十一話 孤独な夜
中学一年生の冬休みの事だった。
父親は酒を昼間からでも飲み、もはや昔の父親の面影もなかった。
清潔感あった家は、ゴミ屋敷になっていた。
兄は優しいお兄さんから、冷たいお兄さんになっていた。
家事も手伝いもしないで翔太に任せていた。
洗濯物も翔太が全てしていた。
母親は家事もやらないで仕事とか言ってやらない。
料理もしないのだ。
その、意味不明な理屈も慣れた。
母親に対する愛情もないのだ。
だから文句も言わない。
何故なら、兄は市内で一番頭の良い高校に行くのだ。
それで、兄の事を優先するらしい。
じゃあ、翔太はどうなるんだ?
受験に忙しくても、全て翔太に任せる道理はあるのか?
だからこの家に居るのは、他人だ。
矛盾した母親と、アルコール依存症の父親だ。
狂ってるんだ、狂ってる…。
翔太が嫌いだったのは、母親だ。
家事もしないで、兄の面倒しか見ない母親だ。
それだけは、頭の片隅に怒りとして蓄積されていた。
だが、その怒りもいつかは爆発する。
それは大晦日だった。
リビングの掃除はしているから、ある程度は奇麗なのだ。
母親が珍しく家に居たのだ。
兄もリビングに居て、テレビを見ていた。
翔太は、父親の散らかした食器を洗っていた。
給湯機を点けていたが、手が荒れていた。
だが、母親はテレビを見て笑っている。
父親はもう寝ていた。
母親だって、ストレスが溜まっているはずだ。
だが料理や基本的な家事はしてほしい。
いや、一般世間の母親は家事をしている。
朝の朝食の用意だってしてくればいいのに‥‥。
そんなことを思いながら皿を洗い流す。
すると、母親がとんでもないことを言ったのだ…!
「ねぇ、翔太年越しそば作ってよ」
その一言を聞いた瞬間に何かが切れた音がした。
もしかしたら幻聴かもしれないが、今までにない怒りが込み上げてきた。
瞬時に理解して、顔を真っ赤にした。
それは、翔太にとって初めて本気で怒ったのだ。
利き手の右手に持っていたスポンジを思いっきり床に投げつけた。
泡と水が飛び散って壁に着いた。
「きゃあ!!!」
「うぉっ!?」
母親が驚いた顔をしていた。
兄も、突拍子もなく起きた出来事に驚いていた。
翔太は顔を真っ赤にして、息を荒くしていた。
鋭い眼光が母親に向けらる。
その目つきは、強い怒りと殺気が感じ取れたのだ。
息が乱れていた。
それに、鬼のような形相をしていて恐ろしい顔をしていた。
実の親にここまで怒ったのは、初めてだった。
数十秒間の間は無言の圧があった。
水は出しぱっなしで、翔太の手は洗剤が付いていた。
手は握りこぶしだ。
そして翔太が、今までにないほど叫んだ。
「ふざけんなァ!!!!!!」
拡声器で叫んだ位の声の大きさに圧倒された。
思わず、母親の持っていたリモコンが落ちたのだ。
「お前らの奴隷じゃねぇんだよっ!!!!!」
そう言うと、コートとリュックと財布を持って玄関に向かった。
靴を履いて外に飛び出した。
外は雪が舞っていた。
息が白い。
だが怒ったせいか体が熱い…。
歩きながらコートを着てリュックも背負う。
ポケットに財布を入れて大晦日の住宅街を歩いた。
何処の家も明かりが灯っていた。
閑静な住宅街の道を翔太だけが歩いていた。
気が付けば涙を流していた。
悲しみと怒りが混ざった複雑な心境だったのだ。
すると、家から楽しそうな声が聞こえてきた。
その声を聴いた瞬間に、走った。
住宅街から、逃げるように走って、走って。
体力がなくなると、そこは家から離れた駅前だった。
昼間のように明るかった。
多くの人が笑顔で翔太の横を通り抜ける。
その時の翔太は、放心状態だった。
考えなしに歩いていた。
カップルがたくさんいたりして…。
歩き疲れて、24時間営業のファーストフード店に入った。
全国展開しているハンバーガー店だ。
中に入ると、年末なのか賑わいを見せていた。
中学生が一人だけなのは異様な光景だった。
カウンター席に座った。
すると、店員がやってきた。
「いらっしゃいませーご注文は?」
