八話 給油
日も薄ら薄らと出てきた早朝。
公民館から逃げ延びてか、健太以外はぐっすりと眠っていた。
だが車は自動運転でもない、誰かが運転しないといけないのだ。
その運転手こそは、健太だった。
健太は嫌だとも言わずに、運転をしていた。
ずっと、運転しているせいか何となく慣れてきた。
このまま、順調に高速道路を行けば新潟だ。
だが、問題もあった。
実際は公民館でも寝不足だった…。
それに加えて、夜通し運転しているのだ。
強烈な眠気と疲労で、頭が回らない。
運転にも支障をきたしていた。
それだけじゃない。
このワンボックスカーには燃料が大して、入っていなかった。
給油も必要なのだ。
本当は街のガソリンスタンドに給油したかったが…。
強盗団に占領されていた。
他も駄目だった。
感染者が徘徊していたり、破壊されたり。
市街地を少し走行したが、壊滅状態だ危険すぎて人気が少ない高速道路を走った。
だけど、燃料はもうすぐなくなるのだ。
すると、サービスエリアが見えてきた。
時刻は、午前6時…だ。
致し方ないが、全員起こすしかないのだ。
一度車を停車させた。
助手席に座っていた雄太を起こす。
「おい‥‥‥起きろ‥‥」
「‥‥何さ」
「燃料がもうない…」
「‥‥‥え…?」
「だからさ、みんな起こしてくれ」
「ここのサービスエリアで給油するのか?」
「そうだ」
「わかったけど、大丈夫か?」
「何がだよ?」
「スゲー眠そうだけど大丈夫?」
「…ああ平気さ」
全員、起こし終えた。
眠そうにしていた…だが。
槍を構えていた。
言い知れぬ恐怖、そしてまた到来する、暴力を予感させる。
パーキングエリア入った…。
車は一台も停まっていなかった。
それに感染者は一体もいなかったのだ。
所々には、感染者の死体が転がっていて血痕もべっとりと付いていた。
ガソリンスタンドに停車させた。
そこにも、感染者はいない。
幸いなことに電力はまだ、供給されているのだ。
灯りはまだ点いているのだ。
だが、生きている人間はいないのだ。
灯りの点いた廃墟のようだ‥‥。
健太が車を降りた。
朝の新鮮な空気が肺をいっぱいにする。
そして、辺りを見渡した。
感染者はいない。
安全だ。
そう思って、窓を軽く叩いて合図をした。
皆が外に出ると、実奈が震えた。
「大丈夫?」
「うん…寒くてさ」
「パーカー貸そうか?」
「平気だよ‥‥」
健太達は給油機を調べていた。
「どうだ、燃料はあるか?」
純が健太に尋ねる。
「少し残っている」
「この燃料入れたらどのくらい、走れる?」
「・‥‥多分県外行ったら再給油だ」
「満タンにできるか?」
「無理だ」
「それに‥‥」
「ちょっと待て」
「へ?」
「そんな質問攻めしないでくれ…俺だってわからないんだ…」
「ごめん‥‥」
健太は疲労困憊で考えられなかった。
すると純と雄太がとある建物に目を向けた。
そこはサービスエリアだった。
食料が無い為、探索に行く必要があると雄太は踏んだ。
雄太と健太は車に寄りかかっていた。
「あそこのサービスエリアは何かあるかな?」
「ここら辺は山だ、感染者も少ないし」
「そうする…?」
雄太がニヤリと笑う。
「突撃ィ」
「そうさ、突撃だ!」
すると、車から槍を取り出した。
「何してるの?」
「サービスエリアで探索してくる」
「はぁ?」
「何で…そんな危険なことを…?」
「食料が欲しいからだよ」
「ねぇ、危ないよ」
「大丈夫だ」
そう言い残すと純と雄太はサービスエリアへ向かう。
「はぁ…何でそんな危険を…」
「分かるでしょ」
「何がですか?」
「ただ馬鹿だから」
雄太はパーキングエリアを進んでいく。
血痕や薬莢がいたるとこに散らばっている。
もしかしたら感染者がいるかもしれない…。
慎重に進んでいく。
サービスエリアのエントランスに到着。
すると、エントランスに何かがあった…。
近づいてみると、それは。
「うっ‥‥」
それは、死体だった。
感染者ではなかった、肌は人間の色だ。
壁に寄りかかりながら息絶えていた。
手にはH&K MP5A4が握りしめていた。
この銃はアメリカ海軍特殊部隊SEALsが使っていたサブマシンガン。
日本では、SAT特殊急襲部隊の特殊部隊の銃だ。
なので、銃の持ち主は特殊部隊…だと思う。
だが服装は一般市民の服装で、装備もされていない。
もしかしたら、銃を盗んだのかもしれない…真意は分からないのだ。
勿論、雄太と純は銃の名前も知らない。
でも、見た感じは争った跡がある。
近づいてみると、噛まれた痕がある。
そして、見事に頭を一発で打ち抜かれていた。
まだ腐敗も進んでいないことから、最近の事だった。
もしかしたら、噛まれて感染することを恐れて自らの命を絶ったのかもしれない。
「‥‥‥」
無言で銃をそっと取った。
銃はひんやりとしていて、重かった。
持った瞬間、重くてふらついた。
初めて持つ銃…。
これを撃つのは自信がなかった。
だが、いつかは約に立つだろう…この銃が…‥。
雄太が銃に紐?が付いていて担いだ。
店内に入った‥。
中は荒らされていた。
お土産コーナーは、全て商品がなくなっていた。
「‥‥何も残っていない」
辺りを警戒して進んでいく‥。
奥は食堂スペースで広そうなのは分かった。
するとコンビニが見えた。
コンビニと言っても、そこまで広くはない。
入ってみると、弁当コーナーは全て持ってかれていた。
飲料水売り場には何個か飲料水を入手した。
通学カバンに持てるだけ入れてく。
ほとんどの商品は残っていない。
缶詰売り場にも向かう。
行ってみると、ほとんど荒らされていた様子だった。
だが、十個くらいは取れた。
後は、お菓子やスナック菓子が調達できた。
「よし、戻ろう」
純が戻ろうと言う。
「オーケー」
そして走ってサービスエリアを出ていく。
「お~い!」
雄太が笑顔で呼びかける。
「その銃はどうしたの?」
奈々子が尋ねる。
「さっき拾ったよ」
「拾った…?まぁいいや」
奈々子はあまり理解できなかった。
「それよりどうだった?」
「少し調達できた…」
「そう…」
「健太は?」
「寝てるよ」
「そうか…さて飯にしよう‥!」
純が言うと車に乗り込んだ。
カーラジオを聞きながら食事をする。
缶切りは公民館から持ってきたため開けられた。
今度は味のある食事だった。
表情は、比較的明るい方だった。
こんな状況で、精神も狂いそうだ。
だが今は希望が出てきた。
そんな希望を抱いて缶詰を食べた・‥‥。
健太を起こして車を発進させていた。
時刻は午後3時だ。
あと少しでトンネルだ。
そのトンネルを超えれば、県外だ。
全員安心しきっていると‥‥。
ギギギッ!!!!
突然、車が急停車する。
「今の何⁉」
実奈が叫ぶ。
驚いた様子だった。
「健太!どうしたんだよ!?」
「前、見てみろ…」
「え?」
皆が全員、前を直視した…。
それはトンネルに車が何百台も放棄されていたのだ…。
これでは通れない…。
また、地獄に突き落としたのだった。