五話 秩序のない街
翔太のいるショッピングモールから少し離れた市街地だった。
市街地はあちこちに車が電柱や店に突っ込んでいて道端に死体や炎が燃え盛っていた。
それに感染者がうようよ歩き回っていた。
時折銃声や悲鳴、怒号が聞こえてくる。
酷い有様だった‥。
秩序のない街と化していた…。
少し遠くに目をやれば、強盗団が市民を襲っていた。
さらに自衛隊が一般市民の食料を奪っていた。
地獄より酷いかもしれない…。
駅前はバリケードがあるが既に暴徒と警官が戦っていた。
それに感染者も乱入して最悪だった。
かつては奇麗に整備されていた街は、ゴミ袋の山や死体と血生臭い街…。
ほとんどのビルや店がシャッターをしてあった。
そして住宅街は住宅のガラスが割れていて、あちこち血痕の跡が生々しくべっとりとついていた。
死体も片付けられることはなく普通に転がっていた。
河川は車が落ちていて橋はバリケードで塞がれていた。
市街地よりも住宅街の方が人がいなかった…。
だがコンビニやスーパーは略奪された痕だけが残されていた。
変わらないものといえば感染者がうろついていることだ。
人口密度の高いとこだけにいるのか…その意味は分からないが…。
感染者は足が遅い…だが感染者の強みは集団となって襲ってくるからだ。
一体の感染者が生存者を見つけると呻き声を上げてどんどん襲ってくるからだ。
それが厄介なことだ。
現在の時刻は11時だ。
市街地は相変わらず黒煙の炎に包まれている。
感染者も休むことなく、呻き声を上げてうろついていた。
住宅街のとある地区の公民館…。
翔太の実家とは正反対の方向にある場所だった。
その公民館は二階建てで、一階が駐車場で二階が建物だ。
二階への階段はデスクや本棚で塞がれていてバリケードとなっていた。
カーテンの閉まっている窓から光が少し漏れていた。
その中には七人の男女がいた…。
この公民館は小さな給湯室と二十人程入れる集会室があった。
基本的には地区の子供達や集会などの場所だ。
台風や大雨などの災害時にはここが避難所となる。
だから給湯室に食料が備蓄されてある。
災害時は一応ここが避難場所だが…すぐに安全が確保されたら近くの小学校に避難するのだ。
だから備蓄の食料は少ないのだ‥。
今は危機的状況に追い込まれていた六人だ。
ここにいる生存者は七人。
高校生が四人、中学生が三人となっている。
大人は数週間前に…死んだ。
正しく言えば、外に出て逃げようとしたら公民館に集まっている感染者に襲われて死んだ。
結局は避難者の子供達だけが取り残されてしまった…というワケだ。
元々は食料不足で逃げようとしていた…。
逃げ遅れたため食料不足は深刻な問題であったのだ。
そして、ずっと風呂にも入れていない。
体臭もそれぞれ気になっている。
全員はほとんど言葉を発しないのだ。
言葉にするだけで、溜まっていたストレスや不安が爆発する。
次第に不仲な関係となっていた。
情報源は公民館にあったラジカセで流れてくる、不安を煽る情報に日々追い込まれていた。
娯楽もなく、インターネットは既に使えなくなっている。
漫画や情報誌、本は一切ない。
それにすらも武器もままならないのだ。
包丁とさすたまぐらいしかないのだ。
ここの公民館の皆は信用しているのかも怪しい。
特に女子は何らかの男子に対する不安はあるだろう。
この公民館にいる全員は疲弊していった。
…時刻は午後11:34分だ、彼らはまだ夕食を食べていない。
いや‥誰かが食べると言わない限り誰も食べないだろう‥‥。
だが公民館の座布団にちょこんと体育座りの女子が丸いフォルムのラジカセの電源を点けた。
「―――ザザ…ザザザザザザ…――ちら‥こちらはXCW放送局です…緊急放送…ザザ…ザ…」
ラジオの局を合わせて雑音が含みながら受信した‥。
「今日入ったニュースをお知らせします‥ザザ…『吸血鬼型伝染ウィルス』による国立感染症研究所の報告ですが…ザザ…‥‥国立研究所の片井博士のコメントですが…ザザ…この世界的に非常なウィルスによる研究結果です…ザ…ザザ‥によって感染者は、人間の生血を欲しています…ザザ…だが多くの人々はこの感染者による行為を食べていると認識していますが、正確のは違います…感染者‥つまり彼らは人肉を食べていない、噛みついて血を吸っているだけなのです‥ザザ…ザザ…ザザザザザ…――――そしてつまりは感染者同士で吸血はしません、簡単に言ってしまえば蚊は蚊同士で吸血はしませんよね…ザザ…のでそれに彼らはゾンビと違い吸血しかしません、なので吸血鬼です、だがドラキュラやヴァンパイアは知能がありますが…彼らは知能がないです‥‥ザザザザ…つまり、人間ではありません、正確に言うと死人です、死人です!!!彼らを人間だと同情してはいけません‼今すぐにでも外をうろついている死人を即刻殺すべきだっ!!!!!!」
彼女はこうこの放送を聞いて心が重くなる…。
「酷い‥」
思わず口にしてしまうのだった…。
「へっ、よく言うなァ、アンタだっていつかは外の連中を殺すんだぜ」
彼女の話を聞いたのか高校生の一人が笑いながら言った。
その高校生は谷河雄太17歳の市内の公立の高校生だ。
