十五話 探索の先には 【前編】
健太は久しぶりにぐっすり眠ることができたのだった。
昼夜問わずに、運転を続けていたのだ…。
公民館を脱出してからの初めての睡眠だった。
やっと、安心して眠ることができたのだ。
タオルケットを掛けて、ソファーのクッションを枕にしていた。
家の探索時に自然と体が横になったのだ。
その時の健太は睡眠不足の限界を突破していた。
だけど健太は寝ても誰も文句は言わなかった。
車をずっと運転してくれている健太には頭が上がらなかった。
それを、わかっていたので何も文句は言う筋合いはない。
逆を言ってしまえば寝た方が良いのだ。
少しくらい休憩をとったほうがいいのだから。
雄太と純はリビングでテレビを見ていた。
まだ、こんな世の中でもテレビ放送をしていたのだ。
でも放送しているのは、バラエティー番組やアニメとか教育番組ではなかった。
永遠に番組変更した、緊急放送しか放送されていない。
全チャンネルが緊急放送だった。
アナウンサーは顔色が悪いし、スタッフの音声も混ざってスタジオが緊迫していることがわかる。
放送していても、政府の感染者の対処方法のビデオとか被害状況とか…。
ヘリコプターでの上空からの報道とかだけだ。
なので、ときどき報道ヘリを見かけることがある。
こんな状況でもわざわざヘリを飛ばして報道するなんて、凄いな。
でも、もしかしたら取材じゃなくて何処かに逃げてるかもしれない。
人口が少ない地方へ‥‥。
一番安全な移動方法はヘリコプターかもしれない。
地上は地獄でどこに行っても危険だ。
暴徒や感染者に襲われるかもしれないから、感染者も暴徒もいない上空が安全だ。
健太が目が覚めて起き上がると、通学カバンに入れてあった野菜ジュースを取り出した。
頭がぼんやりしていたので、眠気覚ましにと野菜ジュースを選んだ。
野菜ジュースを一気に飲み干した。
昔は不味いと思っていたが、今は何故か美味しく感じた。
もしかしたら、糖分をあまり摂取していなかったからかもしれない。
飲み干すと、ゴミ箱に投げ入れた。
丁度、ゴミ箱に入った。
「おはよう、健太」
「ああ…おはよう……」
本当だったら、自分の部屋で目が覚めていたのに…。
そして、いつも通りに学校に何事もなく登校していたのに。
今は、不眠不休で未成年が無免許運転を平然とするのだ。
それに不法侵入と窃盗、人の家で勝手に眠ると‥‥。
嫌だよな、ずっと夢の中に居たい。
健太はふと、こんな事を思う。
まだ、ウィルスが蔓延する前は平和な学校生活を送っていたのだ。
何処にでも食べ物があって直ぐに何でも手に入っていた。
もしかしたら、健太の家庭環境も影響していたかもしれないが平和な暮らしだった。
大抵の欲しいものは買ってもらっていたしスマホだって買ってもらっていた。
不自由もない暮らしをさせてもらっていた。
休日は友達とカラオケに行ったり友達の家に行ったりとか…。
そんな、生活を送っていたはずだった。
今だってこんな世界にならなければ。
もっと、もっと‥‥。
健太は頭の中で巡らさせていた。
どうしてか、健太はリーダー役になっていたのだ。
そんな弱音を吐いてはいけない。
我慢しているのだ、不満を我慢しているのだこの状況に。
学生たちが、何でこんな事をしないといけないのか?
大人たちが何で暴走して、子ども達が取り残されているのだろう。
「健太…?」
「えっ⁉」
「‥‥さっきからどうしたの?」
「また寝てた?」
「いや、話しかけても反応がなかったから」
「ははは…考え事してた」
「そうか」
健太は苦笑いをすると、立ち上がって通学カバンを持って雄太と純にこう言った。
「よし、行こう」
「わかった」
そう言って全員立ち上がって、また運動公園の探索を開始した。
今度は開錠して玄関から出た。
外に出ると、若干肌寒い気がした。
だけど、気にしないで早足で入れる所を探していた。
感染者から守る為なのか高いフェンスに囲まれていた。
時間は、午後8:34分だった。
既に探索から結構時間が経っているが感染者がいなかった。
それは妙に変だった。
警察とかが周りの感染者を倒しても、数体くらいはいるはずだ。
だけど、いないのだ。
まぁ、感染者がいなくてラッキーだったけど。
しかし、何処にも入れる所はなかったのだ。
フェンスに囲まれていて駄目だ。
そろそろ諦めかけていた。
「はぁ~全然入れないじゃん」
「‥‥もしかしたら、この運動公園って避難所かも」
「どうして?」
「今思い出したけどウィルスがまだ流行したての頃は住民を感染者に増やさないために一個所に避難させていたらしい」
「それで…ここが避難所なの?」
「だって、高速道路から見ただろうここら辺の地域は暴動とかがなかっただろう」
「確かに…」
「それに、ここら辺の地域の住民はここに集められたかも…って言う推測」
「だから早期に住民を感染させない為に直ぐにこの運動公園を避難所にしたのか?」
「多分…まァそれは運動公園の敷地内に入らないとわからないけど」
そう、憶測や推測を語っていると‥。
やっと努力が報われたときが訪れたのだった。
