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盗賊たち

 私は、敵国ストークムスの商人を殺し、振り向きました。

 呆けた顔をした盗賊たちが恐ろしそうに私を見ています。

 私は、血振りをして、聖剣を納刀してから盗賊たちに声をかけました。


「大丈夫ですか?」


 私の言葉に盗賊たちの何人かが、ビクリと体を震わせました。

 目の前で全力を出してしまったので、怖がらせてしまったかもしれません。

 落ち着けるために、にっこり笑ってみせます。


「ひっ」


 今度は別の何人かが顔を引きつらせました。

 血まみれのため余計に怖がらせてしまったようです。


「私は、あなたたちの味方です」


 さらに何人かが後ずさります。

 言葉を尽くしても、なかなか伝わらないことはあります。

 私は、王都でそれを実感しています。


「はぁ」

 

 私は、ため息をつきながら、盗賊たちを観察しました。

 彼らの服装はボロボロ。どこを見ても汚れや傷だらけで、古びた布地がほつれ、色あせていました。

 多分何日も風呂にすら入れていないのでしょう。

 不快な臭いも漂ってきています。

 随分と辛い生活を長い間しいられていたようです。


 よく見ると、武器は農具か、ピッケルのような鉱山道具ばかりです。

 戦うために生きてきた者ではないことは一目瞭然。

 さらに、ほとんどのものが、やせこけています。

 食べ物すら、まともに食べていないようでした。

 

 私は自分のことを理解してもらうのは諦めて、馬車の積み荷を奪うようにうながします。

 

「さあ、多少なりはたべものがあるでしょう」


「は、はい」


 馬車を覗き込んでみると置いてある木箱からは新鮮な野菜があふれ、小麦袋が積み上げられていました。

 盗賊たちは、喜びの歓声をあげながら、積み荷を降ろしていきます。


「これで、子供たちに食べさせてあげることが……」


 盗賊たちは、手に入った食料をお互いに見せあっています。

 表情が固かった盗賊たちも、ようやく穏やかな表情をみせるようになりました。


「あのう。いいのでしょうか。こんなことをしてしまって」


 一人の盗賊が、許しを乞うように私に聞いてきました。

 まるで懺悔を聞くシスターのような気分になります。


「わかっていますよ。仕方なしにやっているのですよね」


 盗賊はむせび泣きだしました。

 やりたくてやったわけではない。

 そんなことはわかります。


 盗賊たちは、食糧を手に入れて喜んではいますが、誰も口にしていません。

 大切な人のために、最終手段として、やっていたのですから。


「では、あなたたちを家族の元まで、護衛しますね」


「あんたは一体……どうして、俺たちのような盗賊を助けて……」


 頭であるスキンヘッドの男が私に尋ねてきました。


 どうやら私のことが分かっていないようです。

 私は大きな声で言いました。


「なにを言ってるんですか。サンヴァ―ラ女王がサンヴァ―ラ国民を助けるのは当然のことですよ!」


「えっ?」

「サンヴァ―ラ?」

「その面影は」

「もしかして」


 盗賊たちは、顔を見合わせます。


 代表して、スキンヘッドの男が言いました。


「まさか、ニルナ様ですか?」


 私は、綺麗に一礼してみせます。


「そうです。お久しぶりですね。クーカ村、村長」


「私の顔を覚えて」


「ははは、そんな特徴的な顔の村長他にいませんよ」


「そうですよね。本当に大きくなられて」


 私はさきほどの馬車を見ます。

 馬車には、ストークムスの紋章が書かれていました。


 ストークムスは、サンヴァーラに宣戦布告をして、軍を派遣してきている国です。

 サンヴァーラは、一年ほどまえに起きたアンデット災害で国が疲弊し、軍もない状態です。

 そこで私は単身、乗り込んできました。


 この戦争を始めた敵国の王を倒すため。


 私の国と同じように王政をひくストークムスを止めるには、それが最善。


 私は、その道中でした。

 

「私は、軍の補給線を潰しておこうと探っていたところ、昔あったことある自国民を見つけて慌てて助けに入ったしだいです」


 私は、顔を覚えるのは得意です。

 クーカ村の村長は特徴的な顔をしています。

 訪れたのは、五年ほども前ですか、それでも良くしてもらったことを覚えています。


「ああ、本当にありがとうございました」


「それにしても、どうしてこんなところにいるんですか? あなたの村はアンデットばかりになっていたので、てっきり滅んだものだと思っていました」


 クーカ村は、ストークムスに来る途中通りかかりましたが、スケルトンやアンデットが徘徊するばかりで、生者は一人もいない廃墟になっていました。


「そうです。村に突如、アンデットが現れるようになってしまって……、王都もアンデットだらけだと聞いて、逆方向に位置するストークムスに救援を依頼したのですが、サンヴァ―ラだと伝えれば、どこに行っても話すら聞いてもらえず、石を投げつけられる始末でして、いよいよ食うにこまり盗賊に身を落とすことに……」


