扉を開ければ
衝撃の三日後に彼女は学校を休み始める。そして、その次の日に彼女にまつわる噂が流れ始めた。
「監禁、されてたらしいよ。」
「なんで?」
「誘拐だよ、誘拐!五年間犯人と一緒だったんだって」
「なにそれ」
「私もさっき聞いたんだ、小学生の時だったらしいんだけど、結構当時は騒がれてたみたい」
「じゃあ、休んでるのも」
「うん、居づらくなったんじゃない」
「………そっか、かわいそう」
違うだろう。
立ち上がって、隣で話し込んでいる女子を怒鳴りつけた、いくらいの気持ちになる。
噂は驚異的に猛威を奮っていた。一週間経った今では学校全体に知れ渡っているほどに。
そして、今ではほとんどがそうであると思っている。多少のタイムラグを考慮せず。
事実かは知らない、ただ、彼女が学校に来なくなったのはそれが原因ではないとなぜ皆気付かないんだ。どうやら、大衆とゆうものは原型を切ったり貼ったりして都合を作り出すようだ。胸糞悪くてしょうがない。
だけど、そんな戯言を耳にしたときには、否定的に考えても、真実味を帯びているものに聞こえた。休んでいる理由ではなく、監禁とゆう流説の方に。
理由は彼女、屋上の、あの時には、少しほのめかしていたのではと、今更に思う。
なんで、もっと………、消極的過ぎた自分に憤りしか感じない。
情けない話、拒絶された事で、彼女の視界に入らないように行動するとゆう自意識過剰っぷりを発揮していて、言葉の真意にまでたどり着くほどの心の余裕がなかった。
―――しかし、過去については、断定ではないが、辻褄は合った。問題は今、早乙女楓は何をしている?彼女が言う、羽根でも探しに行ったのか?それにしても急すぎやしないか?その前に羽根って?焦っていた理由は?――――「まだ継続している………?」
胸騒ぎがして、しないようにしていた爪をかむ癖をいつの間にかしていると、本当に悪い報せが教室に飛び込む。
「おい、聞いたか!早乙女楓が学校やめるんだって、さっき、母親が退学届置きに来たらしいぞ」
願わくば、そうであって欲しくなかった考察は、現実のものであったらしい。
その報告を聞くや否や、居てもたってもいられなくなり、何も持たず、何も考えず、教室を飛び出した。
きっと、突然の様子をクラスメートはアホ面で見ていたんだろう。
走りながら思う。
……君はなんであんな事を言ったの?その上で曖昧にしたのはなぜ?僕は馬鹿だから、導きだせなかった、君の残酷な現状を、今だって、情けなくも、杞憂だって、信じてる。
だからさ、走って行くよ。実らなかった感情に沿って。
必要とされてないってわかってても、君のもとへ。
「二度目か」
今だからこそ思う、彼女の家の平和さとは強調したように平凡だ。
それに違和感を感じるのは、僕の考えすぎなのだろうか・
とりあえず礼儀としてインターフォンを鳴らす。
―――「早乙女ですが?」
母親のようだ。
当たり前のように、想った通りの口ぶりは異変を、誤魔化しを、潜んでいるとしか受け取れないほどに僕の神経は敏感になっている。
「同じクラスの東雲です。楓さんはいらっしゃいますか?」
えっ、と、驚きを漏らす。
「娘になにか?」
「少しお話が………、東雲が来たと伝えてもらえればわかりますから」
疑うような間があいて、
「少々お待ちください。………――すみません。楓は誰とも会いたくないと言っているので、…お引き取りいただけますか」
……この狸め。
「そうですか…、しょうがないですね――」
僕は言って、間髪入れず門を開いた。
それに気づいてか、インターフォンから静止させる声がする、確かじゃないが。その声に対する不安があるとするなら国家権力の介入ぐらいだ。
堂々と庭先を闊歩し、玄関口のドアに手を掛ける。
ガチっ。
手を回し、扉を開けるか、開けないかの、そのぐらいに、鍵ではなく、妨げるベクトルが働いた。
それは、狸だ。
「困ります。」
今更、ここまでくればこっちのものだ。
十六歳の力の前ではおばさんの力なんて完膚なきまでに敗北した。そして、一応靴を脱いで押し入る。
「警察っ!!!警察を呼ぶわよ」
「好きにしてください。ただし、覚えていたらね」
手が震える、息ができなくなるほどのどが詰まる。
浮かび上がるのは、早乙女楓、でも、彼の姿がちらつく。
僕は、また、繰り返すのか。
あたふたとするその人の顔を手で覆って。
「変われ」
念じた。
彼女は、糸が切れた操り人形のように、倒れこむ。
ふ~、と、深く息をはき、悪事を働いた掌を睨みつける。
「やな力だな、まったく」
能力なんて綺麗なものなんかじゃない、呪いだよ。
もう後には引けない
「どこだ」
辺りを見渡し、それがあまり意味のないことだと解って、手当たり次第に部屋のドアを開ける。
― ―― 一階にはいないようだ。確認して、二階へと続く階段を駆け上げり、さっきの要領で、彼女を探す。
一心不乱に。
―――残るは、二部屋。まず、僕から近い部屋の捜索に乗り出す。
手をかけ、扉を開けると、満ち溢れていた。