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隠れ家

 クーカ村民たちの隠れ家は、自然の木々で囲まれたただの洞穴でした。

 草木で隠されていた入口を開けると、びくりと体を震わせていた女子供が沢山いました。

 村長たちの顔を見ると、ほっと安堵の吐息をもらしました。


「よかった。あなた無事で」


 私と同じ金髪の女の人が、村長に駆け寄ってきました。

 多分、奥さんでしょう。歳の割にすらっとした綺麗な人でした。


「ああ、ニルナ様に助けていただいた」


 紹介されたので私は王族らしく綺麗にカーテシーで一礼してみせます。


「ニルナ様? 王女の」


「はい。そうですよ。今は女王、さらにランクアップして魔王です」


「えええぇ。ど、どういうことですか」


 なんだか、ドン引きされています。

 変ですね。本当のことを言っただけなのに。

 祖先にも魔王がいるので、特におかしいことはないはずです。


「魔王と言われているが、強くなられたこと以外、昔と変わらない」


「あれが欲しい。これが欲しい。あれが食べたい。これが食べたいと永遠と言われていた頃のことですか?」


 昔の私どれだけ我儘だったのですかね?

 他の場所でも同じようなことばかり言われます。


「ドレスを思いっきり汚されて、国王様に怒られていました」


 私は、自分のドレスのような鎧を見ます。

 敵の返り血だらけです。

 確かに、昔だったら、怒られていたかもしれません。


「ははは、確かに昔と変わらないかもしれません」


 私は、笑ってごまかしました。

 

「それに、迷子になった我が子を一緒に探してくださいましたね」


 八歳ぐらいの女の子が一人出てきました。

 

「あの時の、大きくなったんですね」


 村長夫妻は王族のおもてなしをしてくれたのですが、目を離したすきに娘さんが迷子になってしまいました。

 私は責任を感じて、一生懸命に探した覚えがあります。

 河原で泣いていた女の子が、今では大きく成長していました。


「今度は、こんなところまで、私たちを探しに来てくださったんですね」


 村長の奥さんは泣き出しました。

 

 見つかってよかった。

 心の底から、本当にそう思うのでした。


 ◇ ◇ ◇

 

「何はともあれ、まずは腹ごしらえからですね」

 

 ストークムスの民にずっと追い立てられていたのでしょう。

 みんな疲れ切った顔をしています。

 方針を決めるためにも、お腹を膨らませる必要があります。

 できることなら、おいしいものがいい。

 

 馬車から盗んだ食べ物は、保存のできる物ばかり。少々味気ないです。


「ちょっと待っててくださいね」


「どこに行くんですか」


「狩りしてきますね」


 私は、隠れ家を飛び出すと、近くに生えていた高い木に、脚力だけで登り観察します。

 ちょっと聞き耳をたてるだけで、動物たちの鳴き声や鳥たちの綺麗な歌声が聞こえてきます。

 

「獲物は沢山いますね。どれにしましょうか?」


 できるだけ、一匹でみんなの胃袋を満たせるような大物をさがします。


 私は、足跡を見つけました。

 集中力をあげて、足跡を追っていきます。

 

 大猪です。


「あいつにしましょう」


 私は、木から飛び降りながら、魔力を聖剣に込めます。


聖剣変形「運命の剣(ウィ―ザルソード)


 着地する瞬間、強く踏み込みました。

 大地を飛ぶように駆けていきます。


 イノシシがこちらに気付いて、顔をあげた瞬間、素早く一閃しました。


 飛んでいった頭を空中でキャッチして、近くの木にひっかけます。

 足の食べられない部分を切り飛ばします。

 足で胴体を蹴り上げて、食べてもおいしくない部分の内臓を切り外しました。

 ひゅんと血ぶりして、納刀します。


「よっと」


 背中で受け止めて、猪を担ぎます。

 ひっかけておいた頭を握って、隠れ家に向かいます。


 さっきまで生きていたとは思えないほど、ずっしりとした命の重さを感じます。

 ただ、人すら殺す私にとっては軽いものです。


「さあ、あなたも私の国民の糧になってもらいますね」


 洞窟に戻ると、みんな料理の準備をしていました。

 私が担いでいる猪を見ると、大きな声をあげて驚きます。


「さて、料理しましょうか」


「ニルナ様、料理までしていただかなくても」


 村長の奥さんが遠慮して言います。


「大丈夫ですよ。私は料理も得意です」


 私は、腕まくりをして、包丁をうけとりました。

 包丁に魔力を込めながら、近くの木を切り倒します。


「ええええ、料理をするのでは?」


「まずは、道具からですね」


 切り倒した木から、まな板や皿、串を切り出します。

 魔力をといて、切れ味を普通にもどしてから、猪をバラバラにします。

 余分な脂肪や膜は除去しながら、食べやすいおおきさに切り刻んでいきます。

 特に子供に分け与える分については、嚙み切りやすいように、筋に細い切れこみをいれていきます。

 綺麗にスライスできたものを、先程作った木の皿に盛っていきます。


「どんな速さですか」


 みるみるうちに、お肉の山ができていきます。


「ふふふ、私に刃物を使わせれば世界一ですよ」


 私は、包丁を置いて、聖剣を抜きました。


聖剣変形「炎の巨人の大剣(スルトソード)


