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三話 誰もいない食事

広い天井とたくさん並んだ椅子とテーブル、店員のいない飲食店‥‥。

世界が正常だったら、必ず生きている人間がいたのに。

そう思って最初の頃は悲しくなっていたが、今は何とも思わない。

そんな自分にたまに怖くなる。

誰もいないのに店内音楽だけがずっと流れている…。

フードコートの真ん中の席に座った。

そこにはカセットコンロがあってその上に小さな鍋があった。

これで、レトルトカレーとかをつくるのだ。

鍋には水が入っていなかったなので。

「鍋に水入れてこないと…」

フードコートには水回りがある、しかも飲食スペースに。

もう水道は一か月前に止まっている、なので。

水はこの施設内にある屋上の貯水タンクと地上にある貯水タンクで何とかしている。

貯水タンクの水はそう簡単にはなくならないから、ちょっとは安心。

幸い日本政府は電力供給だけはしてくれている。

今はこんな風に豪勢できているがいつか電力供給が止まったら…………。

それもまた心配だ。

もしかしたら予備電源や自家発電機とか太陽光とか…。

「あっ‥!いけね」

考え事をしていたら鍋から水があふれていた。

急いで水を止めて、余分な水を流した。

水をこぼさないように気を付けてカセットコンロに置いた。

そして火をつけた。

キャンプ用品店から持ってきたレトルトカレーを鍋に入れる。

いちいちカレーを作らなくていい、ただ温めるだけとは楽な時代となったなぁ。

翔太はそう思った。


さっき持ってきたコーラをラッパ飲みする。

口の中で炭酸が弾けてコーラ特有の香気が美味さを味わう。

鍋を見てみると、水が沸騰してグツグツ音を立てている。

「まだ‥いいかな」

もう少し様子を見る為に火の強さを弱めた。

このフードコートは奥がガラス張りになっていて昼間は基本的に明るい。

だから外の様子もよくわかるのだ。

そう思って外の様子を見てみることにした。

見てみると、店舗の明かりだけで薄暗くてわかりずらいがどんどんこっちに呻き声を上げてこっちに来ているのがわかった。

「もしかしたら明かりで来ているのかなぁ…いや違うか」

なぜ奴らは人間の生血を吸って、その人間も同じになるのか。

中世ヨーロッパやギリシャなどでの伝記だ。

吸血鬼は翔太世代ではあまり流行らず基本的にゾンビが有名だ。

ゾンビは外をうろついているあいつらと少し違って人肉を貪る‥‥‥。

だが奴らは肉を欲していない、血だ人血を求めっている。

奴らは分かっているのか血が多くある首とかを狙ってある程度経つと何処かへ行く…。

ヴァンパイア、ドラキュラはある程度の知能がある。

それと真逆で知能も低くて、意思疎通すらできない。

ただ呻き声を上げて人血を求めて彷徨う。

日光にも弱くないが…奴らは銃とかで頭を撃ったり潰したりしたら死ぬ。

それと至近距離でのフラッシュライトや発煙筒とかの強い光や火で怯える。

普通の炎では怯えない、発煙筒なら怯える…。

このショッピングモールに逃げ込んだ時ぐらいに見たテレビの情報だ。

一体奴らは何者なのだろうか…?



「あ、いけね!」


鍋がかなり沸騰して水が溢れていた。

急いで火を消した。

レトルトカレーはかなりの熱を持っていて袋の端を持った。

そしてつくってあるパックご飯の上にカレーのルーを入れた。

とてもいい匂いが立ち込める‥。

後はゴミを片付けて…。


「いただきます」


スプーンにカレーをすくって一口で食べた。

旨い。

翔太はいつものレトルトやカップラーメンよりも旨いなと確信した。

そしてまた食べたいなと、思った。

カレーを旨そうに食う‥‥‥。

だがこれは結局レトルトだ、又すぐに飽きるだろう。

そんな思いが翔太の脳裏に駆け巡る。

「ッ………」

そう思うとこの広い空間に昔の記憶が蘇る…。


世界が普通だった頃は、翔太も一人で頻繁に来ていた。

市外から少し離れた郊外だが、交通の便も良くて道もちゃんとしていて自転車で通える距離だった。

週末は多くの人で賑わい、親子連れも多くいた。

このショッピングモールは出来て三十年近く経つらしいが、一昨年くらいに改装工事がされて店内もリニューアルしたのだった…。

それでか、改装前よりも人が集まるようになった。

たくさん、人が…。


自分の通っていた中学校のクラスメートはどうなったのだろうか…?

どのくらいの人数の生徒が生きているのか。

もしかしたらあの中学校の生存者は翔太くらいかもしれない‥‥。


そんなのは嫌だ…。


人を見るのは電気屋のテレビに映る、緊急放送の時折映るキャスターだけだ。

この三ヶ月間はどんなに孤独でも、不安を煽るテレビでも人を見ていると孤独を紛らわす。


そうだ、食べ終わったらテレビを見に行こう…。

もしかしたらテレビ放送してるかもしれない‥‥。


また、カレーを一口食べた。


「やっぱ…旨いな」


カレーは確かに旨いのだけは変わらない。

そしてコーラを飲んだ。

炭酸がまだ残っている…。

これを男でも女でもいいから誰かと食べるともっと旨いのかなぁ…。

ふと外を見た。

市外の明かりは点いていない。

多分電力供給されていても、その電力を使う人間がいないのだろう。

翔太以外に…。

この気持ちを寂しいという表現だけでもいいのか?

わからない‥‥‥な…………。


やっぱり孤独というのは、感染者より手強い。


カレーを食べ終わって、洗いに行った。


この広いフードコートに一人、翔太だけがいるのだった。

本当だったらフードコートの飲食店の旨いラーメンとかアイスクリームを食っていたのかもしれないと翔太は思う…。

だがもう戻らない日常にそんな夢を掲げても無駄だ。

諦めろ。

翔太はそう、自分に言い聞かせるのだった…。

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