「おい、見てみろよッ‼」
「雄太静かにし‥‥」
「マジかよ⁉」
それは、何かのゲートが見えたのだ。
走ってゲートへ向かった。
近づくと、民間の車両が何十台もゲートを埋め尽くしていた。
そこで、健太達は事実を知らされた。
「ここって…」
「一般人避難所入り口‥‥」
「やっぱり、避難所だったんだ」
そう、ここは避難所だったのだ。
健太の推測通りだった。
しかし、何か焦げ臭い匂いと死臭が漂っていた。
慎重に近づくと、車が何台も大破していた。
強引に避難所に入ろうとしたことがわかった。
それに、車にも銃弾の痕が無数に広がっていたのだ。
健太達は車両を乗り越えて侵入した。
やっと侵入すると、ここは運動公園の反対側に来たことがわかった。
けど、反対側の駐車場は結構奇麗だったが避難所の方は結構荒らされていた。
車両が燃えていたりと、最近まで人が居たことが感じ取れた。
それに、警察官の死体や一般人の死体がそのまま放置されていた。
どの死体にも武器が握られていた。
警官や自衛隊には銃が握られていて一般人はゴルフクラブや猟銃などを持っていた。
明らかに戦った痕跡だけが残されていた。
自衛隊のテントも破壊されていたり燃やされていたり‥‥。
やはり何か死臭が漂っていた。
レンガ調の道は血も混じっていた。
血痕が至る所に付いていた。
それに、プレハブも軽自動車が突っ込んでボロボロだった。
軽自動車やパトカーが大破していた。
地面は何かの書類や部品が落ちていたのだ。
まずは、野球スタジアムに近づくともっと酷かった。
野球スタジアムは何か焦げ臭い匂いが漂っていた。
スタジアム入り口付近には自衛隊のトラックは横転していた。
まずは、横転した自衛隊のトラックを探索した。
トラックの荷台に入ると、段ボール箱が散乱していた。
段ボール箱を開けると‥。
「やった…食料だ」
あまり、この状況では喜べなかった。
目の前に死体が散乱している中では、喜ぶことが出来なかった。
段ボールに入っていたのは、非常食のカロリーバーだった。
持てるだけ、通学カバンに入れて他の段ボールも漁り始めた。
他にも、缶詰のサバの味噌煮や公民館でずっと食べていた乾パン等が入っていた。
災害用のものばかりだった。
けど、今は災害じゃなくてウィルスによる被害だけど。
健太や純は持てる分だけ通学カバンに入れた。
しかし、雄太は限界まで入れて重くなっていたのだ。
「雄太、そんなに持ってくな」
「え?何で⁇」
純が雄太に指摘した。
「そんなに持ったら走れないだろ」
「大丈夫だって」
「知らないぞからな…」
そのまま、食料確保が出来たのだった。
トラックの荷台から出ると、また運動公園を歩き始めた。
スタジアムに入ろうとしたがデスクやパイプ椅子で塞がれていた。
仕方なく他の所も探索することにしたのだった。
やっぱり感染者の姿はなかった。
代わりに死体が無数に転がっていただけだった。
死臭や焦げ臭い匂いが鼻を刺激していく。
気分は最悪だった。
思わず純がこんな事を言った。
「こりゃあ地獄だな」
「同感するよ」
すると、雄太が道端に落ちている自衛隊が使っていただろうリュックが落ちていた。
拾うと結構重かった。
立ち止まって中を開けてみた。
「おい…銃が入っているぜ」
「本当だ銃じゃん!」
中には9mm拳銃が三丁とライフル銃がリュックに2丁固定されていた。
リュックの底には弾薬箱が拳銃とライフル銃の弾薬が何個か入っていた。
それに、ハンティングナイフもあった。
「めっちゃ銃があるじゃん」
「これで、武器の確保も出来たな」
「一人拳銃を一丁持とう」
そう、雄太言うと9㎜拳銃を制服の腰ベルトに入れた。
やっぱりH&K MP5A4と同じでどの拳銃も重かった。
だけどH&K MP5A4よりはそこまで重くない。
雄太がリュックを背負って、また歩き始めた。
現在時刻は午後8:47分だ。
健太達が車を出発して時間がかなり経った。
その頃、奈々子と実奈は車でずっと待機していた。
「遅いなぁ…」
「全然戻ってこないね」
「そうですね」
奈々子は暇だった。
全然戻ってこないし、車の中でずっと待機は退屈でしかなかった。
そこで、奈々子はある計画を考えていた。
考えが整理されて明確にはっきりとすると、実奈に提案する。
「ねぇ…私たちも探索に向かわない?」
「え‥‥どうしてですか」
「私たちも健太とかが探索してるから私達も探索しないと…」
「‥‥」
実奈の内心は、探索なんか行きたくない。
それだけだった。
怖いからだ、感染者が。
自分は嚙まれたくないだけだった。
別に空腹でも喉の渇きもない。
ずっと、車に籠っていたいだけだった。
何か恐怖が襲うのだ。
だけど、中学生から高校生を見ると大人と同じだ。
嫌だなんてストレートに言えない。
今は精神も身体も追い込まれている中でのそういった行動は無理だ。
もう、気分とかじゃなくて拒絶反応と同じくらいだ。
実奈は心も疲れているなのか…ネガティブに思ってしまう。
「よし、私達も行こう」
「‥‥‥はい」
仕方なく、車から降りたのだった。
そして、奈々子たちの探索も始まったのだった‥‥。