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そんな言葉を呟いてどこか自虐的に笑い、その場所を後にしようとする。そうすると入口近くに誰かがドアに背を預けて立っていた。
そこにいたのはシルバーにワインレッドのラインの入った髪に日に焼けた褐色の肌の女性だった。
「びっくりした……。なんだ真己か。どうしたんだよ」
「なんだじゃないわよ。そんな真剣な表情…というか睨みつけるようにイエス様を見ているなんて、そんなの猛くらいだもの。また悩み事? 聞いてあげよっか?」
真己はブーツを音を鳴らしながら俺の前まで来た。身長はブーツのおかげか俺と変わらない。笑顔の似合う女。それが俺が真己に描いてる印象だ。彼女の肩に手を置いて大丈夫というように笑った。
「辛くなったらそのでかい胸でも借りるよ」
「変態」
フリルのついたワンピースの胸元を押さえながら真己も言いながら笑った。
*
「ただいまでー……」
ネオンに彩られた街をバックに俺は事務所に戻ってきた。
言葉は最後まで言えなかった。
そこには無精ひげを生やし、髪もぼさぼさ。そんなスーツ姿の男性がソファに腰かけていたからだ。対面しているのは所長だ。さっと周りを見回すが速見はいない。残業か帰宅か……。
定時の17時は過ぎていることだし、所長が帰したのだと信じたいところだ。
「……あの、どうしても無理でしょうか?」
俺の思考を断つように男性が言葉を発した。
よく見るとテーブルの上には写真が一枚と分厚い封筒。視界の端に見える所長の顔は不機嫌。その一言に尽きる。
俺たちの仕事はペットの捜索や色恋沙汰の証拠集め。基本はそれで月の仕事としては手いっぱいだ。なにせ事務仕事も両立させながらの行動になるから、基本的に定時には帰れない。人員も不足している。そこで今回の依頼?だ。テーブルに乗った物を見るに人探し。一番時間と体力が削られ、割に合わない。それは必ずしも依頼人の希望に沿うような形でかなえられることが少ないからである。
「ですから。何度もお答えしています。このお話はお受けできません」
「ですが! 私の、私の……一人娘なんです。警察にも失踪届はだしました。取り合ってはもらえませんでしたが」
互いに意味合いの違うため息がそっと漏れ出る。俺は男性の後ろからそっと写真を見た。
電撃が、走ったと思った。
「……は?」
二人の視線が俺に集まる。
だが、そんな視線は俺には届いていない。
俺の視線は写真に集約されていた。
修学旅行なのだろうか他の女生徒と仲良く笑っているまだ未成年と思しき少女が写っている。背中まである黒髪。目が悪いのだろうか眼鏡をかけている。右の目尻に泣き黒子が二つ。目の色は吸い込まれるような赤。
俺は知っている。彼女を。
いや、正確には彼女の『前世』と呼ばれるモノを。
「―――――!!」
ガタッと音を立てて口元を押さえ、後ろに下がる。書類が落ちるのも気にしている余裕はない。
激しく胸は鼓動を上げている。口元から胸へ。服が皺になるのも気にせずにどうすることもできない胸元を握りしめ、少しでも思考を落ち着けようとする。
だが、うまくいかない。
「……い! ………る!」
所長が何かを言っている。依頼人が困惑している。
俺の意識が覚えていたのはそこまでだ。
そのまま闇に閉ざされた。