部活動はやっており柔道部だ。
力も体力も、そして精神面もかなり強い方だ。
こんな状況にも大して辛くはなく、比較的ポジティブな考え方だ。
そしてチャラチャラしている。
元々、素行が悪く度々、問題行動を起こしていた。
だが時には、ポジティブな性格で問題に向き合い解決することもある。
つまり根っからの悪ではない。
彼女は雄太にそんなことを言われて不快感を覚えた。
「別にあんたなんかに言ってないよ…」
「あ?今なんつったァー?」
「あんたなんかに言ってないってことだよ」
「はァ?てめえ…」
すると見かねたある人が‥。
「やめろや!」
声を張って言い争いを止めた。
その声に驚いて他の人も注目する。
「こんな時に喧嘩なんかするなよ」
「チッ‥」
「…」
雄太は舌打ちをして黙った。
その表情は顔を歪ませていた。
彼女は黙っていた‥。
この喧嘩を止めたのは、雄太と同じ高校の…。
山本健太17歳の同級生でもあり親友だ。
雄太と同じ柔道部の部員でもあり親友でもある。
冷静沈着な性格でリーダーシップ的な一面もある為、中学では生徒会に立候補したこともある。
基本的には頼りになるが冷たい一面もある為、時として対立すこともある。
お調子者の雄太の性格を知っているためなのか、人とのコミュニケーション能力が高い。
体力もあって、頭もよくて行動力も持ち合わせている。
だが、時として他人に冷たくしてしまうのにも自身で悩んでいる。
健太は雄太と、もう一人の人物が三人でぐるり囲んで公民館にあったワインを飲んでいた。
そのもう一人の人物は。
池田純16歳。
健太と同じ高校で健太とは中学時代からの付き合いだ。
部活動は野球部だ。
中学1年生の時はかなり酷いイジメにあっていた。
一時期は自傷行為や自殺まで図ろうとしていた。
だが歩道橋から飛び降り自殺を図ろうとしていた時に、健太に出会い止められて説得されて救われたことから、かなりの信頼関係を築いている。
野球は上手だ。
だいたい三人で固まっている。
性格は普通は温酷な性格だが時として頼りとなる場面も度々ある。
三人はただ自暴自棄になって酒を飲んでいるんじゃない。
それを楽しんでいるところもあるがある計画を練っていた‥。
それは公民館からの脱出だ。
もう食料も残りわずかだ、早い所脱出しないと餓死してしまうから。
健太はここのリーダー的な存在なのか車の運転の仕方は出ていった大人たちに紙に詳しく書いて置いてってくれた、なにか有事のことがあった際に車で逃げれるようにと…。
いい加減、雄太たちはこんな非常食の缶詰、レトルトは飽きたし最近は不味くも感じてきた。
だから、純の祖父母の実家‥つまり海沿いの新潟の人口の少ない地方の田舎に住んでいる‥つまりは人口が少なければ感染者による襲われる危険性は少ないしその家は周りに一切の民家がなくて感染者がいるとは考えにくいし、海に近いため釣りなどによる食料の確保が安定してできるというメリットしかないという最高の立地だ。
家も広くて、何人かは住まわせることが可能という。
そして日々ラジオから流れてくる強盗団や暴徒に襲撃されない。
安心した充実した暮らしをできる。
純の祖父母が生きていても優しいというから受け入れてくれるはずだ。
だがそこまで行くには、地上にいる感染者を突破しないといけないからだ。
だから、今そこまでのプランを練っていたところだった。
いち早くここから脱出したいからだ。
まだ彼女はラジオを聴いていた…。
彼女は鈴木実奈14歳の中学二年生。
雄太と同じ学校ではないが同い年なのだ。
特技はバトミントンで部活動もバトミントン部に所属していた。
落ち着いた性格で基本的には明るい性格だ。
だが人への観察力が優れていて、人への判断が出来る。
しかし、小学生の頃に交通事故で両親と弟を失っており時々トラウマに悩まされていた。
一時期は精神疾患まで陥っていたのだ。
だが現在は社会に復帰して親戚のいる『街』に引き取られた。
実奈の表情は暗くて、目元は隈が出来ていた。
この状況に疲弊していたのだろうか‥。
数か月の間も救助は一向にこないし、たまに見かけるのは報道ヘリだ。
その報道ヘリは取材ではなく都心部から逃げているのだろう。
こんな状況だ、人口の多い所よりも少ない方がいいのだろう。
今や敵は感染者だけではない暴徒や強盗団の被害もあるのだから…。
彼女は他の中学生とは面識がない。
何故なら私立の生徒たちで何の関係もないからだ…。
まともな話し相手もいないなかの生活…。
服も着替えていない。
制服のセーラー服は汚れていて、スカートは裾が何かのこぼした後で汚れていた…。
まだ水道が出ていた頃は、腕や顔は奇麗にできたが…。
現在は水道が止まったせいで頭すらも洗えていなく頭も痒かった‥。
実奈は心の中では愚痴がこぼれた…。
『早く家に帰りたいっ‼』
『頭を洗いたい!!!』
『服を着替えたい!!!』
『美味しいものを食べたい‼‼』
そんな欲求が止まらない…。
だが叶うはずもないのだ…この状況から逃げられないのだから。
実奈は横になって寝ることにした…。
次回は公民館の生存者メインで小説を投稿していきたいと思います。