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高校でクラスメイトだった彼女が妊娠したらしいから産婦人科について行った話、もちろんヤった相手は俺じゃない  作者: 櫛名田慎吾
③ 先輩の彼女を好きになったってどうしようもないんだ、って思ってた。
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第12話 夜のドライブ

◇  ◇  ◇


 六甲山に登る道は、再度山ふたたびさんの方から登ってウネウネと六甲山系の山道を横に向かうルートと、表六甲ドライブウェイの麓までは平野部を通って行くルートと、さらにその先には芦有道路を通って東から登るルートなどがあった。


 久保井さんと僕はよく再度山から六甲山までドライブをした。といっても本気の走り屋なんかじゃなくて、ただ単に()()()()()()()()()()、をしただけだ。


 でも今日はさっきまで雨も降っていたし、滑って事故を起こしても大変なので、一番オーソドックスな表六甲ドライブウェイを走ることにした。お酒に酔っている涼子さんが山道の連続で気持ち悪くなっても困る、という不安も少しはあった。


 雨上がりの土曜の夜。街を走る車も多く、そんなにスイスイとは六甲山の麓までは進まなかった。繁華街の側を抜けるたびに、街に繰り出しているグループを見かける。みんな楽しそうに笑っているのを見て、僕はなぜか胸の奥が痛くなった。理由は車に乗ってから涼子さんがあまり喋らなくなったから。多分、カラオケでは発散できなかった何かがあるのだろうと、僕は簡単に思いついた。そしてそれは十中八九で久保井さんのことだろうと予想していた。


 久保井さんと僕、そして涼子さんの三人で六甲山に登ったことは二回だったか、三回だったか。とにかく夜景を見に行ったことも一回はあった。


 けれど助手席に涼子さんを乗せて二人で六甲山に夜景を見に行くなんて、もちろん初めてだった。


「宮本さん、気持ち悪くないですか?」


 まだ深夜と呼ぶには早い時間で、この時間帯はガンガン飛ばす車も少ない。僕はできるだけゆっくりと山道を走って、後続車が速かったらハザードを出して道を譲った。


「え? うん、全然大丈夫やから」


 涼子さんは僕の呼びかけにそれだけ答えて、また真っ暗な窓の外を見始める。


 カーステレオのラジオからは野球中継が流れていたけれど、僕はどっちのチームが勝っているのかさえ頭に入ってはいなかった。


 気まずい雰囲気、というほどでは無いにしても、妙な雰囲気のままで車は山道を登っていく。山頂付近に近づくにつれて対向車も多くなり、やがて六甲ガーデンテラスの駐車場に入る手前では、ちょっとした駐車場待ちの渋滞になっていた。


 △


 ようやく駐車場に停めて車のドアを開けると、外は下界に比べて少し気温差があった。僕は車に置きっぱなしの上着があったけれど、涼子さんは何も持っていない。


「宮本さん、これこれ」


 僕は後部座席に畳んでいたタオルケットを取って、涼子さんに手渡した。


「ありがとう、ホンマに和田君は気が利くわ」


 タオルケットを受け取りニッコリと涼子さんは笑った。でも僕にはその笑い顔からやっぱり憂いの感情を読み取ってしまって、重たい気分に拍車がかかった。


「あそこやんな……、テラス」


 涼子さんが展望テラスの方を指さす。


「そうです、でもなんか煙ってますね、下の方」


 雲は晴れたとはいっても湿度は多い。山腹でガスっているようだと、夜景あんまり綺麗には見えないと思った。


 △


「ああ、やっぱりちょっと見えにくいですね」


 展望テラスから見下ろすと、下界にはもやのようなものが掛かっていて期待したほど綺麗な夜景は見えなかった。


 山からの夜景はやっぱり冬だ。澄んだ空気を通してキラキラと輝く光の帯が本当に綺麗に見えるのは、気温も湿度も下がった冬だった。


「ホンマやな……、アカンな」


 残念なことなのに、涼子さんの口調からはそれほど残念そうな感じが伝わってこない。ただ少し首を傾けて、残念なポーズをとっただけのように僕には見えた。


 僕の渡したタオルケットをショールのように肩に掛けて、涼子さんはしばらくガスの掛かった視界の先を眺めていた。遠くの方に見えるのは大阪で、さらにその先には泉南に続く光の帯が曲がって続いている。けれどどれもハッキリとは見えず、ぼやっとした磨りガラス越しに見た光源のようだった。


「和田君……」


 突然涼子さんが前を向いたままで口を開いた。そしてそのまま深いため息をつく。


「はい」


 僕はただ返事をする。無機質すぎる返事をする。


「和田君、優しいな」


 くるり、とテラスの柵に背を向けて涼子さんがこちらを向いた。その両手はタオルケットの両端をギュッと掴んでいるだけだったけれど、まるで舞台女優みたいだと僕は思ってしまった。


「優しい……、ですか?」


 やっぱり僕は無機質すぎる返事しかできない。


「うん、このタオルケットも、今日の私のわがままを聞いてくれたことも……、それから、いま黙ってくれてることも……かな」


「だって、宮本さんの頼み事ですもん。当たり前ですって」


 僕はあえて涼子さんの言葉の前半の部分だけに反応した。後半の部分には……、なにも言い返せなかった。黙っていたのは、涼子さんに対する優しさだけじゃなくて、半分以上は自分の保身だったからだ。


「あっ、またキザなこと言うた」


 涼子さんがほんの少しだけ笑った。笑ったのは笑ったのだけれど、すぐにその笑顔はスウッと消えて、視線が左下の方へと下がっていく。


 そこには何もないとは分かっていても、僕もつられて視線を下げた。


「あんな、和田君」


「はい」


 お互いに、視線が下がったままで会話を始めた。僕には涼子さんが履いているスニーカーとジーンズしか見えない。


「私……、たぶん、久保井さんとはもうアカンのかなあ、って思ってるんや」


 涼子さんの言い出したことは、僕の予想通りだった。


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