 フレイソードに変形させた聖剣にさらに魔力を注いで、属性魔法を発生させます。

 辺り一面焼き尽くすほどの威力が出ますが、料理なので、ものすごく弱火です。

 聖剣を地面に突き立てて、その周りに串で刺したお肉を突き刺していきます。


「これが聖剣の魔法ですか」


「はい。そうですよ」


 聖剣は武器ではありますが、使い方を考えればいろんなことができます。

 最後に、商人の荷の中にあった塩コショウをかけて、完成です。

 焼き具合といい、脂ののりかたといい、完璧ではないでしょうか。

 

 ジューシーな匂いにつられて、やってきた子供たちに、お肉をふるまいました。


「お姉ちゃん、ありがとう」


「どういたしまして」


 子供たちは、おいしそうに食べてくれています。

 ですが、お腹がすいているわりに、あまり進んでいないようです。


 男の子が一人、私に近づいてきて、質問してきました。


「どうして、僕たちのこと助けてくれるの?」


 彼らの村を訪問したのは、五年前なので、小さな子供は私のことを知らないようです。


 ならば、王らしく威厳を見せる必要があります。


「えっへん。実は私サンヴァーラで一番偉いんです!」


 私は、胸をそらして偉そうに叫びました。


「嘘だぁ」

「そんなわけないじゃん」

「信じられない」


 子供たちは、疑いの目を私に向けてきます。


「ふふふ、信じないならそれでもいいですよ。ですが、実はみんなのお父さんやお母さんは私にお金や特産物を治めているんですよ」


「そうなの?」


 村長の奥さんが、頷いて見せます。


「私は王様なので、それで毎日贅沢三昧しています!」


「えー」

「なにそれ?」

「ずるい!」


 子供たちからブーイングがあがりました。

 一通り、文句を聞いてから、私は答えました。


「なので、いつも贅沢させてもらっているので、今日は、お礼です!」


「なーんだ。そうなんだ」


「そうですよ。お城だって、私が住んでますが、みんなが建ててくれたので、ぜーんぶみんなのものです。なにか困ったことがあれば、お城に来てくださいね」


「僕らがいってもいいの?」


「もちろんです。その代わり私もあなた達の村にいってもいいですか?」


「うん」


「私は世界一我が儘な王様です。今度あなたたちの村に行ったときはいっぱいご馳走してもらいますから!」


「任せて!」

「わかった!」

「いいよ」


「じゃあ、今日はいっぱい食べてくださいね」


「「「はーい!」」」


 子供達から、遠慮が消えました。

 みんな我先にと食べ始めます。

 子供は、こうでなくてはいけません。

 私は、お肉を切り分けながら、焼いていきます。

 もちろん自分もお腹がすいているので、食べながらです。


「ニルナ様。うちのこ達が、すみません」


 村長が、近くにきて、頭をさげました。


「全然大丈夫ですよ! 元気になって良かったですね」


 沈んでいた雰囲気がいつの間にか消えていました。

 美味しいものでお腹がいっぱいになれば、大概の不幸はたいしたことはありません。

 ようやく未来のことを考えることができます。


「さて、今後どうしましょうか?」


「明日にでも、アステーリに向けて出発しようと思います」


「そうですね。それがいいと思います。ただ私はひき返す余裕がなくて」


 軍の進行を止める為には、できるだけ早く、ストークムスの王を倒す必要があります。

 子供たちの足にあわせて引き返して、また戻っていると、どんどん軍がサンヴァーラに攻め込んでしまいます。

 

「我らは我らでなんとかします」


 村長は元気に答えてくれますが、大変不安です。

 

 というのも、今日わかりましたが、このあたりには、野生動物がそれなりにいます。

 狩猟さえできれば、食うに困ることはありません。


 本来、ここまで飢えることはなかったはずです。


 彼らは農耕の民。

 狩猟の技術がまるでないのでしょう。

 一朝一夕にスキルを身につけることはできなさそうです。

 時間があれば、私が教えてあげれればいいのですが、先を急がなくてはいけません。

 となると、他の人にお願いする必要があります。


「護衛と狩猟ができる人が必要ですね」


「ですが、ここは敵国の真ん中そんなこと引き受けてくれる人がいるとも思えませんが?」


 私は、腕を組んで考えました。


「んー頼むべき場所に、頼むことにしましょうか」

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