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七話 公民館脱出編 【後編】

時刻は午後3時だ。

日も落ちてきた頃だった。

既に健太達は()()物の準備をしていた‥。

それは…(やり)だ。


槍と言っても、お粗末なものだ。

ほうきの地面に接する部分の柄?の部分を切り取った。

そこの先端に包丁をロープで巻き付けたそんな物だ。

だが、()()よりはマシだ。

後は、モップや灯油などの準備をしていたのだ。


実奈はふと思った…。


健太達に一緒に行かなければ、食料は底をつくのだ。

もしかしたら…ここで…。

実奈は気づいた。

公民館に残る生存者は…自ら…?


それを思うと、心が締め付けられた。

だが話しかけることもない、ただ彼らの最後を想像したのだった。

彼らの最後…もしかしたら、この世界での唯一の()()なのかもしれない。


本当の幸せ‥。



雄太は、ずっと頭の中でとあることを考えていた。


それは…。

雄太の父親はアルコール依存症だった…。

だがその役職は、市民の命を()()警察の刑事だ。

それとは全くの真逆で、家庭では雄太やその母への暴力が絶えなかった。

家ではビール瓶がたくさん転がっていて、あちこち血痕がついていた。

その、血痕は雄太と母のモノだ。

何か気に入らない事があれば、すぐに暴力だ。

そんな毎日のだった。

何なら、今の状態よりも何百倍酷い環境だった。


だがある日、父親の同僚の刑事が()()暴力中に父親に話があってきたらしいがその光景をみて直ぐに取り押さえられた。

風の噂で父親が刑務所に入れられたことを知った。


その刑事には感謝しきれないほど感謝している。


命を守る立場の父親が、平然とDVを行っていたこと…。

それによって母親が、鬱状態になってしまったこと。

また、家庭崩壊してしまったこと。


それは、雄太自身許せなかった。


雄太は東京に住んでいたが、遠縁で顔も知らない親戚に引き取られた。

だがその意味は、もう母親とは会えない‥という事だ。

その『会えない』という文字通り会うことはなかった。

だけど、父親や母親の話は誰にもしたことはない。

いや、話す必要もなかったからだ。

中学一年生から親戚の所に引き取られた。

まだ、十二歳だったこと…。

五年間は、誰にも話していなかった。

何故なら、人に大袈裟なリアクションをされたくなかった。

誰だって、友達が過去に虐待されていたことを知ったらオーバーリアクションをとるだろう。

だが雄太はそれが嫌だった。


過去に、親戚の家に来た時にそのことを教えたら大袈裟な程のリアクションだった。


それが嫌だった。


雄太は、自分だけ特別扱いは嫌だった。

自分も周りの人間と足並み揃えて()()な生活をしたい。

そうゆう性格だったこともあった。


だが、今の公民館からの脱出の緊張はあまりなかった。

何故なら、過去にあったことよりは楽勝だからだ。

逃げ場のない狭い空間での暴力は避けようもなかったし抵抗も出来なかった。

今はその過去の経験からの正念場だった。



雄太以外はかなり緊張と恐怖だった。




…時刻は午後6:40だ…。

日も落ちかけてきた所だ。

計画の実行時刻は七時丁度だ。

残りに十分間は、各自の通学カバンに荷物の整理していた。

懐中電灯や予備の乾電池等だ。

後は各自のスマホや要らない物の整理だ。


健太と純は二人で武器の製作にあたっていた。


「なぁ、健太?」

「何?」

「成功するか?」

「は、何が?」

「いや、公民館から逃げれるか?」

「何で急にそんなことを言い出すんだ?一緒に行かないの?」

「別に行くけど…もし逃げる際に噛まれたら…?」

「…何言ってんだ?」

「え……?」

()()させるに決まってんだろ」





 午前6:58――――


出入り口のドアにつけてあった板を全て外した。

最後の板を外すと、五人は緊張していた。

その奥には、残るメンバーが心配そうに見つめていた。


奈々子は槍を持っていた。

かなり緊張していた…。

それは噛まれたら、終わりだから。


こんなに緊張していたのは、運動会以来だった。

小学生のころ、いつもビリでからかわれていた…それが恥晒しだ。

だが、いくら努力しても最下位。


そのくらい、緊張していた。



実奈はある程度は運動できるため、モップを持っていた。

モップの炎で蹴散らしながら急いで乗る‥‥それが使命だ。

自分は何度かバトミントン部の大会に出場しているがこんなにも怖いことはなかった。

それは感染者という脅威だからだ。

感染者は噛んでくる、そして感染する…。

それが怖かった。


健太は時間を確認する…。

極端に真面目な性格だから、時間ぴったりだが。


「よし!!!!七時だっ!!!行くぞ!!!!!!」


雄太が叫ぶと思いっきり扉が開く!