 昔、クーカ村を訪れた時のことを思い出します。

 鉱山があり、屈強な男の人が多く、毎日賑やかで、楽しそうな村でした。


「すみません。私が不甲斐ないばっかりに、そのようなことをさせてしまって」


「いえ、ニルナ様の所為では……」


 間違いなく私の所為でしょう。

 アンデットパニックを引き起こしたのは、私の祖先ネガイラおばあ様です。

 今彼らにそのことを伝えても、混乱させるばかりだと思い、自分の胸に秘めました。


「今、王都はどのような状態ですか?」


「王都のアンデットパニックもおさまりました。まだまだ復興中ですが、少しずつ昔の雰囲気を取り戻しつつあります」


「そうなんですね。よかった。全然通信手段がなく、どういった状態かわからずにいたので、ようやく故郷に帰ることができます」


「あなたの村のアンデット処理をしなければなりませんね。とりあえずは王都に避難……いえ、ここからならアステーリの方が近いですね。ゼノヴィアお姉様なら助けてくれるはずです」


「あ、アステーリでも我らは追われまして」


「ストークムスの息がかかってた頃にいったのですね。今は、サンヴァ―ラの属国にしました。もう大丈夫です」


 アステーリも、サンヴァ―ラに侵略してきた国です。

 国を追われたゼノヴィアお姉様を助けるために、数か月前に、私が粛清を下しました。

 今では、昔から親睦があった、ゼノヴィアお姉様が即位して女王になっています。


「状況が随分かわっているんですね」


 村長は、本当に心の底から安堵したような表情をしました。

 村を訪れたときに、見せてくれた優しい表情です。


 それに比べて……。


「本当にこの国はどういう神経をしてるのでしょうか」


 家で娘が帰りを持つと言っていた商人の亡骸をみます。

 追い詰められて語った言葉に嘘はないでしょう。


 本当にただの民間人であったなら、殺さずにおくことも考えました。


 私は盗賊たちが食料を運び出した後の、馬車の中身を確認します。

 馬車は、兵士たちの補給物質で溢れていました。

 それは、大量の人を殺す武器。

 商人が使っていた魔導具もそのうちの一つです。


「この武器で殺される敵国の人も、同じように家族が待っていると、どうして想像できないんでしょうか」


 私の国民を殺す道具を平気で運ぶ者を、許せるわけありません。


 許せませんが……クーカ村の人々が本当は盗みなんて行いたくないように、私だって、できることなら、殺さずに済ましたい。

 ほんの少しだけ、そんな弱気が顔をみせます。


 パンパン。


 私は、自分の頬を叩いて気合いをいれます。


「私は魔王です。敵国を無慈悲に滅ぼす者です」


 お互いの妥協点を探す話し合いを行う。

 そんな時期はとうに過ぎ去りました。

 話せばわかるなんて、淡い希望は捨てなければいけません。

 同情心は、悪意ある者にとっては恰好の的です。

 そんな隙を見せた瞬間に、敵に付け入られるでしょう。


 回復魔法などといった都合のいいものは、ほぼなく。

 強力な攻撃魔法ばかりが存在するこの世界では、一瞬の油断が命取りです。


「許すのは……許していいのは、一度だけでしたね」


 こちらの差し伸べた手を振りほどき、戦争を始めたのはストークムスなのですから。

 私が甘い顔をした結果が、クーカ村の人々のような不幸を生み出してしまいました。


「でも、我らは犯罪者になってしまい……」


「女王の私がいいというのですから、何も問題ありませんよ」


 住処も奪われ、食うに困ったものは、盗むしかありません。

 悪意は悪意を生むことは知っています。


「子供たちにとって、親が賊だというのは、申し訳なくて……」


「ふふふ」


 村長の言葉を私は思わず笑ってしまいました。

 

「ニルナ様?」


 世界で一番強くて、自由に宝を求めて、戦って、それでいてどんな宝よりも私のことを大切にしてくれた祖先のことを思い出しました。


「そんなの気にしませんよ」


 誰の祖先にだって、賊の一人や二人いるのが普通です。

 気にする必要はありません。


「そうでしょうか」


 それでも、落ち込んでいる村長に、私は、笑っていいました。


「私にとって、賊である祖先がいたことは心からの誇りなのですから」


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