなくて」


「えーと、じゃあ、サンヴァーラからの依頼ということにしてもらえますか」


 ああ、この人は魔王。

 つまりは一国の王です。


「そうではなくて」


 私がそれでも、断ろうとすると、優しげだった雰囲気が一気に変わりました。

 

「もしかしてギルドも、ストークムス直営になったとかではありませんよね?」


 澄んでいるのに、魂の芯まで底冷えするような声。

 なんだか目の色が、赤くなってきた気がします。

 魔力量が膨大な人は、魔力の影響によって目の色が変わるとか、いう噂です。


 明らかに、怒っている!


「ま、まさか……そんなことは」


 私が、ギルドに転職したのは、国の直営に方針が変わったからです。

 よっぽどのことがなければ安心だと思いました。

 よっぽどのこと――魔王がギルドを訪問するようなことがなければ……。


 私は、ギルド手帳を見ました。

 新しい物はまだ準備中の為、古いものには以前の規律がのっていました。


『ギルドはどの国に対しても、中立を保つこと』


 私は、魔王にその文を見せました。

 目の色が元の紫色に戻ります。


「ああ、ですよね。良かった。ギルド設営当初から、サンヴァーラは出資してますし、方針変わっていたらどうしようかと思っていました」


 私は、冷や汗をふきながら、止まりそうだった心臓を頑張って動かします。


「ですが、もし仮にギルドが、ストークムス直営になっていた場合所属の職員はどうなりますか」


「直営なら、ただの兵隊の組織と変わらないので、控えめに言って」


「控えめに言って?」


「皆殺しですね」


 ですよねー(泣)


 相手は本物の魔王。

 慈悲など期待した私が馬鹿でした。


「本当にそうだったら、今後見つけたギルドは建屋ごと跡形もなく消し飛ばします」


 消し飛ばすの!?

 建物を!?

 ストークムスにあるギルドすべて!?


 でも、さっきのハンマーなら確実に消し飛びそうでした。


「実は、今日初めてと言いましたが昨日も他の町のギルド訪問したのですが、まともに相手してもらえなかったんですよ」


「そ、そうなんですか」


「でもよかったです。もう我慢の限界でしたので、今日も相手してもらえなかったら、町ごと吹き飛ばすところでした」


 ギルドの建物だけでなく、町の存続が私の言葉一つでなくなってしまう!?

 どんな強い冒険者でも、町を吹き飛ばすなんて聞いたことがありません。


「ま、まるで吹き飛ばした町があるみたいですね」


「まだこれでも一カ所だけなんですよね」


 魔王は恥ずかしそうに言います。

 一カ所でもあれば、十分です。


「ちなみにどこですか?」


「アステーリ王都です」


 それは、町ではなくて、国なのでは!?


 よく考えると、そうでした。

 アステーリは、元々ストークムスの支配下にありました。

 サンヴァーラに攻めいるように指示を出したら、たちどころに魔王に征服されたので、全面戦争になっているのです。


 魔王は上機嫌に依頼の内容を話し始めました。


「依頼の内容はですね。この国に滞在しているサンヴァーラ国民を私の国まで護衛する事です」


 この国に滞在している?

 私は、嫌な予感がして、他の依頼内容を確認しました。


「もしかして、最近馬車を襲ったサンヴァーラ盗賊団ではありませんか」


「多分、その人たちですね」


 国指定の犯罪者軍団です。


 そんな人たちの護衛任務などをうければ、犯罪者の仲間入り。

 そんな依頼を受けてくれる人がいるわけありません。


 つまり、詰み。

 終わった私の人生。


 ……。

 

 落ち着け私。

 まだ殺されたわけではない。

 回答を間違えなければ生き残る道はある。


「なんとか依頼を受けてくれる人に心当たりがあります」


 手を合わせて喜ぶ魔王。

 

「そうですよね。わぁ、良かった。依頼受けてくださる方いますよね。私が依頼するのは護衛の仕事です。不可能な私の討伐なんかするより確実にお金入りますから!」


「もちろん。もちろんです。一人は確実に心当たりがあります」


「その方はどこにいますか」


 女は度胸。

 戦争をしている国で、安泰な暮らしを夢見る方が馬鹿でした。

 目の前の魔王を見て、どちらについた方が得策かなんて一目瞭然です。


 私は、心の中でギルドに辞表を出し、冒険者の矜持を取り戻しました。

 そして、魔王の前に跪きます。


「冒険者ラニーラ謹んで、依頼お受けします」


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