十四話 休憩
健太と雄太と純は運動公園に侵入できないか、模索していた。
十分近く歩いているが、フェンスに囲まれていて無理だったのだ。
既に健太は疲労とストレスの両方が重なり、朦朧としていた。
寝不足が原因だったのだ。
公民館を脱出してから、一睡もしていなかった。
本当なら交代制の方がいいのだが…。
まだ、健太以外運転する機会がなかったのだ。
極力は車から出ないようにしていた。
何故なら、実奈や奈々子のような戦力外は足手まといだった。
酷いかもしれないが、公民館を出るときにかなりの危険にさらされたのだ。
それも、あの女子たちが遅いからだ。
弱いし。
見るからに弱そうだし、運動音痴なのは男達から見てもわかった。
偏見かもしれない。
だけど、そんな事を思わないようにしている。
仲間?なのだから。
仲間って、言ってもいいのかもわからないのだ。
健太や雄太とか純以外は全く協力していないのだ。
食料調達の時も、全てだ。
今だって、本当はこんな危ない外に出たくないけど生きるためには仕方ない。
何の為に連れてきたのか。
ただ、黙って見ているだけだ。
何の役に立たないし。
戦いもしないし。
この3人は同じことをずっと思っていた。
あの女子は一体‥‥‥‥。
極力は考えないようにしている。
だけど、俺達が一生懸命に探索しているのに…。
手伝いぐらいしろよ…。
そう思っていたのだ。
時刻は午後7:41分だった。
「ああ…疲れた‥‥この運動公園広すぎ」
「ホント、それな」
「よし休憩しようか」
「わかったけど、何処で休む?」
「あの家で休憩しよう」
そう健太が言うと、田んぼにポツンとある民家に休憩することにした。
近くの民家へと向かった。
ずっと、公民館で座ってたりして運動不足だった。
なので簡単に疲れてしまった。
部活をやっていた時は、力が有り余っていたのに。
今では公民館で、ストレッチくらいしとけば良かったなと思っていた。
少し後悔だった。
道路の片隅には、死体が放置されていた。
その、死体が感染者なのか、人間の死体なのかはわからない。
近寄りたくもないし。
黙って見過ごした。
田んぼにも、死体が浮いていた。
例えるなら、この世界は死臭溢れる地球とでも言うのか。
何処へ行っても、感染者か死体だけだ。
まともな奴はいなかった。
地獄のような世界で殺して、生きて…。
元の世界は何が良かったのか、悪かったのか?
世界が普通だった頃は、簡単に何でも食べられて感染者がいないのが平和が日常の一部だったのだ。
当たり前だと思っていた。
菓子を食いながらゾンビ系の映画を見ていた自分が羨ましい。
バイトや小遣いをして、コンビニで買い食いしてたこと。
それが、どのくらいに幸せだったか。
今の自分には出来なかった。
出来る事ならば、平和だった頃に戻りたかった。
そう、悲痛な願いが通る事はないだろう。
じわじわと秩序や文明が崩壊していく世の中を見ていくのだ。
そして、民家の目の前に着いた。
敷地内は全てブロック塀がある。
玄関先に行くと…。
ベランダは板でバリケードが築かれていた。
それに、庭に侵入できないようにタイヤや木製の板などで封鎖されていた。
完全に孤立していたのだろうか。
しかし、車は停まっていなかった。
一応家の住人が留守か確認をするために声をかける。
声は小さく。
「すみませ~ん…誰かいますかァ?」
返事は返ってこなかった。
玄関ドアをノックするがへんじはないらしい。
インターホンを押しても何の変化もなし。
「誰もいないらしい…よし、休憩させてもらうか」
「OK、健太入るか」
純がドアを開けようとするが…。
「クソッ、開かねぇ」
「マジかよ、鍵掛かってるのかよ」
「…そうだ、庭から侵入するか」
「そうだな、下手にぶっ壊してもな…」
健太は最初にバリケードをよじ登った。
同じように、純や雄太も登った。
庭に侵入すると、テラスが目の前にあった。
健太は直ぐにガラス張りの引き戸に手を掛けた。
すると、簡単に開いてしまった。
つまりは、鍵が掛かっていなかったのだ。
庭に侵入できないようにしようとバリケードを設置しても、鍵が掛かってなければなぁ。
意味はないけど、助かったのだ。
でもまだ油断は出来ないのだ。
もしかしたら、家の中に感染者が潜んでるかもしれないから。
「鍵が掛かっていなかった」
「本当か…助かったぜ」
そう言うと、健太が土足で侵入した。
健太を見て雄太と純が驚いていた。
普通に土足で家に入っているのだ‥‥。
自分たちも普通に不法侵入しているけど。
でも一応、最低限のマナーは守りたい。
「おい‥健太、土足で入るなよ」
「………今の時代はそんなこと言ってらんないぜ」
「は?」
「いつ、感染者に襲われても変じゃないんだぞ土足の方がいいだろ」
「ッ‥‥」
言ってる事は確かに正論だ。
だけど、人としての最低限のマナーは守りたい。
そんなことが通用しない世界だから、厄介なのかもしれない。
健太の言うとおりに土足で侵入した。
何の抵抗もなく、土足は凄い。
雄太と純は少しは抵抗があったのだった。
すると、健太がこう言う……。
「学校と同じだ」
「え?」
「学校だって靴だろ、同じようなものさ」
「そうかなぁ」
侵入した場所はリビングだった。
テーブルにはラジオや缶詰が乱雑に置かれたままだった。