「モップに火つけろ!早く!」

純がモップを持っている雄太と実奈に急かす。

実奈は手が震えてうまく火が付かなかった。

その間にも感染者が階段を登って駆けあがってくる。

「へ、野球と同じだ‼」

さすたまを思いっきり押して感染者を押し倒す。

一斉に転がり落ちて、今がチャンスと健太が思う。

だが…。

「早く、火持ってこいや!早く!」

「あいよ!」

また階段に群がる感染者に煌々と燃え上がるモップを振りかざす!

火を見た瞬間、後ずさりしどんどん下がってく。

一斉に健太と純、雄太が一気に下に降りる。

地上には円を描くように感染者が近づく…だがそれをお構いなしに振る。

「おい!後ろだっ!!!」

感染者が純の後ろに来てすかさず噛もうとする。

「このクソ野郎め!!!」

さすたまで強く押し倒した。

「駄目だ!火力が足りない‼」

「もう一個はどこ行った!」

どんどん後ろに襲い掛かる…。

槍で応戦するが、数が多すぎる。

「何やってんだ!あいつらはァ‼」

健太がキレた。


その頃、奈々子たちは…。

「ねぇ!早くして‼」

「待ってよ!!!!」

奈々子が槍で戦うが、槍一つだけでは無理だ。

「ライターが駄目だ!」

「えぇ⁉」

実奈がただ、もたもたしている訳ではなかった。

ライターの調子が悪かった。

その間にも次第に健太達に襲い掛かる。


「クソッ!駄目だ押し進めない!」

「だから火力はどこ行ったんだよ!!!!」

「まだ…クソッ‼‥上に居る!!!!」

かなり危険な状態に陥っていた…。

それにモップの先端が燃え落ちてきたのだ。

「ヤバいぞ!そろそろ燃え尽きる‼」

車の方へと向かいたいが、もう何百体の感染者が群がっていた。


「何でつかないのよぉ!!!!!!!!早くしてよ!!]

無茶苦茶にライターをカチカチとやっていると…。

「きゃっ‼」


突然ライターが点いたのだ。

そのままモップに燃え移った。

灯油のかける量が多かったのか高く燃え上がった。


感染者は逃げるように下がっていく。

後ずさりしすぎて、階段から転げ落ちていった。


「よし、行こう‼」

「うん‼」


走って、階段を駆け上がり健太達への所へ応戦する。


「遅いぞっ!!!!」

「ごめんなさいっ!!!!」


雄太と実奈が背中合わせでモップの火で蹴散らす。

その両隣に槍とモップで戦う。


「一気につきっるぞ!!!」


その掛け声で一気に感染者の群れを蹴散らした。


モップの炎を振り回した。

それに下がった感染者を槍で突き刺した。

血が飛び散る…。

その血が健太の服に付着した。

「ッ…」

嫌だが我慢だ。

車まで残り数メートル…いやもう…。


「よし!みんな乗れ‼」

「分かった」


白いワンボックスカーに急いで乗り込んだ。

三列シートの車両だ。

幸いなことに鍵はかかっていなかった。

「急げ早くしろ‼」

モップを投げ捨てて車に乗り込んだ。

そして健太が最後に乗り込んで‥。

「みんな乗ったか⁉」

「乗ったぞ‼」

「オーケーよし発進するぞ‼」

車窓には埋め尽くす程の感染者が窓を叩いた。

叩いたせいで車体が左右に大きく揺れた。

運転席には健太、助手席には雄太で後部座席には実奈と奈々子、純が座っていた。

健太は事前に人一倍、シミュレーションしていた。

思いっきり鍵を回した‼


力強いエンジン音だ。

この車はマニュアル車だが手順を頭に入れてある‼

車が急発進して感染者が吹き飛ばされた。

そのまま、大きくハンドルを切ると舗装道路に出た。

一直進に公民館から出ていった…。



もう安心‥そう思った瞬間、実奈の緊張の糸が切れた。

思わず大粒の涙がこぼれた。

そのままうつむいた…。


横に居た奈々子は心配して背中をさすった。


「大丈夫…?」

「うん……うん‥‥!」

「よかったじゃん、無事に出れて…」


実奈は公民館での疲労や緊張が全てこの場で爆発したのだった…。

これからのことは何だっていい、ただこの喜びを深く噛みしめていた…。

それは疲れも出てきたのだった。

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