「‥‥チーズバーガーセットで‥‥」
「かしこまりましたー」
腹も減っていないが、注文した。
財布の中身は4000円だった。
数十分すると、ハンバーガーを持ってきた。
ハンバーガーを食べた。
久しぶりの外食だ。
「美味しい…」
ひたすらに、ハンバーガーを食べた。
食べ終わると、レジカウンターに行って支払いを済ませた。
店内時計を見てみれば、もう新年を迎えていた。
一時間も経っていたのだ。
外に出ると、盛り上がっていた。
歓喜の声を聴きながら、自宅に戻ることにした。
流石に寝ているだろう。
翔太がいなくなっても、気にしないのだ。
そういう、人だから。
家の前に着いた。
灯りが点いていたから、まだ起きているのだろう。
鍵は掛かっていなかった。
玄関を開けると、テレビの音が聞こえた。
靴を脱いで、二階の自室に向かうことにする。
すると、母親がリビングから出てきた。
「翔太…」
「‥‥」
母親のことを無視して二階へと向かうが…。
腕を掴まれてしまった。
「‥‥お母さんね、実は…」
「‥‥離して…」
「だけど、聞いて…」
腕を離さないことに、イラついて。
母親を押し倒した。
「きゃっ…‼」
「言い訳何て聞きたくない、だったら母親らしいことしてみろよ!!」
また、叫んでしまった。
母親は震えて、泣いていた。
別に暴力を振るうつもりは、なかったのに。
大声を出し過ぎて、喉が痛かった。
もう、休ませてくれ。
そう思いながら二階へと上がっていった。
自室に入って、ベットに倒れた。
そして後悔の念が襲った。
「何で、あんなことしたんだろう」
母親を泣かせたことは、初めてだった。
そして、暴力を振るったのも初めてだった。
こんなにも人を悲しませるなんて。
最悪だ…。
自分が、最低最悪の人間だ…。
年末年始から、最悪な一日となっていた。
―――――気が付くと水が出したままだった。
そうだ、今は皿を洗っていたんだった。
急いで食器を洗い始めた。
皿も洗い終わって、一息ついた。
いろんなことを考えてしまったのだ。
嫌なことばっかりだなァ‥。
低反発のソファーに座った。
テレビをまた見始めた。
気が付けばもう、午後10時だった。
DVDも終わってテレビも消した。
もう飽きたのだ。
しかし、全然眠くなかった。
なので…。
「散歩でも行こうかな…」
散歩と言っても、ショッピングモールの中をただ徘徊するだけだ。
それだけで以外に、運動になるのだ。
買い物もしたりするのだ。
以外に楽しんだりするのだ……。
ラフな格好で拠点を出ていったのだ。
エレベーターを降りると、店内音楽が聞こえてきた。
本当だったら、賑やかだったのに…なァ。
そう思うと、生きた人間が歩き回っていたのだ。
凄いなぁ…。
何十億の人間がこの惑星に蔓延っていたのだ。
人間はどんな状況でもなんとかして生き残っていた。
だけど、誰も止めることが出来なかった。
いや‥‥これは不可能なんだ。
誰も助からない。
つまり。
バットエンドだ。
もしも神がいるなら天罰だ。
そりゃあ、人間は極悪非道と言っても過言ではない。
何故なら地球という惑星の人間は同種族同士殺して、動物も殺す。
それは娯楽のためだ。
動物虐待なのだ。
面白おかしく殴り殺すのが常習化していた。
地球も破壊しつくして、挙句の果てには地球すらも汚して。
人間とは面を被った生き物。
自分を隠して、他人に良く見せて生きる。
極端すぎるが、よく考えたらそうだよ。
こんな極限状態で緩い感じで生活なんて。
希望も夢もない。
ただ、死を迎えるなんて。
怖いのか?
‥‥‥翔太の頭の中で、自問自答が進んでいく。
誰も答えを教えないクイズだ。
放心状態でゆっくりと歩いていく…。
考え事…考え事…考え事…考え事…考え事…。
絶望という希望…。
もしかしたら、感染者の仲間になった方がいいのかもしれない。
どうだろう?名案かな?
こんな暗い雰囲気なクラスとか家とか。
頭おかしいのかな?
「どうだろうwww?」
この孤独さは一生紛らわせないだろう…。
永遠に…。