それに、テーブルの前に設置されていたソファーにも、毛布がそのままになっていた。
明らかに急いで家から出ていったことが直ぐに分かった。
目の前が運動公園だからなのか……真意は分からないままだろう。
純がテーブルに置かれたままの、懐中電灯を通学カバンの中へと入れた。
物資の調達も欠かせないのだから。
雄太がリビングの電気を点けた。
電気が点いていなかったから、暗かったが電気を点けたから明るくなったのだ。
雄太はテレビの隣に設置されたキャビネットを漁り始めた。
引き出しを開けると、ガムテープやドライバーが入っていた。
他の引き出しも開けてみると開封されていない乾電池とかもあった。
それに、絆創膏やケガ用の消毒液などが入っていた。
医薬品も意外とあったのだ。
健太は、キッチンに向かった。
リビングと隣なのだ。
キッチンに入ると、まずは吊戸棚から探索開始だ。
吊戸棚には、紙パックの野菜ジュースがあった。
意外と紙パック野菜ジュースやフルーツ缶とかがあった。
電気があっても、ずっと放置なので絶対にヤバいだろ。
なので冷蔵庫は開けたくなかった。
純は、リビングを離れて足音を立てずに二階へと向かった。
階段をなるべく足音を立てずに、歩いた。
二階に感染者がいるかもしれないからだった。
そして二階に着くと、2部屋あった。
まずは階段に近い部屋から入った。
部屋を開けると…。
一目でわかったが、制服が掛けてあった。
それでこの部屋は学生だとわかった。
妙に何か懐かしい気がするのだ。
もしかしたら、自分の部屋の雰囲気な気がするのだ。
そのまま進むと、ベットの右隣に勉強机があった。
勉強机には、高校生の教科書や問題集があったのだ。
デスクスタンドも置いてあってペンスタンドもあった。
ペンスタンドはシャーペンや鉛筆がたくさん入っていた。
それに、ブックスタンドには教科書などがあった。
ブックスタンドには問題集があった。
つい、問題集を見たくて一冊取り出した。
すると、ひらりと何かが落ちた。
一度、問題集を置いて落ちた何かを拾った。
拾ってみると‥‥。
「…何だろう、手紙か?」
それは、何かの封筒だった。
既に開封されてあった。
気になって、封筒の中身を出してみた。
取り出すと、やっぱり手紙が入っていたのだ。
読んでみると……。
『Happy Birthday‼ 浩人‼‼
浩人が大好きな腕時計しました。
よかったら使ってね!
浩人と出会えて本当に良かった!
これからも一緒に居ようね。
緩奈より』
「‥‥」
純は黙ったままだった。
幸せそうなカップルなのだ。
どこにでもいる。
けど、今は生きているかはわからないけど。
何か大切何かを忘れてしまった気がする。
ウィルスが蔓延する前の世界での…何かを…。
平和で幸せな世界だったことがわかるのだ。
この手紙からは。
純は、何かを悟った。
ウィルスが蔓延する、過去の世界は本当に良かったのか?
皆が過去の世界が本当に良かったと。
それは事実なのか?
誰もが、時間という概念に追われて生きていく。
社会に飲み込まれて飲み込まれて消えていく人間はどのくらいいたのだろう。
目に見えない、何かに脅されて飲まれていく。
それが本当に幸せなのか?
人間は誰かを排除していかないといけない生き物かもしれない。
自分が優位になりたくて他人を蹴散らして上に立とうとしても誰かに蹴散らす。
そもそもが、地球上の生物は何度か消えては新たに生まれるのを繰り返していた。
人類が地球上から絶滅しても何も変じゃないのだ。
そうやって地球は成り立ってきたのだから。
やっぱり、人間は絶滅するのかなぁ…。
そう思う純だった。
純は、手紙をそっと置いた。
そして勉強机の引き出しを何か物資があるかと探し始めた。
引き出しには、特によさそうな物は大してなかった。
だけど、ハサミだけは貰った。
クローゼットはタオルケットがあった。
他には、乾電池とかを拝借した。
そして、部屋から出ていった。
静かに扉を閉めた。
そして、隣の部屋も探索することにしたのだ。
隣の部屋は、明らかに女子の部屋だった。
何というか、可愛い感じの部屋だ。
例えるなら、ラグとか少しピンクに近い色だし。
部屋の中に入ると、テーブルに未開封のポテトチップスがあった。
「へへ…やったぜ」
嬉しそうにポテトチップスを通学カバンに入れた。
別に女子のだからというのは関係がない。
普通に考えて、そういう趣味はしていないのだから。
ただ単に、久しぶりの高カロリーな物を見つけて嬉しかっただけだ。
少し探したが、他には食品はなかった。
ハサミとかの文房具だけだ。
特にハサミとかは近接武器とかに使えそうだからだ。
あまり良いものがなかったから、部屋を出て一階へと戻った。
何度も言うが、電気が通っていて本当に助かるのだ。
暗闇での探索はかなり危険だからだ。
感染者の動きの把握が難しいから。
でも、電力供給が停止したらもう探索は難しいだろうな。
純はリビングに戻ると、健太がソファーで寝ていた。
そして、純がテレビを見ていた。
「おう、二階に行ってたのか?」
「大して良いものなかった」
「そっか」
「健太寝ているな」
「少しくらい眠りたいってさ」
「確かに」
健太はずっと、不眠不休で運転していたのだ。
そして、やっと取れた睡眠でもあったのだった‥‥。